ついに、その日が来てしまったと――名前だけが直感していた。
――Sorbe e Gelato
二年前の、あの日。
「じゃあ、いってくるね〜」
「行ってくる」
変わらない夏の夜。
これから仕事なのか、玄関へ立つソルベとジェラート。
いつも通りに隣り合わせ。
そんな二人の前で、名前はこれでもかと言うほど深刻な顔をしていた。
――なんだか、とても……嫌な予感がする。
原作で見たあの惨劇は、確か≪二年前≫のはずだ。
それがいつか――わからないこそ、怖い。
「ん? 名前、どうかした?」
「……体調が悪いのか?」
「! い、いえっ……ただ」
「「ただ?」」
顔を見合わせてから、彼らがこちらを窺う。
――原作での出来事は言えない……でも。
変えることはできる、はず。
「あの……今日は私も、連れて行ってもらえませんか?」
「「……は?」」
何を言い出すのだ。
そんな視線が彼女を突き刺すが、名前にも譲れないものがある。
――変えるためには……引き留めるしかない。
「ねえ、名前? それ、本気で言ってる? 冗談だよね?」
「……いいえ、本気です」
「名前。バカなことは考えるな。俺たちの仕事がどんなものか、わからないままここで生活していたわけじゃないんだろう?」
「ッ、もちろんです。でも……だからこそ、行かせてほしいんです!」
臆することなくソルベとジェラートを見上げる。
少女の瞳が示す≪本気≫に、いったいどうしたのかと戸惑うが、二人も彼女を危険に晒すわけにはいかないのだ。
「……ダメ。ダメだよ、今日はダメ」
「! ジェラートさん……」
≪今日は≫――その言葉に、膨らむ不安。
――そんな……このままじゃ、私はまた何もできないの?
静かに俯き、黙り込んでしまった名前に、ジェラートはぽつりと呟く。
「ごめんね……ソルベ、行こう」
「ああ……必ず帰る」
自分の頭に優しく置かれた、ソルベの温かい手が離れていく。
少女は二つの背を見送ることもできずに、ただ≪自身にできること≫を必死に探していた。
――二人はきっと……仕事帰りに探ってしまう。
――それを直前に止めるには……。
――私が≪今追えばいい≫。
「ッ!」
次の瞬間、名前は玄関に一枚のメモを残して、外へ飛び出していた。
「ふう……終わったね」
「そうだな」
深夜。
いつもの仕事を終えた二人は、ある場所へと歩き出していた。
目的はただ一つ。
自分たちの組織『パッショーネ』のボスの正体を、突き止めること。
≪探り≫はすでに始めていたのだ。
しかし――
「ここまで徹底的に消せるものなんだな、過去って」
「……ああ」
見つけることは困難に等しい。
だからこそ、情報屋を頼るしかなかったのだ。
「……そういえば、なんだか街が騒がしくない?」
「いくつかの足音が、聞こえるな」
駆けていく数多のそれに警戒をしつつも、彼らは路地裏から出ようと足を踏み出した、が。
「「!?」」
突如、背後から何かに引っ張られた。
「よ、よかった……!」
「……名前!? 君、こんなとこで何して――」
「ダメです。今は、喋らないでください」
修道服が暗闇に紛れて、一瞬判断が鈍ってしまったが――自分たちを引き留めたのは、正真正銘暮らしをともにする名前だった。
しかし、彼女がここへ来た理由がわからず、ましてや今の行動の意図が読めない。
「……ここは危険ですから、少しこちらへ」
「どういうこと? むしろ危険なのは名前じゃ――」
「ジェラート、今はこの子に従おう」
ソルベの一声に黙り込む隣の彼。
それを見て安心した少女は、二人を路地裏へと導いた。
「……ごめんなさい、いきなり」
「ほんとだよ……」
「理由を聞いても、いいな?」
足音すらも聞こえなくなった場所で、名前は先程見た光景を話し始める。
「……怪しい男性たちが、街中を駆け回っていました。その中には……スタンドをともに連れている人も」
「え? それって、まさか……」
「≪組織≫か」
だが、なぜ。
わけもわからず互いを見つめる彼らに、少女は確信に近い≪予測≫を告げる。
「あの人たちは言っていました。≪裏切り者を見つけ出せ≫と」
「「!」」
「……心当たり、あるんですよね?」
裏切りではない――だが、白かと聞かれればどう答えていいかわからない。
そして、アジトへ戻れる保障もまったくない。
息を詰まらせるソルベとジェラート。
「……ソルベさん、ジェラートさん」
「一つだけ。今、一つだけ……私の願いを聞いていただけませんか?」
周りを支配する静寂を突き破るように、名前は≪ある案≫を口にした。
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