uno


「本当に……本当に、いいんだな?」


「……はい。大丈夫ですから……ね?」



神妙な顔のリゾットと名前。


二人が会話する場所は――




「あの、リゾットさん? そろそろ私、出なきゃ……」


「ダメだ。確認が終わらなくては、名前の外出は認められない」


「えっ!? そんな……」


アジトの玄関。


腕を組み、仁王立ちする男を前に、少女はただ困惑するばかり。



空を灰色の雲が覆うその日。

名前はある場所へ向かおうと、朝から準備していた。


しかし、それをリゾットに見つけられたことで、かなり時間が経ってしまっていたのである。



――もう三時だ……急がないと。


一方、名前のことが心配でたまらない彼は、おもむろに口を開き≪確認≫を始める。




「……名前。日傘は持ったのか?」


「は、はい。リゾットさんが購入してくださった、UVカットを徹底的に追求した傘は持ちました」


「いい子だ。では……サングラスは?」


「……それもカバンに入れています」


「手袋は……ちゃんとつけているな」


「も……もちろんです」


「……やはり、オレも一緒に――」





「おい、リゾット! いい加減にしねえと、本当に名前が朝帰りになっちまうぞッ!」



淡々と言葉を紡ぐ男に対し、ついに痺れを切らしたプロシュートが半ギレの状態で叫ぶ。


ちなみに、リゾットの≪確認≫はこれで五度目であり、少女も涙目になってしまっている。



しかし、それで簡単に引き下がるほど、この暗殺チームのリーダーも甘くない(むしろ、名前の表情を見てときめいていた)。



「朝帰り……だとッ!? ……ダメだ、そのような怪しい響きの中に名前を送り込めるはずがない! やはり今日はやめ――」


「……ザ・グレイトフル・デッド」


「!? ぐあ……ッ」


「りっ、リゾットさん!?」


突如崩れ落ちる男。


その後ろには、己のスタンドを出したプロシュートの姿があった。



もちろん、『直触り』である。



「名前! この過保護な野郎はオレに任せろ」


「……で、でも」



足止めされたとしてもさすがに心配なのか、リゾットと玄関へ交互に視線を向ける少女に、男がにやりとした笑みを見せた。


「早く行かねえと、たぶんどこまでも追いかけてくるぜ? リゾットの奴は」


「! いってきますっ」



気が付けば、名前はアジトを飛び出していた。



「……ッ、名前……!」


ガクッ


「はあああ。おい、ギアッチョ! お前の氷で≪ゆっくり≫元へ戻してやれッ!」


その頃、とうとう屍のように動かなくなったリゾットを見下ろし、苦笑したプロシュートはあからさまにため息を吐き出すのだった。










「ここ……かな?」


コツン。ブーツが地面の砂利を掠め、小さな音を立てる。


周りをゆっくりと見回しながら、名前が足を踏み入れたのは、冷たい風が吹き抜けていく農村。


そして、ふと視界に映った廃家へと、迷いの一切ない瞳で彼女は歩き始めた。




「……」


コンコン、コン


できるだけ静かに、だがしっかりと扉をノックする。



「……」


相手から反応はないが、予想はしていた。



全身を支配する緊張を解すために深呼吸した名前は、そっと掴むドアノブを押した。


キィィィ



「……お邪魔、します」


不法侵入であることは、理解している。






しかし、少女にも≪時間≫がないのだ。


大切な人たちのことを思い浮かべ、足を一歩踏み出した次の瞬間――






「ッ」


「…………誰だ」


人の気配と、差し向けられる鋭い刃先。


それは今にも己の喉を貫かんとしている。




だが、なぜか恐怖ではなく笑みを顔に浮かべている、名前。


その相変わらず誇り高い≪銀≫に、ホッとしたのだ。





「元気そうで、よかったです」


「……」


「十二年って……本当に早いんですね。私、正直驚いています」


「! 十二年……?」




≪十二年≫。


彼女が紡ぎ出す数字を耳にして、大きく目を見開く男。







「……まさか、お前は……」


「ふふ、やっと気づいていただけましたか? ……お久しぶりです」









「――ポルナレフさん」




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