uno


「名前……急ですまないが、明日の夜出かけるぞ」


「……へ?」


すべては、飽きないのかと悩んでしまうほど自分の頭をなでる、リゾットの言葉から始まった。




「あの、どちらへ出かけるんですか?」


「んっんー、名前ってばいい質問だね! オレたちの組織の、パーティーだよ」


「パー……ティー……」



背後からにゅっと顔を出したメローネに驚きつつ、今聞いたばかりの単語を呟く。



「そうそう、毎年開催されてるやつでね……もちろん、その主催者であるボスは顔を見せないし、正直オレらも行きたくは、ない」


「? それでも、行かなくてはならないんですか?」


「……体裁があるからね。はあ……ホルマジオ、手鏡あげる」


「イルーゾォ。お前、ちょろっと顔出してすぐそこに逃げる気だろ」


かなり落ち込んだ様子のイルーゾォと、その肩を慰めるように叩くホルマジオ。



「逃げたくもなる! 特に、幹部の中にはめんどくさい奴も多いからな!」


「ああ、その通りだぜェェエ……だが、その幹部を怒らせばオレらはどうなるかわかんねエ! 誰が好き好んでアイツらに頭下げるっつーんだよ、クソがッ!」


「……リゾットさん、それでどうして私を?」



つらつらと不満を述べていくギアッチョに相槌を打ちながら、隣の彼を見上げれば安心させるような笑みをくれた。



「この行事は特例でな……チーム全員が出席しなければならないんだ。つまり、ここには名前一人になってしまう」


「……まさか、私がお留守番もできない子どもだと思ってます?」


「……そうではない。いや、名前を一人にはしておけないと、プロシュートと話していてだな」



その言葉に、ちらりと長い脚を組み、きれいにカフェを楽しんでいる男を一瞥すれば、蒼いそれと目が合った。


そして、察したように鼻で笑うプロシュート。


「ハン! オレをダシに使うたあ、いい度胸じゃねえかリゾット! 正直に言えよ、お前……名前のドレス姿が見てえだけじゃあねえのか?」


「え? あの……そう、なんですか?」


「(なぜバレている)……本音を言えば、そうなる」



読まれていたことがよっぽど意外だったのか、視線をそらすリゾットに、少女は思わず可愛いと思ってしまうのだった。


――パーティーかあ……。


「でも、リーダーの気持ちもわかりやす! ぜってー、名前のドレス姿って、イイですよね!」


「わかってくれるか、ペッシ! なんなら、今度名前に着てもらうための、コスプレ衣装を――」


「おいおい、弟分をそっちへ引きずり込もうとしてんじゃねえよ!」







「……わかりました」


「!」


赤い瞳をきらきら輝かせていたリゾット、そして皆がこちらを勢いよく見る。


そのすさまじさに、以前アジトへ来たときのことを思い出し、自然と苦笑が漏れた。


「い……いいのか?」


「はい。でも、初めてでお作法もわからないから……絶対に、そばにいてくださいね?」


ズキュウウウウウン


「当然だ! 最初から最後まで離れない、だから安心していいんだ」


「ちょ、リーダー! リーダーはいろいろ忙しいんだから、オレがエスコートするよ! ね、ね?」


「黙れ、変態メロン! テメーなんぞに任せていられるか……おい、名前! 俺についてきやがれ」


「ったく、メローネとギアッチョはいつもドルチェとメシに夢中だろ? つまり、名前と一緒に行くのは俺だな!」


「ホルマジオだって、お姉さんに近づいて離れないだろ? オレ、いつもは鏡に逃げるけど、名前となら大丈夫かも」


「パーティー初めてどうし、楽しみやしょうね、名前!」


「は、はい……でも、皆さんどうしてそんな形相で……」



ギャーギャーと騒ぐ彼らの傍らで、その様子を眺めていたジェラートが右隣りへ話しかける。



「ね、プロシュート……名前のエスコートに、立候補しないの?」


「いつものお前なら、即座にしていそうだが……」


彼の言葉に、左隣にいたソルベが頷いたうえで口を開く。


一方、それを聞いてもなお動こうとしないプロシュートの顔には、勝ち誇った笑みが浮かんでいた。



「あいつらはわかってねえんだよ……もう一つ、大事なことがあるってな」


「「大事なこと?」」


ハモるカップルに、正直引き気味になるが、表情としては出さない。


それが、兄貴である。




「まあ、見てろって……名前! ちょっと、こっち来い」


遠くから聞こえた声に、困り果てていた彼女はほっとした様子で疑うことなくそちらへ近づく。


当然、皆の視線がプロシュートの方へ集まるのである。



「ふう……どうかされましたか?」


「いや、オレらはスーツでいいが、名前のドレスは発注しなきゃあならねえと思ってな……よっと」


次の瞬間、ふわりと鼻を掠めた甘い香りとともに、目の前を覆う鍛え抜かれた胸筋。


「あ、あの? これが発注とどう関係、してるんですか?」


「名前……サイズを測らなきゃ、注文なんてできねえだろ? だから……堪えとけよ」


まさか。

誰かの声が背後から聞こえたそのとき、何かが腰を這う感触に、大きく目を見開く。


「ひゃッ……え? アジャスターとかないんですか……んっ!」


「悪ぃな、そんなもんはここにはねえ……ヒップから行くぞ?」


「ぷ、プロシュートさ……なんだか、こしょば……ッ! そこは触っちゃダメです!」


「んー? そこってどこだ? バンビーナじゃねえんだから言えんだろ……なるほど、な」



ぽつりと呟けば、震えている少女のウエストへ、己の手をなるべくゆっくりと添わす男。


「〜〜っ」


自分の言いつけ通り、必死で堪えているらしい。


彼女の肩越しに仲間を覗けば、まだ呆然としているのか固まっている。


――今のうちに、やっちまうか。



「いい子だ、名前。さて……次はここ、か」


「! ま、待ってください!」


「……なんだよ、ヒップ、ウエストと来たら、わかってんだろ?」


上へ伸びた手に、さすがに危ないとその手を掴む名前。


ちなみに、彼女の顔は限界を示すように真っ赤だ。



「その……大体でいいかなあ、って……ははは」


「おいおい。普段着じゃねえんだ……そういうわけにはいかねえ……ほら、手を離せよ」


「! ッ〜〜!」


ブンブンと首を振ることで拒否を示す少女。


――たく、困ったバンビーナだ。



チュッ


「!? ……きゃッ!」


「額へのキスで我慢するんだな……ほんとは、今すぐに名前を食っちまいてえぐらいなんだ」


「ぁ、プロシュー、トさ……!」


「……」


――無理だな、もうベッドへ連れて行っちまおう。










「「「「「させるかああああッ」」」」」


「グッ!?」


柔らかい感触を楽しみながら、彼がほくそ笑んだそのときだった。


脳天にかなり強い衝撃が来たのは。



「名前! い、今消毒してやるからな!」


「リーダー! 家にある限りのマキ○ン、持ってこよっか!?」


「メローネ……すまない、頼む!」


「クソ、コイツはとんでもねえキツネ野郎だぜエ……名前も名前だッ! 完全なセクハラなんだからよオオオ、叫ぶでも蹴るでもなんかしやがれ!」


擁護と説教を受けながら、少女がプロシュートへ目を向ければ、ペッシに支えられていた。



「あの、皆さん……プロシュートさんは、私の採寸をしてくださっただけで、それで……」


「名前! あんな生ハムの言葉を真に受けるんじゃない!」


「そうだよ、本当に測れるわけじゃあるまいし……安心して、こいつは鏡に閉じ込めとくから」



――い、イルーゾォさんの笑顔が、こんなにも怖いなんて……。


彼らの今まで以上の焦りぶりに驚きながら、少女には頷く以外選択肢はなかった。



「……く、くくくく」


しかし、アジトを支配していた喧騒は、ある男の笑声によって静まりかえる。


「あ……兄貴?」


「テメーら……オレを誰だと思ってんだよ……まさか、セクハラするためだけに、オレが名前の身体をじっくり味わったと思うか?」


「プロシュートさん? あの――」


「いいかッ! 名前のスリーサイズは、上から(ピ――プライバシーの保護のため、規制音でお送りしております――)だッッ!!!!!」



ピッシャーン


「え……ええええええええッ//////」


「プロシュート! なんて素晴らしい情報を……じゃない! 何、名前のプライバシーを暴露しているんだッ!」







数分後、男は再び床へと倒れこんでいた。


皆が彼をげしげしと蹴るのを眺めながら、ジェラートは縮こまった少女の頭を撫でる。


「名前……そんな落ち込まないで? 可愛い顔が台無しだよ(なでなで)」


「俺たちは口が堅い。だから、今日起きたことは忘れるんだ(なでなでなで)」


「うっ、うっ……恥ずかしくて、お嫁にいけません……!」


((ダメだ、相当ショック受けてる))



背後から聞こえる、燻製などといった罵倒を耳にしつつ、ソルベとジェラートは顔を見合わせて苦笑した。




next


1/12


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -