※吸血されたいリーダー
リゾットは、驚いていた。
目の前で申し訳なさそうに眉を寄せる、名前の言葉に。
「名前? 何を言って……」
「私……もう、リゾットさんの血を飲むことはできません」
聞き間違いと信じたかった。
しかし、現実は残酷なものである。
「なぜだ? なぜ……まさか、オレの血がまずいのか!?」
「違います! ……ただ」
「ただ?」
「ここにいたのか、名前」
「プロシュートさん!」
なぜあいつがここに――そんなことを考える暇もなく、リゾットは広がる光景に衝撃を受けた。
「リゾットと何話してたんだ?」
「ふふ、少し話してただけなのに、気になるんですか?」
駆け寄った少女が、何事もなく彼の腕にすっぽりと抱き込まれているのだ。
引き離そうと近づいている間にも、彼らの会話は続く。
「ハン、たりめーだろ。名前はオレの女なんだからな」
――オレの女? プロシュート、ついにトチ狂ったのか?
「プロシュートさん……/////」
――名前可愛い……じゃあない! なぜ、否定しないんだ!
慌てて駆け寄れば、プロシュートに勝ち誇った笑みを浮かべられた。
「リゾットさん……私、プロシュートさんの味にハマっちゃったんです」
「は?」
「要するに、名前はオレに夢中ってこった」
――いや、わけがわからないぞ!
名前の赤らんだ顔は可愛くて仕方がないが、隣の男が憎たらしくてたまらない。
ぐぐぐと奥歯を噛みしめていると、プロシュートは彼に見せつけるように名前の顎をクイと上げさせた。
「あ……」
「照れんじゃねえよ。これは……誓いのキスだ」
縮まっていく二人の距離。
名前は恥ずかしそうにしながらも、そっと瞳を閉じ――
「きょ、許可しないィィィィィッ! ……はっ」
叫んだ瞬間、目の前に広がるのは己のベッド。
「夢……か?」
いや、確かに夢だったのだ。
――誤ってイルーゾォの口調になってしまったが……よかった、名前はここにいる。
気持ちよさそうに隣で眠る少女に、リゾットは静かに息を吐いた。
しかし、あれは正夢へと変わろうとしていた。
「あの、リゾットさん」
「どうした?」
昼ごろ。皆がさまざまな行動をとる中、家計簿を睨み付け、今月の予算を立てていたリゾットの元へ、名前が歩み寄る。
「実は……言わなきゃいけないことがあって」
「? 別に構わないが……」
このとき彼は気がついていなかった。
今朝の夢においても、今と同じ会話から始まったという事実を。
「リゾットさん……ごめんなさい! 私、もう貴方の血を飲めません」
「……は?」
隣に腰を下ろした彼女の肩を、抱き寄せようとしたそのときだった。
「名前? 何を言って……」
「血を……リゾットさんの血を飲めないんです……」
ようやく脳内に届いた言葉。
次の瞬間、俯く名前の顔をこちらへ強引に向かせる。
「なぜだ? なぜ……まさか、オレの血がまずいのか!?」
「違います! ただ……」
――ああ、頼むからプロシュートだけは現れないでくれ……。
「あんなに可愛いメタリカちゃんを……飲むなんてできません!」
「……、……? ……は?」
突如聞こえた自分のスタンドの名前に、リゾットは目を見開くが、名前はそれすらも無視して話し続ける。
「気づいてしまったんです! リゾットさんの、一部であるメタリカちゃんを、私が飲んじゃうなんて……!」
「……一つ聞くが、プロシュートの血がうまかったとかではないんだな?」
「? 今のところ、リゾットさんの血しかいただいていませんが……」
「……はあああああ」
何もせずとも飛び出すため息。
――本当によかった……。
「なぜため息が……」
「名前」
「頼むから、血を飲むのはオレだけにしてくれ」
「え? だから……きゃ!」
もう一度繰り返そうとする名前の身体を、素早く抱き寄せる。
「安心しろ。オレはそれほど柔じゃあない。それに……名前の一部としてオレがいるなら、大歓迎だ」
「ッ///」
彼女の耳に囁けば、真っ赤に染まる顔。
――ここだけは、正夢だったな。
もちろん、名前を照れさせるのは自分一人で十分なのだが。
「でも……」
「拒否はさせない。むしろ……できないようにしてやる」
「え……! この匂いは、んッ!」
リゾットは、いい笑顔で今日も名前の唇を奪うのだった。
〜その光景をしっかりと目撃していた仲間たち〜
イ「またやってるよ……それにしても、名前の表情ヤバすぎ」
ホ「あ〜あ、俺にも名前みたいな可愛い娘ちゃんいねェかな」
ギ「テメーはまずネコの扱いから覚えやがれ! ったく、アイツらも人前でよくやるぜ!」
メ「ディモールト・ベネ! ああ、なんでこんなときにカメラ持ってないかなあ」
ジ「結局リーダーって、名前が好きなの? それとも欲求不満?」
ソ「両方じゃないか? ただ、自分の気持ちに気づいてないようだがな」
プ「チッ、あのマンモーニが! わからねえなら、名前を独占すんじゃねえよ!」
ペ「はは……(ん? リーダーもマンモーニなら……オレと一緒? 兄ィ、それはねーぜ……)」
そして彼らは、自分たちのリーダーに禁止令を出すか、本気で悩み始めるのである。
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