cinque

※暗チ護チ+α
※現パロ(保育園)
※ほぼ全員が子どものため、ひらがな率高め
※途中からキャラ設定の紹介(大人のみ・キャラ崩壊多々)を経て、小話が三つほどあります






私立パッショーネ大学附属保育園。

昨年からそこで保育士として務めている名前の朝は、子どもたちの植えた野菜や花に水やりをすることから始まる。



「(いい天気! トマトもすくすく育ってくれたし……ふふ、みんなの笑顔が楽しみ)」



シンプルなTシャツに動きやすいズボン。

着用する水色のエプロンにはひまわりのアップリケが。


微かに鼻息を歌いながら、彼女が池でひなたぼっこをする亀――ココ・ジャンボにエサをあげていると、その傍に一つの影が現れた。



「おはよう、名前」


「! おはようございます、ポルナレフさ……っ園長先生」



ハッと我に返ったように目を見張り、慌てて言い直す名前。

今や上司と部下という関係ではあるものの、それ以前に昔馴染みの二人。彼らは互いに顔を見合わせて、苦笑をこぼす。



「えへへ、ごめんなさい。気を抜くとすぐ間違えちゃって」


「いや、構わない。お前が私にとってもう一人の妹であり、娘であることに変わりはないんだからな。シェリーも会いたがっていたぞ」


「私もぜひお会いしたいです! またお家に行かせてください」


「ああ。だが……悪いな、仕事をお前に任せて。(名前狙いなど)怪しい奴らばかりで、面接をしてもどうも頷く気になれないんだ」



もはやお調子者の影はなりを潜めた男の笑み。ふるふると頭を振るって、彼女はいまだ肉刺が残る右手をそっと包み込んでいた。


「私は大丈夫ですよ? 子どもが……この保育園にいるみんなが大好きなので、気にしないでください」


「……そうか。名前のそうした人柄を、きっと子どもたちも好いているんだろう。(若干、子どもじゃあない者も二名ほどいるようだが)」


「?」



こてん。そんな効果音と共にかしげられた首。

名前の心を射止めようと奮闘しているのは、一会社員と大富豪。後者の男と関係を築かせることだけは何がなんでも阻止しようと考える一方で、かと言って前者はどうなのだろうかという親心がポルナレフの胸を掠めていく。


もちろん、それは熱視線を向けられている本人が彼らの感情を自覚すればの話だが。

頭上に立ち上るクエスチョンマーク。相変わらず不思議そうな彼女を見とめて、ふっと表情筋を和らげた彼はおもむろに口を開いた。



「ところで、そろそろ≪第一陣≫が到着する頃合じゃないか?」


「あ……! いってきます!」



脳がその内容を理解した途端、勢いよく門へと走り出す保育士。

すると、そこへ到着するかしないうちに、黒髪を揺らした名前の耳へ届くのが――




とある呆れを交えたテノール。



「まったく……あれほど夜ふかしはするなと言っただろう!」



しばらくして道の奥から現れた、スーツを着た男。

と、幾人もの子どもたち。



「うわぁあん、そるべー! はなればなれなんて、やだよー!」


「っ、じぇらーと……!」


「ソルベ、ジェラート。お前たちが、≪走るのが面倒くさい≫というから両脇に抱えているんだ。この間ぐらい少しは我慢しろ。それとイルーゾォは歩きながら寝るんじゃあない!」


「んー……めいれいは……きょかしな、い……すう、すう」



傍から見れば、かなり濃い光景。

彼らが入園した当初、ひどく驚いていた彼女もさすがに慣れてしまったらしい。


遅刻という時間帯でもないのになぜかいつも焦っている第一陣を名前が微笑ましく見つめる中、大男と子どもの会話は続く。



「ホルマジオ。イルーゾォを率いてやってくれ。そして叩き起こすんだ」


「えぇ〜!? しょぉがねーなー!」



そして、慌ただしい靴音がコンクリートに響き渡ると同時に、彼女の元へ辿り着いた集団。保育士はぺこりと会釈をしてから、桜色の唇を動かした。



「おはようございます、ネエロさん」


「! 名前先生。おはよう……本当に毎回、朝から騒がしくて申し訳ない」


「ふふ……いいえ。賑やかなのは楽しくて好きですから、どうかお気になさらないでください」



自然とこぼれ出す本音。

そうか――静かにそう呟いて表情を明るくしたリゾットに小首をかしげていると、不意に捉えたズボンの裾がくいくいと引き寄せられる感覚。


疑問に従い視線を落とせば、ぱちりとかち合う翡翠の瞳。

もちろん、口元を綻ばせた名前はその場にしゃがみながら、煌くハニーブロンドの頭を優しく撫でる。



「メローネくん、おはようございます」


「おはよ、名前せんせっ! きょうもべっらだね! できれば、そのおおきなむねに、かおをうずめた――ぐえっ」


「黙っていろメローネ。そういった発言は、セクハラに値すると以前教えたはずだ」


「うー、いいじゃん! ぱーどれの≪いけず≫!」



誰がパードレだ――淡々と発せられるツッコミ。

そう。この保育園へやってくる人々はさまざまな事情を抱えていることが多い。しかし、彼らにとって血縁などもはやどうでもよく、まるで親子のような関係に彼女が心を和ませていたそのとき、メローネの背越しに小さな影が駆け寄ってきた。



「りぞっと〜〜! いるーぞー、おきねーんだけど、どうすりゃいーんだよー!」



ホルマジオだ。彼が困った表情でこちらに来たのだ。

隣には先程と変わらず寝ぼけ眼のイルーゾォが佇んでいる。


絵本を夜中まで読んで、寝不足なのだろうか。ふと、うつらうつらの少年に対して響き渡る、可愛らしい怒声。



「おい! てめー、さっさとおきろよ! ぼけが!」


「んんん……む、り……ぐー」


「あらあら」



反応に苛立ちを感じたらしい。イルーゾォの白い頬をつねろうと試みるギアッチョをすかさず止める名前。

まさに≪お母さん≫だ。高鳴る鼓動。速まる心拍数。数度瞬きを繰り返したリゾットは喉を上下させてから、緊張した面持ちで言葉を紡ぎ出した。



「話は変わるんだが、名前先生は……今度の日曜日、何か用事がもう入っていたりするのだろうか」


「え? いえ、その日は確か何もありませんけど……ネエロさん?」



大人二人を取り囲む、妙な空気。少しずつ上昇していく自分の体温。改めて唾を飲み込んだ彼が、ぱちくりと動く深紅の瞳をじっと見据え、



「……。よければオレとデ――」








ドカッ



「ぐッ!?」


刹那、スーツで覆われた膝裏に何かが飛んでくると同時に、ふらつく男。

その≪何か≫が着地したことでようやく窺えた正体に、彼女はこれでもかと言うほど双眸を瞠る。



「ぷ、プロシュートくん……!?」


「っこんの、のうないぴんく! おめーが≪しゃちょう≫にならねえかぎり、名前はわたさねーぞ、こら!」



少しばかり舌足らずではあるものの、かなりリゾットに対して捲し立てているプロシュート。

よっぽど気に入らないことがあったようだ。だが一方で、まだ1歳に満たないペッシをしっかりと腕で抱く姿に、≪お兄さん≫らしさを覚えほっこりとした気持ちになりつつ、名前にはどうしても注意しなければならないことがあった。


それは――



「(一番幼いペッシくんを守って、えらいなあ……でも――)あのね、プロシュートくん。できれば先生ってつけてくれたら嬉しいな」


「はん、いやだね! おれにとって、名前はみらいの≪ふぃあんせ≫なんだからな! ほら名前、いつもの≪あいさつ≫させてくれよ! ここは≪いたりあ≫なんだぜ?」


「……もう、おませさんですね」


イタリア式の挨拶。

ちゅっ、ちゅっと彼女の頬へ伝わる温度と耳に劈いた小さなリップ音。


彼だけなぜかこれを強請るのだ。

当然、名前はその無防備な光景が、28歳の大男にとって≪悔しさの種≫になるとは知らない。



「へへへ、ぐらっつぇ!(にやあ)」


「(ップロシュート、お前……!)」



子どもの挑発に乗るなんて、と胸中の冷静な自分が囁いてくるが、これに乗らずして何に乗れと言うのか。

プロシュートの薄笑いに彼がその襟首を今すぐ掴んでやるべきか逡巡していると、不意に顔を覗き込んできた彼女に声をかけられる。


「あの、ところでネエロさん。そろそろお仕事の時間じゃ……」


「!」


「けっ! まぬけだな!」



次の瞬間、黒目がちの瞳をカッと見開くリゾット。

普段は宥めるギアッチョの悪態も、残念だが受け入れることしかできない。


幅の広い肩を落としていた男だったが、しばらくしておもむろに立ち上がった名前の方へようやく向き直った。



「では……また7時過ぎに」


「はい、お待ちしております。ネエロさんも、あまり無理はなさらないでくださいね」


「〜〜ッ、ああ。(君のその一言が聞けるだけで、オレは今日一日踏ん張ることができる……ッ)」


「?」



なぜか軽い足取りで立ち去っていったリゾット。その様子が気にかかるものの、彼女はそれどころではない。

ここからが忙しいのだ。今日も彼らは元気ハツラツなため、なんとか無事に完了した保育室への誘導。ところが、ホッとしている暇はなく、第二陣はすぐさまやってくる。



「名前せんせー!」


「トリッシュちゃん!」



愛らしいポシェットを肩に走り寄ってくる、保育園の紅一点。

飛び込んできた身体を抱きしめれば、トリッシュがとても嬉しそうに口を開いた。


名前の心に広がる眩しい笑顔。



「きのうね! あたしがんばって、≪ぎゅうにゅう≫のんだの。でも……とちゅうで、くるしくなっちゃった」


「まあ! 牛乳苦手なのに……よくできました! えらいえらい(なでなで)。きっとお腹さんもびっくりしちゃったんだと思います。ゆっくり、ゆーっくり慣れていきましょうね? 焦らなくて大丈夫ですよ。……ところでトリッシュちゃん。お父さんは?」


「えへへー! あ、ぱぱ? ぱぱは――」







「さっき、じてんしゃでひかれたの。だからあそこでたおれてる」


「え!?(ほ、本当だ……!)」



ぱぱって、ほんとなさけないわね――眼前から聞こえてくる少女のため息。


彼女の父親、ディアボロは保育園へ子どもを預けている親の中では、もっとも新米のパパに当たる。

トリッシュの話によれば、最近は家事全般をこなしているらしい。

自転車とぶつかったが無事ではあるのか、ふらふらと立ち上がり、そのまま離れていこうとする男を保育士の彼女は慌てて引き止めた。



「なんだ、まだ用があるのか」



こちらを突き刺す訝しげな表情。

結構鋭いそれにたじろぎつつ、名前はおずおずと口を開く。


「あの……ドッピオくんをお預かりしてもよろしいですか?」


「!」



そう、彼に背負われている幼いドッピオは、今なおすやすやと眠り続けているのだ。

この子、将来大物になるかもしれない。


という考えを頭の隅に過ぎらせている彼女に今度こそ息子を預けると、再び歩き始めるディアボロ。刹那、その背中は娘の声に包まれていた。



「ばいばい、ぱぱ! ≪おしごと≫いがいで、しんじゃだめだからねー!」


「ッ、任せておけトリッシュ! このディアボロにッ! ≪今日これ以上死ぬ≫という事態は起きな――ぎゃああッ!?」


「へ!? ディアボロさん……!?」



ドンッ。ひどく鈍い音と共に弾き飛ばされる身体。彼は振り返った途端、車――それも黒いリムジンに轢かれたのである。


もー、ぱぱったら――呆れゆえに肩を竦めているトリッシュは、こうした状況に慣れているのだろう。

父の事故を前にしても、驚愕する名前のそばから離れることは決してなかった。


一方、停車したリムジンの扉から現れたのは、いわゆる執事と呼ばれる人物。



「おはようございます、名前先生様」


「おはようございます!(先生様……)。えと、テレンスさん……今、そちらの車が人を轢かれていたんですけれど」


「ん? ……ああ、お気になさらず。あちらの方には治療費と慰謝料をお支払いしますので」



――それでいいのだろうか。

言うまでもなく良心が痛むのだが、実の娘が「きにしなくていいのよ!」としっかり同意しているのでよしとしよう。

とは言え、完全に無視というわけにもいかず。彼女がちらちらと車越しの方向を一瞥する中、まるでその視線をこちらへ戻させるかのごとく気品に溢れた小柄な少年が大きなドアより顔を出す。



「名前せんせい、ぼんじょるの。きょうもせんせいに、おあいできてうれしいです」


「! ジョルノくん、おはようございます。ふふ、私も嬉しいですよ?」


「このDIOの息子をよろしく頼む、と主も申しております。それと名前先生様に……≪準備はできているから、いつでもこちらに転職してこい≫とのことです」


「はい。ジョルノくんは確かに預からせて……、え!?」



では、これで我々は失礼します――思わぬ一言を胸に残して、さっさと去ってしまうリムジン(その場にディアボロの姿がなかったことから、車が一時停止すると同時に拾われたようだ。「隠蔽?」などと首を突っ込んではいけない)。

しかしいつの間に転職という話が上がっているのだろうか。狼狽を宿した目を白黒させていたからこそ、名前は自分の足元にてジョルノがぽつりと呟いた言葉に気が付くことはできなかった。




「ぱーどれに、わたすわけないでしょう。あんなことばで、きをひこうだなんて……むだむだ」









「ところでトリッシュちゃん。トリッシュちゃんは、みんなのところに行かなくていいんですか?」


「! そ、それはっ……あっち、おとこのこばっかりだし、名前せんせいもひとりじゃあぶないでしょっ? だから! だから……!」



無事、ジョルノを保育室に送り届けた後。


最後の一家をお迎えしようと門へ戻ってきた彼女が、自分にぴたりとくっついて離れることのないトリッシュに尋ねれば、少女は非常に慌てた様子で弁解しながら不意に柔らかな頬をポッと赤く染める。

その視線の先には――



「Buon giorno、名前先生。ちょっと遅くなったかな」


「おはようございます、ブチャラティさん。いいえ、始業時間までまだ時間があるのでどうか安心してください」


「そうか、それならよかったよ。……ところで君は確かトリッシュだったね。元気かい?」



温かな声色を紡ぐブチャラティの眼差しに帯びたのは、柔らかさのみ。

それでも保育園児の彼女にとっては刺激が強かったのか、動向を見守る名前の影にそそくさと隠れてしまった。

大人たちからこぼれる笑み。ただ、嫌われてしまったかな――そう言って眉を少なからず下げる彼はかなりの天然だ。


一方で、ここパッショーネ大学附属保育園には個性的な面々が揃っているが、ブチャラティが男手一つで育てている子どもたちも引けを取らない。なかなかアクが強いのである。



「ふふ(トリッシュちゃん、だから私のそばにいてくれたんだ……可愛いなあ。でもこの状況をお父様が見られたら――)おはようございます、アバッキオくん」


「……っす」


ズボンのポケットに両手を入れつつ、門を一人通り抜けようとする少年。

だが、ハッと瞠目した彼女は、すぐさまアバッキオと向き合えるように細い肩をそっと捕まえた。



「ま、待ってくださいアバッキオくん。ちゃんと挨拶しなきゃ、≪めっ≫ですよ?」


「…………おはよー、ございます」


「はい、よくできました! これからも、できるだけ挨拶していきましょうね?」


「……」



名前先生はどうやら怒ることが苦手らしい。時折口遊まれる≪めっ≫。

本人は特に意識していないものの当保育園ではすでに定番と化しており、これが聞きたくてわざと彼が挨拶をないがしろにしているとは、にこにこと微笑む名前は知る由もない。


ただ自立心旺盛な少年に対し、中には登園することすら躊躇う子もいる。特に――



「やめてくれぶちゃらてぃ! わーっ、ひっぱんな! ≪よん≫がつくひは、いきたくねーんだよ〜〜!」



腕を引っ張られジタバタと暴れるミスタには、≪4≫をことごとく敬遠するという独特な感覚がある。

今日は確かに4がつく日。しかしそんなときこそ、彼女の一言がよく効果を示した。



「ミスタくん、先生は今日ミスタくんに会えて嬉しいんだけどな……」


「! お、おおおれもっ! 名前せんせーにあえてうれしいぜ! よっし、きょうがんばる!」


「たんじゅん……」



途端に元気を出した、ある意味わかりやすい兄弟にため息をこぼすフーゴ。かくいう彼も、大人しそうな外見に反して怒りっぽいらしく。


「な、ナランチャくん! 喧嘩はいいけど、手を出すのはいけません……! フーゴくんも、お友達にド低脳なんて言ったら、めっ!」



次から次へと降りかかる難題。

同時に胸中を占めるのは子どもたちへの愛。


こうして、名前先生と園児たちの忙しくも活気に満ちた一日は始まるのだった。











――キャラの設定紹介(大人のみ)――

ポルナレフ
パッショーネ大学附属保育園の園長。友人にSPW大学のヒトデ博士と呼ばれる人やSPW財団の一員として世界を巡るさくらんぼ好きの人、占星術師、不動産王――と交友関係がなかなか広い人物。


リゾット・ネエロ(28)
社畜サラリーマン。ある日家に帰ると居座っていた子ども8人を、そのまま成り行きで育てているという。無邪気で遠慮のない彼らに苦労することも多いが、子どもたちのおかげで名前先生とも出逢えたので、最近はこの生活も結構いいかもしれない、と思い始めている。なんだかんだ言って子ども好き。一人暮らしを長く続けていることも関係するのか、かなりの倹約家(子どもたち曰くケチ)で怒ると怖い。絶賛片想い中。


ブチャラティ
一言で表せば≪爽やかお父さん≫。パッショーネ大学に勤めている。若くして助教授になり、周りから期待されているようだ。自分の研究をしっかりと重ねながらも、子どもたちとの時間も大切にしているらしく、理想的な育メン。トリッシュにとって憧れの人だが、本人は気付いていない挙句むしろ嫌われているのかと勘違いするほどには鈍感気味。ちなみに、学問の同系統を担当する教授にポルポがいる。


ディアボロ
新米パパ。よくドッピオを背負ったまま、仕事に向かおうとするお茶目さん。戦隊ショーの悪役として、いつも子どもを怖がらせている(本人談)。ショーの中でも死を経験しているが、実際死にかけることがなぜか多い(むしろ生き延びていることが不思議なほど)。見かねた妻に勧められ、その原因を何人もの占い師に尋ねると、どの人も「何かしらの因縁で呪われている」と口を揃えて言うらしい。


DIO
リムジンに乗ってはいるが、顔を絶対に見せない貫禄あるパードレ。日光が苦手。園長と浅からぬ縁があるようだ。そして、名前先生をヘッドハンティングしようと目論んでいるので保育園に刺客(遊具の業者:ダン、ヤク〇トお姉さん:ミドラー、給食のおじさん:オインゴなど)を派遣し、常に彼女の動向を監視させ、息子を見守らせている。もはやストーカー。実はかなりの親バカ――だが、クールな息子に大抵あしらわれてしまう。










小話『今日の色』



「そうだなあ……≪あか≫とか≪くろ≫とか、どうだい? でぃ・もーると、べね!」


「すっげーしゅみだな〜? おれは≪ぴんく≫にかけるぜ! ぜってーにあうし、かわいいし!」


「……むらさき、なんてどうですか? かのじょにぴったりです」


「おめーら、ほんとしょーがねーなー! んなもんとうぜん、しろだろ!(ドヤァ)」



部屋の隅で、やいのやいのと騒ぐメローネ、ミスタ、フーゴ、ホルマジオの四人。

昼寝の準備をしていた名前は、時折こうして集まり会議らしきモノを始める子どもたちにほっこりとした笑みをこぼす。



「(赤、黒、桃色、紫、白……もしかして、粘土の色を選んでるのかな)……ふふ、可愛いなあ」



そんなことを呑気に考えて頬を緩める彼女は、まさか彼らが自分のこと――それも今日の下着について話しているとは想像すらしていないのだった。









小話『おままごと』



「名前せんせ! おれたちとあそぼうぜー!」


「ナランチャくん……ふふ、いいですよ? 何をして遊ぶんですか?」


「ままごとだってよ。……ったく、あのがきどもが」



園児とは思えないほど渋い表情でため息を吐き出すアバッキオ。

だが、なんだかんだ言ってきちんと参加するあたり、彼も面倒見がいい子なのだ。

部屋の中を進む彼らについていけば、先生の姿を見つけたことに歓喜したのか、おもちゃの包丁を持ったジョルノが口角を上げる。



「≪じょうでき≫です、ふたりとも」



まな板やキッチンを模した玩具に並ぶ、マジックテープが取り付けられた食材。それらを一通り見渡した名前は、いそいそとお皿へ魚や野菜を盛り付け始めた少年に尋ねた。


「ジョルノくん、おままごと楽しい?」


「はい。ぜひ名前せんせいにも、さんかしていただきたいです」



もちろんいいですよ――笑みと共に溢れるのは二つ返事。

ただ、どうしても彼らの配役が気になった彼女は、視界の端でひらめくピンクのエプロンに小首をかしげる。



「エプロンをつけてるってことは、アバッキオくんがお母さんなのかな……?」


「そうです。かれがぼくととりっしゅを、ありとあらゆるほうほうでいじめる≪ままはは≫です」


「うんうん……、ん?」


「そしてみすたが、いつのまにか≪いえ≫にすみついた≪いぬ≫。ふーごとならんちゃは、あばっきおの≪つれご≫ですが、ふたりは≪ちちおや≫がちがいます。また、ぼくたちも≪ははおや≫がちがうきょうだいです」



なぜそのような設定になったのだろう。

脳内にぽつんと浮かぶ疑問。


しかし、子どもは大人が考えつかないようなことを思いつくことも多い――衝撃と狼狽を胸に隠した名前は改めて柔らかく微笑んだ。



「えっと……すごくこだわりを持ってるんですね。じゃあ先生は……」


「ごあんしんを。名前せんせいにも、ぴったりの≪やく≫をよういしています」


「ぴったり? ふふ、嬉しいです。ぜひ教えてください」








「ぼくの≪あいじん≫です」


……。


目を何度もぱちくりさせた彼女は、思わず今聞いたばかりの単語を繰り返した。



「あ、愛人……?」


「はい。名前せんせい、ぼくのあいじんになってください」


「……えっ、と。ジョルノくん、愛人って言葉はどこで覚えてきたんですか?」


「なぜかうちにすむ、≪あいすさん≫がいってました。うちのぱーどれには、あいじんがいっぱいいると」



たらり。頬を伝う冷や汗。家庭の事情にとやかく言うつもりはないが、一度家庭訪問を行なった方がいいかもしれない――だがその判断が、まさか自分にとって罠になりうるとは、名前は思ってもいないのだろう。










小話『夜のひととき』



「名前せんせ、またあした! じゃーなー!」


「ふふ……はい、さようなら。また明日ね」



午後6時を過ぎると、パパさんたちによるお迎えも終わりに近付いてくる。

ジョルノ(朝と同じくリムジン)、トリッシュとドッピオの(ディアボロは再び自転車に轢かれそうになりながらも、娘と息子だけは死守していた)順に子供たちを見送り、今名前はブチャラティに引き連れられていく、園児の中でも抜きん出て元気のいいナランチャたちに向かって手を振り返していた。



「……よし」


消えた影を確認した彼女が踵を返せば、そこに佇むのはいまだ光が灯り続ける保育室。


残るは、リゾットだ。

彼はかなり多忙なのか、迎えがもっとも遅い。

お父さん大変だね――寂しくないかな、という心配も込めて名前が入口の階段に座るプロシュートへ声をかける。すると、



「ほんとあきれちまうぜ。あいつ、≪しゃちく≫だからな」


「しゃ、社畜……」


「おう。ま、いいじゃねえか。そのおかげで名前とながくはなせるしよ」



熟睡するペッシをあやしつつ、にぱっと見せた笑顔。

だが、おそらく強がっているのだろう(彼女は、よもやそれが本音だとは想像すらしていない)。


薄暗くなった世界でもなお美しく輝くブロンドを優しくなでると、不意にプロシュートが凛とした表情でこちらを見つめてきた。



「なあ名前」


「どうしました?」



不思議そうな深紅の目をまっすぐ射抜く蒼い瞳。

こてんと首をかしげれば、意を決したのか少年の口がゆっくりと開かれる。



「いまはまだ、むりかもしんねーが……おれ、おまえをまもれる≪おとこ≫になる。だからおれと、けっこん――」


「ぷろしゅーと! りぞっときたぞ! さっさと≪かえるじゅんび≫しろよ! くそ、くそっ!」


「すまないお前たち。遅くなった」


「……ちっ」



ソルベ、ジェラートと砂場で遊んでいたらしい。ギアッチョが駆け寄ってくると同時に、たったっと耳に届く可愛らしい靴音。

――タイミングの悪い社畜だ。そして、数秒遅れて現れた大きな影に言うまでもなくこぼれる舌打ち。


一方、まさか子どもに恨みの念を向けられているとは知らずに、名前に感謝の気持ちを伝えているリゾット。

のほほんと柔らかな笑みを見せた彼女が紡ぐ「みんな、今日も元気いっぱいでしたよ」。それに安堵の面持ちを浮かべてから、28歳の男はなぜか咳払いをした。



「……ゴホン。それで名前先生、今朝の話の続きなんだが――」


「おい! しゃちくりぞっと! はやく≪めし≫! おれら、はらへってんだぞ!」


「(ガクリ)」



先程の仕返しだと言いたげに、ソプラノの声を張り上げて急かすプロシュート。


≪社畜≫という揶揄と恋路への容赦ない妨害。そのダブルコンボにひどく項垂れたリゾットに対して、突然大男の足元にぴたりとくっついたホルマジオは、なぜか顔の前で両手を合わせて≪お願い≫ポーズを取る。



「たのむりぞっと! すーぱーで、≪おやつ≫かってくれ! あといっこで、≪あんさつせんたい・あっさっしーに≫が、ぜんいんあつまるんだよ!」


「おれも! はぁはぁっ、≪にんぎょう≫がほしい! くろかみのおねえさん! いろーんなふくにきせかえられるんだ! へへ……びきに……くのいち……すごく、べりっしもいい!」


「……オモチャは週に一回だと言っているだろう。お前たちの玩具ばかりに金をつぎ込んだら、家計が行き届かなくなるんだ。特にメローネ、お前のそれは怪しすぎる。断じて買わん」


「「けちー!!」」



不意打ちではない限りは、可愛い攻撃を淡々と逞しい身体で受け止める父親。

なんだかんだ言って、保護者の彼が来たことでより明るくなる、子どもたちの笑顔。


明日も頑張ろう――と心の中で意気込んだ名前はいつも通り賑やかな彼らを見つめて、小さく微笑むのだった。



「ふふ。みんなの話を聞いてると、なんだか私もお腹すいてきちゃいました。あとで買い物に行かなきゃ」


「!(こ、これは……チャンスか? 名前先生の私服の目撃が可能な上に、買い物の同行を申し出るチャンスなのか……!?)」


fin.



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