somma 〜14〜

※睡眠不足2(リゾット)
※妙に切なめ



ソルベとジェラートの間で眠らせてもらっていた、次の日。


「ふ、わあ〜……」


「あれっ? 名前、どうしたの? もしかして、寝不足?」


ソファで小さなあくびを噛みしめる名前の隣に、メローネが座る。


「あ、メローネさん……はい、昼寝は気持ちいいんですけど夜に眠れなくて……ふああ」


会話をしている間にも続く、彼女のあくび。


刹那、男の脳内に浮かぶのはある可能性のみ。



「ベネ! そっかそっかあ……名前、眠れないんじゃなくて≪寝かせてもらえない≫んだね!?」


「へ? どういうことですか?」


「しらばっくれても無駄だぜ! リーダーを想って一人でシたのか、それともリーダーと一線を越えグボハァッ!?」


それは突然だった。


嬉しさのあまり、ぺらぺらと話し続けていたメローネの口から飛び出すのは、カミソリの刃。


「えッ……だ、大丈夫ですか!?」


「名前、メローネは思っている以上にタフだ。気にしなくていい」


「あ、リゾットさん……おかえりなさい!」


想像はしていたが――やはり、攻撃をしかけていたのはリゾットだった。


メタリカ発動の理由もわからず、名前が真顔の彼を凝視していると、隣でゴドンという嫌な音がした。


メローネ、再起不能。



「め、メローネさん!!」


テーブルへ頭をぶつけたことで、意識を失ったらしい。


そのなんとも言えない恐ろしさに、少女が慌てて揺さぶろうとするが、彼女の白い手はリゾットに掴まれてしまった。


「大丈夫だ。じきに目を覚ます」


「……そう、ですか?」


「ああ。……それより、名前。寝不足なんて聞いてないぞ」


すでに、男はチームメイトのことを≪それより≫扱いしているが、彼に鋭く見下ろされた名前はそれどころではない。



「えっと……それは、その」


「確かに、目の下にクマができているようだな」


「っん……こしょばい、です」



そっと目元をなでられ、ピクリと肩を震わす名前。


彼女の反応ににやけそうになるが、なんとか唇を一文字に引き締めて、当たってほしくない予想を口にする。


「ここ数日、オレはアジトを空けていたが……まさかそれと関係があるのか?」


「!」


なんて自意識過剰だと、リゾットは自身を心の中で叱咤していたが、どうやら当たってしまったらしい。



「実は……イルーゾォさんの部屋で寝ること(somma 〜11〜参照)をリゾットさんに禁止されて以来、あまり眠れないんです」


そう。イルーゾォへ制裁を加えたリゾットは、名前に他の部屋へ行くこと(特に夜)を長い説教の中で禁じたのだ。


一方、禁止という事実は気にしていなかったものの、彼が最近よくアジトを空けていたことで、名前は一人でベッドに入る日々。


要するに、恥ずかしくてはっきりとは言えないが、寂しいのだ。


――昔は、そんなこと一度もなかったのに……。


慣れとは恐ろしいものである。


いや、慣れとは違う≪感情≫が彼女の心を掠めているのかもしれない。


「これでも……ひつじさんを数えてみたり、白い枕をメタリカちゃんだと思って抱きしめたり、努力はしたんですけど……眠れなくて」


「……(なんだそれは、可愛すぎるぞ)。おそらく、慢性的な睡眠不足なのだろう。今日はできるだけ早く寝た方がいい」


「はい……」


優しく頭をなでれば、なぜか不安そうに瞳を揺らす名前。











彼女がどうして、そのような表情をしたのか。


その答えを知るのは夜――リゾットが久しぶりに自分の部屋で、パソコンを触っているときだった。



カタ、カタカタカタ


室内に響く、キーボードを叩く音。


これでも、できるだけ小さな音で作業しているつもりだ。


しかし――


「……名前」


「う……ごめんなさい」


ベッドの方へ振り返れば、自分を見上げる紅い瞳と目が合ってしまった。


少女が抱えていた不安。

それは昼寝した分だけ夜が眠れない、という悪循環とも呼べるものだった。


しゅん、と小さくなった名前が諦めたように布団を被る。




だが、その数分後。


「リゾットさん……眠れません」


もう一度そちらを振り向くと、布団を両手で持ち、鼻から上だけを出している少女が見え、男の思考が停止する。


「……」


「……リゾット、さん?」


単刀直入に言おう。


名前のその動作が可愛すぎる。


正直、≪萌え≫を刺激されてしまったリゾットは理性的に危ういのだが――


もう短針は≪3≫へと傾きかけているのである。


これでは、彼女の明日にも差し支えてしまうだろう。



パタン、とパソコンを閉じた彼を見て、大きく目を見開く少女。


「い、いいんですか?」


「名前のことを放っておけるわけがない。それに……一人の夜を過ごしていたのは、オレも同じだ」


「! ……わっ」


二人では少し狭いようにも思うベッドへ入ったリゾットは、自分より幾分も小さな名前を衝動に従い、強く抱き寄せた。


――やはり、落ち着くな。


彼女とともにいるときにのみ現れる、この穏やかな気持ち。


いまだそれに名前を付けられぬまま、ここまで来てしまっているのだ。


「……眠れそうか?」


「は、い……リゾットさん、すごくあたたか、い……」


甘えるように胸元へ顔を寄せる名前。


その恥ずかしがり屋な彼女にしては珍しいともいえる行動に、身体の奥を支配する≪痺れ≫を感じながらも、男はそれを抑え付けようとしている自分に気がついた。




――……これを外せば、どうなる?


恐れているのは、≪何かが変わること≫か。


それとも、この腕の中にいる名前に嫌われてしまうことか。









――両方、なのかもしれない。



「……リゾット、さん……」


いつの間にか、考察に耽っていてしまったらしい。


「ん?」


自分を呼んだ少女に、小声で聞き返せば――








「ん……わた、し……リゾットさんが、いない、と…………」


「!」


「……すう、すう」



男に衝撃だけを残し、寝息を立て始めてしまった名前。



「……名前」


教えてくれ。君は……オレに、何を告げようとしたんだ?


その言葉を口に出さずに飲み込んだリゾットは、優しく少女の髪をなでることで、浮上するやるせない気持ちを奥へ押し込めた。











じれったい二人が書きたかったんです。




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