「たっだいま〜……って、みんな寝てるか」
深夜二時。
ギアッチョと≪仕事≫を終えたメローネは、へらへらと笑いながらアジトへ帰ってきた。
ちなみに、相棒は愛車を車庫へ戻し、綺麗に磨いてでもいるのだろう。
――あいつってホント神経質というか、なんというか。
矛盾に対しぶつぶつ呟いているであろう男に、叫ぶのだけはやめてほしいと一人ごちる。
「あれ? 電気消し忘れたのか?」
明るいリビング。
そこへ足を踏み入れた彼は、想像もしなかった後姿に、目を見開く。
「あ、おかえりなさい」
「え……名前?」
何度も言うが、今は深夜二時。
いつもなら、リーダーの隣で熟睡しているはずだが――
「えへへ、少し眠れなくて……」
「ふーん……それにしては、温めてる牛乳が多い気がするけど?」
「!」
後ろから覗き込むと、驚くような顔をする名前。
――ほんとにバレないと、思ってたのかな?
「大方、オレたちのこと待っててくれたんでしょ?」
そう。彼女は誰かが仕事へ出たとき、必ず彼らが帰るまで起きているのだ。
しかし、失敗はなくとも時間がかなりかかることも多いこの職業。
「でも前さ、リーダーに言われてたよね? 起きとくの禁止って」
「そう……ですけど、私吸血鬼ですよ? 夜の方が得意なんです!」
彼女が小さく頬を膨らませる。
きっと、我らがリーダーもこの顔によって、説得を失敗したのだろう。
「それで、何か飲み物をと思っていたんですけど、メローネさん何が……メローネさん?」
「ん〜?」
「えっと、どうしたんですか?」
後ろから細身の少女を抱きしめる。
両腕が簡単に出逢いを果たして、思わず彼はその力を強めた。
「可愛い子を抱きしめるのに……理由って、いる?」
「ッ////」
囁けば、すぐさま赤くなる耳。
――んー、これってリーダーやプロシュートにバレたら、かなーりヤバいよな。でもさ、でもさ! たまには、オレも……名前を堪能したい!
「はは、ベネ! 今の表情、最高にベネだよ!」
「か、からかわないでくださ……って、メローネさん!? あのっ、どこを擦り付けて……!」
「ん〜? どこというより……ナニ?」
そのまま呟けば、じたばたと暴れ出す名前。
さすがに危険だと察知したらしい。
まあ、今更遅いのだが。
「ゃ、ちょ……!」
「…………なーんてね」
「え?」
セクハラまがいなことをやめて、もう一度彼女を自分の腕で包む。
「いやね、名前が待っててくれたのが、なんだかんだ言ってすっげー嬉しいんだよ」
「……メローネさん?」
心配そうに呼ぶ自分の名前。
それがこんなにも嬉しいとは。
「≪仕事≫には慣れてるし、最初の頃みたいに気分悪くしたりしないけどさ……たまにセンチメンタルになることも、なくはないんだ」
死なない、という保障はどこにもない。
たとえ自分たちがどれほど力を持っていても、危険性は伴うのだ。
――ま、そんなの吹っ切ってやんないと、堪えられないんだけど。
表情には出さず、心の中で自嘲していたそのときだった。
「え、名前?」
「はい?」
「なんでオレ、なでられてんの?」
いつの間にか、牛乳を温めていた火は止められ、こちらを向いている少女。
さらに彼女は、自分の頭をなで続けているではないか。
――名前の手が、オレの頭を……ディモールト・ベネ!!!
「さあ、なぜでしょう……」
「は?」
「でも……寂しそうな人の頭をなでるのに、理由なんていりますか?」
先程自分が放った言葉を、アレンジして名前が返す。
相変わらず、手はそのままだ。
「……ふ、あははははは!」
「え、メローネさん? 突然笑ってどうし……きゃあ!?」
「ホントさいっこーだよ、名前!」
背へと回していた右手を膝裏へ持っていき、抱き上げる。
いわゆる、お姫様抱っこの状態だ。
――優しすぎる! いや、この世界では甘いのかも……でも、だからこそ君を放っておけないんだ!
「あの、え!?」
「ははは…………ありがとう」
「!」
彼女にだけ聞こえるよう口ずさめば、目を見開く名前。
本当に、最高で絶対に失いたくない人。
自分にも、そんな相手ができるなんて――思いもしなかった。
「さあって、リーダーも寝てるかもしれないし? 名前はオレのベッドに行こうね〜」
暴れているが、男の力に勝てるはずもなく、困り果てた少女の表情に、ほくそ笑んだそのとき。
ガンッ
「い……ッ!?」
「テメー……メローネよオオオ……なあにしてんだアアア?」
脳天を貫く衝撃。
振り返れば、自分から名前を奪い、額に青筋を立てている相棒の姿が。
「やあ、ギアッチョ! あんたもシたいなら、そう言――」
「死にさらせエエエエエ!!!」
翌朝、朝食を用意しようとリビングへ来たペッシが、メローネの屍を発見することになる。
〜その後〜
「ね、ね! 名前! 名前〜! オレの頭なでて!」
「ふふ、メローネさんは甘えんぼさんですね(なでなで)」
「んっんっんー! ベネ!」
(((((メローネの野郎……!)))))
チームの心が、嫉妬と羨望で一致した瞬間だった。
![](http://img.mobilerz.net/sozai/1646.gif)
センチメンタルメロン。
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