※湿気がある場所は要注意
「っきゃあああああああ!?」
名前の悲鳴が聞こえた瞬間、リゾットは自分の部屋から勢いよく飛び出していた。
「名前ッ! どうした!?」
「り、リゾットさん……っ」
キッチンへ足を踏み入れた彼が見たのは、珍しくお玉を手に床へ座り込む少女の姿。
どうやら、皆の制止も聞かずに料理をしようとしたらしい。
――だが、料理をする名前も……イイ。
今度エプロンでもプレゼントしようか――そんなことを考えつつ、男は名前に近付いた。
「大丈夫か? いったい――」
「〜〜ッ、リゾットさんー!!!」
悲鳴の理由を尋ねようとした刹那、彼女が自分の腰に抱きつく。
「(か、可愛い……)」
その柔らかさと愛らしさにくらりとしそうになりながらも、話を聞かねば始まらないので彼は優しく問いかけた。
「名前……ゆっくりでいい。何があったんだ?」
「っ、じ、実は……」
頭をなでるリゾットの手に安心したらしい。
落ち着きを取り戻した彼女が、静かに口を開いた。
「で……で、で」
「で?」
「で、でで出たんです! あ、アレが!!」
アレ?
連呼する代名詞に、首をかしげていた男が震える名前の肩に手を置こうとしたそのとき。
カサッ カサカサッ
「っ!? 〜〜! ッッ」
「名前!?」
声にならない声を上げ、リゾットの後ろへ瞬間移動した少女。
しかし、今の音のおかげで、彼女を脅かしていた≪犯人≫は特定できた。
「安心してくれ、名前。あのゴキ――」
「そっ、その名前はダメです!!」
「……あのGは仕留める、今すぐな」
――だが、Gにメタリカは効くのだろうか。
丸めた新聞紙や殺虫剤という選択肢を取らないあたり、リゾットは天然らしい。
それとも、名前を怯えさせた相手への報いとして、考えた上での『メタリカ』なのか。
その答えは、彼にしかわからない。
もちろん、男に対してツッコミを入れる気力も、今の少女にはない。
「(やってみる価値はある……)」
ロオオオドと鳴く自分のスタンドを思い浮かべ、小さく頷いたリゾットだったが、名前が近くにいては危ないかもしれない。
「(少しだけ、離れていてくれないか)」
そして、ちらりと後ろを一瞥し、彼女にアイコンタクトなるものをしてみた、が。
ギュウウウッ
「!?」
「い、いやです! 離れたく、ありません!」
左腕が抱きしめられる感覚と、ふるふると首を振りながらこちらを見上げる名前の潤んだ瞳。
さらに、彼女との意思疎通が成功した嬉しさゆえだろうか。
「……ぐッ」
バタンッ
「ぇ、えっ!? リゾットさん!? どうして鼻血が……だ、誰かー!?」
その後、慌てて駆けつけてくれたペッシのビーチ・ボーイによって、引き寄せられたGは何事もなく昇天させられた。
「ぺ、ペッシさん……ありがとうございます!」
「い、いや! オレはただ思いつきでやっただけで……」
「いいえ、それがペッシさんの力なんです! 本当に、本当に助かりました!」
狼狽える男の両手を強く握り、微笑む名前。
その花が咲いたような笑顔に、ペッシはこれでもかと言うほど顔を真っ赤にしていた。
〜それを見ていた仲間たち〜
ジ「ちょっと……プロシュート、泣かなくてもいいんじゃない?」
プ「う、うるせえ! 弟分の成長にオレが泣かなくて、誰が泣くんだッ!」
ソ「まあ……成長と言うべきか、微妙なところだがな」
メ「ねえ、リーダー完全に忘れられてるよね? つ・ま・り! 寝ているリーダーに何をしても、バレな――」
ギ「テメーは黙ってろッ! 大体よオ……リゾットも、何がどうなればこんな惨状になるんだよオオオッ!?」
イ「まあ、大方予想はつくけどね……どうしよう、この血まみれリーダー」
ホ「そっとしといてやれよ。少し経てば、名前の声ですぐ起きんだろ」
ホルマジオの宣言通りになるまで、あと――
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