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薄闇の下、医療器具が並ぶ世界で。
簡素な回転椅子に腰掛けた男は、苛立たしげに右足を揺らしていた。
「血塗れの吸血鬼を箱詰めにして送りつけたんだ。一年以内には反乱でもなんでも起こすだろうと、踏んでいたが……」
結果はどうだ。
鳴らない内乱の警鐘。暗殺者たちは相変わらず、悪待遇の中で淡々と働いているらしい。
九割は己の知的好奇心を満たすためであったが、自分が吸血鬼であるあの女の身体をさまざまな刃物で調べ、≪あえて古巣に送り返した≫という事実は、起爆剤ではなく文字通り≪首輪≫となったのか。
脳内を過ったそんな予測に、舌打ちを一つ。
「チッ。どうやら暗殺と銘打っている割には、腑抜け共が集っているらしいなァ〜〜。裏切りのうの字も見せないとは」
しかし、このまま放っておくには惜しい。上に対して持つ不満と力は確かだ。
彼らの反逆に乗じて狙うは≪ボスの座≫。
何か、ないか。そこで彼は机上にある一本のビデオテープを一瞥して、ゆっくりと笑みを深める。
「……そうだな、プレゼントをやろう」
「せっかくの資料をアイツらに渡すのは惜しいが、まあいい。≪吸血鬼の解剖シーン≫は、もう五百回以上見た」
いつまでも煮え切らないのならば、もう一度叩き起こしてやればいい。
「セッコ! 封筒を用意しろッ! ああそうだ、その棚の二段目にある奴だ! ビデオテープがちょうど入るモノを選ぶんだぞォ〜!」
そう声を荒らげながら、手元を見ることなく指先で器用にポットから取り出す、三つの角砂糖。
よく知る女の姿がテレビに映し出されたとき、あの≪烏合の衆≫は一体どんな表情をするのだろう。「ソイツらの反応を見ることができない。それが何より残念だ」と、男――チョコラータはどこまでも面白そうに口端を吊り上げていた。
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