somma 〜4〜

※スタンドとの交信


その日、名前はソファで隣に座る、ギアッチョを眺めていた。


「(じーっ)」


「……」


「……んー(じーっ)」


「おい」


「はい?」


「テメーはさっきから、何じろじろ見てんだよ……氷漬けにしてやろうか」


どうやら気づかれていたらしい。



「あ、す、すみません! ただ……その、えっと」


「? んだよ、はっきり言え!」


「! あの、ギアッチョさんのスタンド、気になるなあって……」


「は?」


男は眼鏡越しの目をこれでもかと言うほど丸くした。


「ははは! 名前ってば、ギアッチョにそんなこと言うなんて度胸あるんだねえ……ど? オレのスタンド、ベイビィ・フェイスも見ない?」


「え? いいんですか!?」


笑顔で後ろから現れたメローネにすぐさま反応した彼女は、そこではたと首をかしげる。


――メローネさんのスタンドは、どこか危なかったような……。



一方、その姿にメローネは内心ほくそ笑む。



「うんうん、もちろんだよ。能力はさすがに使えないけど、せっかくだから君の身を以て疑似体験を――」


「ホワイト・アルバム!」


次の瞬間、彼女の肩を引き寄せようとしたメローネの手は、完全に凍り付いていた。



「この変態がァ! テメーの魂胆なんか見え見えなんだよ!」


「おいおい、そりゃねえぜギアッチョ……ん? もしかして、名前を助けて自分の株上げようとしてる?」


「! バ……ッ! そんなわけねえだろオオオオ!?」


「ぎ……ギアッチョさん……」


「ああ?」


「さ、寒い、です」



いくら普段の修道服を身にまとい、自身が吸血鬼であっても、これは寒すぎる。


がくがくと震えながら私服のメローネと、ホワイト・アルバムを着たギアッチョを見上げれば、ちっと舌打ちが聞こえた。



「ったく、それなら最初からスタンド出して、とかいうんじゃあねえよ!」


「ご、ごめんなさい」


「! 謝んじゃねエエエエ!」


「ギアッチョ……お前そんなんじゃ、一生彼女できないぜ?」


「はあッ? テメーにゃ言われたくねえよ!」



スタンドが解除されたのはいいものの、再びけんか腰になる二人に、どうしたものかと慌てていると――


トントン


「はい……あれ?」


突然肩に感じた体温に、思わず振り返るが誰もいない。


――今、確かに呼ばれた気がするんだけど……。


首をかしげ、困った表情の名前がきょろきょろと見回していると――


「へへッ! 名前、こっちこっち!」


「? …………まあ!」



その声を辿れば、なんと自分の太ももで手を振る小さなホルマジオが。


「さっきのはホルマジオさんだったんですね?」


「はは、悪ィ悪ィ! お前がスタンドに興味深そうだったから、つい便乗しちまったぜ。名前はリトル・フィート」


「謝らないでください! ふふ、これなら侵入も可能ですね!」


両手で彼を乗せ、自分の顔と同じ高さにする。


――わああ、すごい! 皆さんの能力が本当に見られるなんて!


「そういや、名前のスタンドはそのクロスなんだよな?」


「はい……皆さんの治癒に協力できたらな、と思います」


「はは、ありがとな! よォし、なでなでだ!」



にっと笑ったホルマジオが、彼女の黒髪に飛び移ろうとしたそのときだった。




「名前だけを、許可する!!!」


「へ? きゃあああ!」


「痛ェ! って、名前!?」


ソファへ落ちてしまった彼が、急いで見回すが、そこに彼女の姿はなかった。




「んー……ここは……」


「名前」


「あ、イルーゾォさん!」



ひりひりと痛む腰を押さえながら見上げれば、こちらを見下ろすイルーゾォが立っている。


しかし、その笑みはどこかで――はっきり言えば、原作で目にしたものだった。


――自信に満ちている笑顔……まさか、ここは!


「ようこそ、オレの≪世界≫へ」


「イルーゾォさんの世界……スタンドですか?」


「うん……マン・イン・ザ・ミラーって名前」


「鏡の世界……ってことですね……あ!」



後ろを振り返れば、こちらに向かって口を開いているホルマジオたちがいる。

残念ながら、その声は聞こえないが。



「あいつらも懲りねえよなあ……オレが許可しなきゃ、入れねえのに……」


「あ、あの、イルーゾォさん?」


「ん?」


「スタンドを紹介してくれたのは嬉しいんですけど……いつ、戻るんですか?」



おずおずと尋ねてみると、面白そうに笑われてしまった。


「そうだなあ……このまま、二人でいてもいいかも」


「へ?」


「最初はそんなつもりなかったけど……軟禁?」


「えええええッ?」


――確かにイルーゾォさん、大分私ともお話してくれるようなったけど……まさか、一生出られないの……?


受け入れられるようになったのはとても嬉しいが、これは予想していなかった。



「な、名前。……オレのこと、嫌い?」


「え? そんなわけないじゃないですか!」


「よかった……じゃあ、いいよな?」


「……え」


名前が座り込んでいることをいいことに、こちらへ歩み寄りしゃがむ男。


そして、肩を掴まれたかと思えば、彼の端整な顔が徐々に近づき――






「ビーチ・ボーイ!」


「あれ? 何かに引っ張られ……きゃあ!」


「名前!?」



背後から引き寄せられる感覚に、強く目を瞑りながら堪えていると、温かい感触に包まれた。


「よお、調子はどうだ? シニョリーナ」


「……プロシュートさん!」


――なんの肌色かと思ったら……ッ!


上から落ちてきた声に、自分が今どういう状況なのかを悟る。


堪えられずそろりと横へ視線を動かせば、どうやら元の世界へ帰ってきたらしい。


「兄貴! やりましたぜ!」


「でかしたぞ、ペッシィ! ……さあて、名前……お前はペッシのそばに行ってな」


にたり。

そんな風に口角を上げるプロシュートに、逆らってはいけないと理解した名前はそそくさとペッシへ走り寄る。


「名前! なんともないっすか?」


「はい! でも、プロシュートさんは何を……」


「あー、兄貴のお仕置きっす」


汗をたらたらと流す弟分に、嫌な予感がした彼女が自分の出てきたであろう鏡へ目を向けると――



「名前! オレのスタンド、ザ・グレイトフル・デッドも見せてやる! ……惚れんなよ?」


「ひいいい! 許可しない! 許可しないィィィ!」


「うるせえ! この、内弁慶野郎がァ!」



がくぶると震えている鏡越しのイルーゾォに対し、彼が名前を独り占めしようとしたことがよっぽど気に入らなかったのか、プロシュートは激昂し――


鏡にスタンド能力を浴びせた。




その後、イルーゾォの姿を見たものはいない(完)。








というのは、嘘で――




「名前……オレは……オレは、どうしたらいい」


「あ、あの……リゾットさん? どうして落ち込んで――」


「オレのスタンド≪メタリカ≫は、体内にある……すなわち、どこかを切断しなければ」


「そそそ、そんなことしなくていいですからっ! お願いです、早まらないでください……!」



今日、名前は一生分の気力を使ったような気がしたのである。



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