somma 〜7〜

※仕事帰り(メローネ・ギアッチョ寄り)




「たっだいま〜……って、みんな寝てるか」



深夜二時。


ギアッチョと≪仕事≫を終えたメローネは、へらへらと笑いながらアジトへ帰ってきた。


ちなみに、相棒は愛車を車庫へ戻し、綺麗に磨いてでもいるのだろう。



――あいつってホント神経質というか、なんというか。


矛盾に対しぶつぶつ呟いているであろう男に、叫ぶのだけはやめてほしいと一人ごちる。


「あれ? 電気消し忘れたのか?」


明るいリビング。


そこへ足を踏み入れた彼は、想像もしなかった後姿に、目を見開く。


「あ、おかえりなさい」


「え……名前?」


何度も言うが、今は深夜二時。


いつもなら、リーダーの隣で熟睡しているはずだが――



「えへへ、少し眠れなくて……」


「ふーん……それにしては、温めてる牛乳が多い気がするけど?」


「!」


後ろから覗き込むと、驚くような顔をする名前。


――ほんとにバレないと、思ってたのかな?



「大方、オレたちのこと待っててくれたんでしょ?」


そう。彼女は誰かが仕事へ出たとき、必ず彼らが帰るまで起きているのだ。


しかし、失敗はなくとも時間がかなりかかることも多いこの職業。


「でも前さ、リーダーに言われてたよね? 起きとくの禁止って」


「そう……ですけど、私吸血鬼ですよ? 夜の方が得意なんです!」


彼女が小さく頬を膨らませる。


きっと、我らがリーダーもこの顔によって、説得を失敗したのだろう。


「それで、何か飲み物をと思っていたんですけど、メローネさん何が……メローネさん?」


「ん〜?」


「えっと、どうしたんですか?」


後ろから細身の少女を抱きしめる。


両腕が簡単に出逢いを果たして、思わず彼はその力を強めた。


「可愛い子を抱きしめるのに……理由って、いる?」


「ッ////」


囁けば、すぐさま赤くなる耳。


――んー、これってリーダーやプロシュートにバレたら、かなーりヤバいよな。でもさ、でもさ! たまには、オレも……名前を堪能したい!


「はは、ベネ! 今の表情、最高にベネだよ!」


「か、からかわないでくださ……って、メローネさん!? あのっ、どこを擦り付けて……!」


「ん〜? どこというより……ナニ?」


そのまま呟けば、じたばたと暴れ出す名前。


さすがに危険だと察知したらしい。


まあ、今更遅いのだが。


「ゃ、ちょ……!」


「…………なーんてね」


「え?」


セクハラまがいなことをやめて、もう一度彼女を自分の腕で包む。



「いやね、名前が待っててくれたのが、なんだかんだ言ってすっげー嬉しいんだよ」


「……メローネさん?」


心配そうに呼ぶ自分の名前。


それがこんなにも嬉しいとは。


「≪仕事≫には慣れてるし、最初の頃みたいに気分悪くしたりしないけどさ……たまにセンチメンタルになることも、なくはないんだ」



死なない、という保障はどこにもない。


たとえ自分たちがどれほど力を持っていても、危険性は伴うのだ。


――ま、そんなの吹っ切ってやんないと、堪えられないんだけど。


表情には出さず、心の中で自嘲していたそのときだった。


「え、名前?」


「はい?」


「なんでオレ、なでられてんの?」



いつの間にか、牛乳を温めていた火は止められ、こちらを向いている少女。


さらに彼女は、自分の頭をなで続けているではないか。


――名前の手が、オレの頭を……ディモールト・ベネ!!!


「さあ、なぜでしょう……」


「は?」


「でも……寂しそうな人の頭をなでるのに、理由なんていりますか?」



先程自分が放った言葉を、アレンジして名前が返す。


相変わらず、手はそのままだ。




「……ふ、あははははは!」


「え、メローネさん? 突然笑ってどうし……きゃあ!?」


「ホントさいっこーだよ、名前!」



背へと回していた右手を膝裏へ持っていき、抱き上げる。


いわゆる、お姫様抱っこの状態だ。


――優しすぎる! いや、この世界では甘いのかも……でも、だからこそ君を放っておけないんだ!



「あの、え!?」


「ははは…………ありがとう」


「!」


彼女にだけ聞こえるよう口ずさめば、目を見開く名前。


本当に、最高で絶対に失いたくない人。


自分にも、そんな相手ができるなんて――思いもしなかった。


「さあって、リーダーも寝てるかもしれないし? 名前はオレのベッドに行こうね〜」


暴れているが、男の力に勝てるはずもなく、困り果てた少女の表情に、ほくそ笑んだそのとき。




ガンッ


「い……ッ!?」


「テメー……メローネよオオオ……なあにしてんだアアア?」


脳天を貫く衝撃。


振り返れば、自分から名前を奪い、額に青筋を立てている相棒の姿が。



「やあ、ギアッチョ! あんたもシたいなら、そう言――」


「死にさらせエエエエエ!!!」





翌朝、朝食を用意しようとリビングへ来たペッシが、メローネの屍を発見することになる。









〜その後〜


「ね、ね! 名前! 名前〜! オレの頭なでて!」


「ふふ、メローネさんは甘えんぼさんですね(なでなで)」


「んっんっんー! ベネ!」






(((((メローネの野郎……!)))))


チームの心が、嫉妬と羨望で一致した瞬間だった。









センチメンタルメロン。



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