※マジオさんの猫といっしょ
それはある日、名前がホルマジオのいる部屋へコーヒーを持って行ったときのことだった。
「ホルマジオさん? あの、コーヒーをお持ちしたんですけど……きゃあッ!?」
そう呟きつつ、右手でドアを押した途端、自分に向かって飛び込んでくる何か。
とりあえずコーヒーを死守しながら、ぎゅうと目を瞑れば、足にふわふわしたものを感じた。
「……え?」
恐る恐る瞼を開いてみると――
「まあ! 可愛い猫さん……」
「にゃーお」
実は、無類の猫好きである名前(somma 〜9〜参照)。
その甘えるような鳴き声も、じっとこちらを見つめてくる瞳も、すべて彼女の心をキュンとさせた。
「この子……ホルマジオさんの、猫さんかな?」
室内を見渡せば、彼の姿はない。
きっと、リゾットの部屋で仕事の話でもしているのだろう。
一方、名前が考え込んでいる間にも、猫は遊んでほしいと言うかのようにすり寄ってきていた。
もちろん、その行動に彼女が揺るがないはずもなく――
「んー……猫さん、ホルマジオさんが帰ってくるまで私と少し遊びましょうか」
「にゃー」
一人と一匹は彼の部屋で待つことにしたのだ。
「ったく、リーダーも無言よりはいいけどよォ、コスプレの話は聞き飽きたぜ」
数十分後、自分の口癖を吐きながら、ホルマジオは部屋へ戻ろうとしていた。
どうやら、仕事の話込みのコスプレ談義だったらしい。
表情はあくまでも≪無≫に近いが、嬉々としてネコミミを語るリゾットを思い出し、苦笑する。
「そりゃあ……名前に似合わないわけねェけどさ」
ぽつりと呟き、見慣れたドアを押した次の瞬間――
「あ、おかえりなさい!」
「にゃーん」
そこには、自分の猫(あまり懐いていない)と戯れる名前の姿が。
「ホルマジオさん、勝手に入ってごめんなさい。どうしても、この子を一人にできなくて……ふふ、こしょばいですよ」
「にゃあ、にゃあ」
「……」
「? あの、ホルマジオさん?」
首をかしげる名前と、そんな彼女に手を伸ばして甘える猫。
それは、まさに――
「なんて楽園(Paradiso)」
「え?」
「名前って、猫好きなのか?」
「……あ、はい! 大好きです!」
いつも笑顔でいることが多い少女だが、これほど輝いているときがあっただろうか。
そして、名前の口から放たれるその言葉に、ホルマジオは生きててよかったと、妙に大層なことを考えていたんだとか。
「ところでホルマジオさん」
「ん?」
「この猫ちゃんと、いつもどのように遊んでいらっしゃるんですか?」
「……あー、瓶詰とかしてんな」
「え……ビン、詰め……!?」
その後、普段穏やかな人が怒ると怖いという事例を名前が証明したことから、瓶詰は少し控えようかな、とホルマジオは一人反省するのだった。
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