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「と、いうわけで……名前は吸血鬼なんだ」


「……どういうわけか意味わかんねえけど、もう何も言いたくねえ」


すっきり、といった顔で話し始めるリゾットに対して、げっそりするメンバー。



その中には、彼の腕に抱き込まれている、真っ赤な顔の少女も含まれていた。

ちなみに、仲間内でもっとも若いペッシも茹っているのでは、と思うほど真っ赤だった。


「……あのさ、リーダー」


「なんだ、イルーゾォ」


「その子の事情はわかったけど……なんでアジトに連れてきたんだ?」


ますます危険になるんじゃ――ようやく飛んできたまともな意見に、長かったと名前はそっとナミダする。



「そうだぜ! 第一よお、俺たちは九人でも精一杯なんだ! これ以上増やしてんじゃねえぞ、クソ!」


そう、きれいとは言えど、この家はおそらく彼らにとって狭いに違いない。


「えー? でも、オレは! 名前みたいな女の子、歓迎だけどなあ」


「うるっせえ! 変態は黙っていやがれ!」


「……あの」



これでは、キリがない。


もともと自分はいるべきではないのだから――そう感じた名前が紡ぐ次の言葉は決まっていた。


「私、やっぱりここにはいられません」


「え?」


「名前?」


「皆さんにご迷惑をかけるなんて、できない……あ、もちろん! この場所は誰にも言いませんから」


抱きしめられていた腕から抜け出し、ぺこりと頭を下げる。

それに――


「一つだけ、行くあてがありますから!」


「……どういう関係なんだ」


静かに問われ、少女の脳内に浮かぶのは髪が重力に逆らっている気さくなフランス人。


「え? えっと、昔妹のように可愛がってもらっていた方のところで……もう覚えているかもわからないんですが」


でも、なぜそんなことを?


玄関へ近づき、首をかしげる名前に、リゾットは背後にゴゴゴゴゴという音を立てながら、質問を続ける。


「野暮なことを聞くが……男じゃあないな?」


「? 男性ですが、何か――」


その瞬間、彼女は彼の腕の中に逆戻りしていた。



「え? ええ?」


「ダメだ! 父さんは、絶対に許さん!!!」



もう、どこから突っ込んでいいのかわからない。

頭上にはてなマークを浮かべる少女を気の毒に思ったのか、はあとため息をついたプロシュートが口を開いた。



「わかったわかった。お父さんの言う通り、ここに住みな」


「む、誰がお前のお父さry」


「テメーは黙ってろ。他の奴らも、いいな?」



事態は思わぬ形で治まりそうだ。


目をぱちくりとさせる名前に対し、一人一人が頷いていき――



「……」


「チッ」


「……ギアッチョ」


「…………だあああッ! わーった、認めりゃあいいんだろ? 認めりゃあ!」



最後の砦も崩れ去ったらしい。


「あ、あの? 私はいったい……」


「つまり、オレらと同棲だ……名前はプロシュート。よろしくな、バンビーナ」


チュッ


「〜〜〜〜っ/////」


「……どうやら、メタリカを食らいたいようだな」


「違えよ。あー怖え怖え……てか、テメーの方が激しいの見せつけてくれたじゃねえか。だから、おあいこだ」


手の甲にキスをされたことで赤面した名前に、男は笑みを深める。


――可愛い奴じゃねえか。


「ったく、お前らほんとしょォがねーなああ〜……あ、俺はホルマジオ。よろしくな! で、こっちがイルーゾォだ」


「……よろしく」


「は、はい! よろしくお願いします!」


――ホルマジオさんは想像通り……イルーゾォさんは、内弁慶なんだろうな。


決まってしまったものは仕方がない。

早々と吹っ切れた名前は仲良くなれたらいいな、と期待に胸を躍らすのだった。



「次はオレ!? オレだよね! オレはメローネ」


「あ、よろしくお願いします……」


「ベネ! さっきのリーダーとのキスも最高だったけど、その表情もよし! なんなら、オレともぜひ――」


「テメーはもう黙ってろ! チッ、俺の名前はギアッチョだ……ったく、新人歓迎会でもねえのになんで自己紹介しなきゃいけねえんだよ。これって、納得いくかああ?」


――も、もしかして続くのかな……。


「ギアッチョ……引いてるっすよ。あ、オレはペッシって言いやす」


「ペッシさん……これからお世話になります」


にこー。

バキューン


その笑顔に、青年ペッシはノックアウトされてしまった。


「い、いやあ、そんな……ところで、名前はいったい何歳なんすか?」


「はああ、ペッシペッシペッシペッシよお〜〜〜。そういうのは聞くもんじゃねえぜ」


「あ……そうだね、兄貴! すいやせん」


「い、いいんですよ! 私は気にしてません……ちなみに私吸血鬼なので、二十一歳ということにさせてください」


「……え!?」


「なんだと!?」



何かおかしなことを言っただろうか。


首をかしげて空気と化しているリゾットへ目を向けると、静かな微笑みを返されてしまった。



「そうか……その黒髪、もしやジャポネーゼかとは疑っていたが……まさか、シニョリーナだったとはな」


「……あの?」


「シニョリーナなら……犯罪じゃあねえな」


ぽつりと呟き、くつくつと喉を鳴らすプロシュートに、思わず一歩引き下がれば、何かにぶつかった。


「はは、ほんとだ! 可愛らしい外見だけど、精神的には大人っぽい気がする……ね、ソルベ!」


「そうだな……これでリーダーの誘拐容疑は晴れるわけか」


「あ、オレの名前はジェラート! 今度、出かけようよ! もちろん、オレとソルベと君の三人でね?」


――こ、この二人にまで受け入れられるなんて……!

妙な感動を覚えつつ、こくこくと頷くと、二人に頭を撫でられてしまった。


小動物的な何かと思われているのだろうか。




「お前ら……自己紹介が済んだのなら、もう部屋へ戻れ。名前、驚かせて悪かったな……だが、オレの言ったことは信じてもらえたか?」


「はい! 皆さん素敵な方たちで……これからは、日が当たらない限り、朝昼も起きていたいです!」


「……そのことなんだけどよォ」


動きづらい修道服で身振り手振りをしていると、ポリポリと頭を掻いたホルマジオが言いにくそうに言葉を紡ぎ出す。



「どうした」


「いや、気になってたんだが……名前はいったいどこで寝てもらうんだ?」






「「……あ」」


始まった新しい生活。

しかし、困難はまだまだ続くらしい。




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