somma 〜11〜

※大嵐が来た日(イルーゾォ寄り)



轟かせる雷鳴と叩きつけるような風、そして鋭く落ちていく雨粒。


その音を聞きながら、名前は一人ベッドにいた。




「うう……リゾットさん、大丈夫かな」


ぽつりと呟き、ため息。

いつも自分を抱き込む彼は、今日に限って複雑な仕事を受け持っていた。



「リゾットさん、今晩大嵐らしいですから、その……」


「名前、心配するな」


「で、でも!」


「それより……今日はかなり遅くなる。だから、もしオレが帰ったとき、名前がまだ起きていたら……」


「起きていたら……?」


「……お仕置き、をするからな」


「えッ」


「行ってくる」


という縁起でもない会話をした名前は、時計の短針が≪12≫を指す前には渋々ベッドへ潜りこんだのだ、が。




「……眠れない」


名前は、雷が怖いという感情を別に持ち合わせていない。

というより、吸血鬼となり違う恐怖を得てしまったことから、どこかに置いてきたのかもしれない。



もちろん、リゾットにもそれを何度も伝えているのだが、雷の鳴る日はなぜかいつも以上に強く抱き込まれてしまう。


だから、決して怖いわけではないのだ。




ただ――



「リゾットさんが、いないのは……寂しい」


心配などいらないに決まっているが、してしまうのが複雑なところ。


ホットミルクでも飲んで、落ち着こう。


ガバリと勢いよくベッドから起き上がった名前は、気を紛らわすようにリビングへ走った。










相変わらず、外は大荒れのようだ。


ソファに腰かけ、ちびちびとカップへ口をつけていた彼女は、小さなため息を吐き出す。


そして、宣言された≪お仕置き≫のことも忘れ、リゾットの帰りを待っていようか逡巡していたそのとき――





「……あれ、名前?」


「! イルーゾォさん!」



後ろから突如聞こえた声。


慌てて振り返れば、鏡から出てくるイルーゾォの姿が。


六つに結ばれていない美しい黒髪に見とれていた名前は、ハッとして口を開く。



「ご、ごめんなさい! 起こしちゃいましたか……?」


「いや、そうじゃねえんだけど……」



言えない。名前の姿が見えたから話しかけようと思ったなんて。


「けど?」


「ただ、嵐の様子が気になっただけ」


きょとんとした顔でこちらを見つめる少女に、イルーゾォは首を横に振り、誤魔化しの言葉を紡いだ。



「あ……そっか、鏡の中は聞こえないんですね」


「うん。ところでさ、そう言う名前はどうしてリビングに? 結構前に、リーダーの部屋へ行ったと思うんだけど」


「! そ、それは……」


「雷、怖くなった?」


隣に座り優しく問いかけてくる彼に対し、ブンブンと否を示せば小さな笑声が聞こえてくる。


「違うんだ。じゃあ、もしかして……リーダーがいなくて寂しい?」


「!!!」


「……やっぱり」



震える名前の肩。


当たった――彼女の心に触れられたことへ喜びを抱きながらも、もやもやと複雑な気持ちが蔓延るのも否定できない。



――やっぱり、出会ったあのときにオレの部屋へ案内すればよかった。


そのとき発動されてしまった自分の内弁慶な性格を少しだけ恨みつつ、イルーゾォは自然と彼女にある誘いを打ち出していた。



「ねえ、名前。今日は、今日だけはさ……オレの部屋で寝ない?」


「……え? イルーゾォさんの、部屋ですか?」


「うん。少しは名前の寂しさも紛れるんじゃないかなって」


自分と同じ少女の黒髪をなでる。


その柔らかさに目を細めていると、こちらを見つめる名前の紅い瞳が視界に映った。




「……ごめんなさい。今日、だけ……お世話になります」


「うん」


ほんとは、今日だけじゃなくて、これからもオレの部屋で寝ていいんだよ。


その言葉をグッと飲み込んだイルーゾォは、申し訳なさそうにする名前の手を優しく取った。









その後。
嵐も消え去り、いつも通りの朝が迎えられると誰もが思っていた、が。


「イルーゾォ! 今すぐ、今すぐオレを許可しろ……ッ!」


「ちょ、リーダー! とにかく落ち着けって! たぶん、アイツが名前を強引に連れ込んだわけじゃないしさ……たぶんだけどよォ!」


「落ち着いていられるか! 年頃の娘が、野獣と化しかねない男と寝るなど……!」


「それ、あんたが言うか!?」


二人仲良く眠っている姿を目にしたリゾットが、ホルマジオの制止も聞かずにリビングの鏡をかち割ろうとしたとか、していないとか。




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