――どうして、こうなったんだろう……。
目の前に並ぶのは、原作で見た面々ばかり。
名前は、ここへ連れてきた男の背後に隠れながら、数時間に頷いてしまった自分を呪っていた。
La primavera di 1999
春の、朗らかなある日。
「……え? ふふ、リゾットさん……そんな冗談は」
「冗談のつもりは一切ない。それとも……この前のオレを見て、≪予測≫から≪確信≫へと変わったからか?」
その言葉に、ドアの前に立ち塞がる彼を見上げれば、自嘲した笑みが映った。
「っ、違います! リゾットさんの仕事がどうとかじゃないんです!」
――だって、私は前から知っているのだから。
「なら、断る理由はない。そうだろう?」
「! う……ッ」
確かに、言われてみればないのだ。
もし男の言い分通りアジトに住み着けば、浮上するメリットもあるだろう。
しかし、それに対してリスクが多すぎる。
――怪しまれないように、みんなを救うなんて……できるかわからない。
思考を巡らせ、視線を落とす名前。
「……それと」
「え? ……! な、なな!」
感じる彼の吐息。
知らぬ間に距離を縮められていたらしい。
慌てているのか、目をぐるぐるとさせている彼女に、リゾットはそっと囁く。
「名前。抑えられないとき、事情を知っている奴がいた方がいいだろう」
「そ、それは……」
何を、なんていう質問は愚問だった。
「アジトには……オレ以外に仲間が八人いるが、皆気さくな奴らばかりだ」
「……」
知ってます、知ってますとも!
とは口には出せず、名前は思わず黙り込んでしまう。
――ほ、本当にどうしよう! このままじゃ――
「……夜が明ける前に帰るぞ」
「え!? あのっ、私まだ何も言ってな――」
「名前に拒否権はない」
そんな横暴な!
叫んでしまいそうなのを堪えながら、彼女は自分のカバンを持って出て行ってしまった男を追いかけた。
ちなみに、急遽決まったことを司教に話せば、またおいでという言葉と優しい笑顔で見送られてしまった。
「式はここで挙げるといいよ」
彼が聞いていなかったからよかったものの、少女の心をかなりビクつかせる一言とともに。
「と、いうわけだ」
「……リゾット、お前なあ……」
今晩は皆仕事がなかったらしい。
頬を引きつらせる彼らに、名前は萎縮することしかできない。
それに気付いたのか、こちらを振り返ったリゾットが小さく微笑む。
「心配するな。悪い奴らじゃあない」
「は、はい……」
「ふーん、なるほどねえ……リーダーが朝帰りだった理由はこれか」
そのときだった。視界を覆う黒にブロンドが交ったのは。
「!」
「ねえねえ、君名前は? 何歳? あ、もし喫煙経験などもあれば、それも教え――」
「メタリカ」
「グエッ……!」
その正体――メローネは早速カミソリと一緒に倒れてしまった。
「ちょ、リゾットさん? さすがにやりすぎじゃ……」
「当然の制裁だ」
「ハン、まあこの変態メロンはこの際どうでもいい。問題はそこのバンビーナだ」
――ば、バンビーナって……。
倒れてしまった彼を踏みつけながら話す男前――プロシュートの鋭いまなざしに、名前は正直生きた心地がしない。
ちなみに、踏まれている男が恍惚とした表情なのは、見て見ぬふりをしよう。
「リゾット……オレは今までお前の指導性を認めてきたし、それが揺らぐことはねえ。だから、禁じ手ともいえるシスターを囲うのも、好きに抱くのもお前の自由だ」
――だ、抱くって……そんな……!
少女も意味が分からないほど、過ごしてきた時間が短いわけではない。
ボンッと顔を赤らめる彼女を一瞥した、金髪の男はため息をついてそのまま続けた。
「だがよぉ、少女誘拐はダメだろ……! 暗殺を生業にするオレらが言うのもあれだが、それ以外の犯罪に手を出すんじゃねえ!」
「……へ?」
「さ、さすが兄貴ッ! オレたちの考えてることを察してくれたんすね!」
――えっと、そこじゃないよね? リゾットさんもなんとか言ってほし――
「誘拐ではない。強いて言うなら……連行だ」
「似たようなもんだろうが! ったく、これだから天然は……」
頭を抱え、ぶつぶつと呟くプロシュートに申し訳なさだけが浮き彫りになる。
「まあまあ、落ち着けよ。リーダーが天然なのは元からだしな……で? その子……っと、名前をどうすんだ?」
意気消沈した男の肩に手を置いたホルマジオは、にへらと笑いながら尋ねる。
「ああ、そうだな。名前にはここで生活してもらう」
「「「「「「…………は?」」」」」」
再びこちらを刺すいくつもの目。
歓迎されるはずがないのだ。
「おい、リゾット! 俺たちがすんなり納得すると思ってんのか? まず、こいつをここへ置くメリットはなんだって言うんだア? ああ?」
「……そうだな……名前、今≪空腹≫か?」
かなりキレているらしいパーマの男、ギアッチョに対して、リゾットは思い出したかのように言葉を紡いだ。
「? まあ、それなりには……って、まさか!」
一方、彼の背中に引っ付いていた彼女は、嫌な予感に後退る。
しかし、それが上手くいくはずもなく――
「逃げるな」
「んんっ……!」
ズギュウウウウウン
「「「「「「な、なんだってえええええッ!?」」」」」」
目の前に広がる光景。
それに、仲間たちは呆然とせざるを得ない。
すでに興味を失い始めていたソルベとジェラートでさえも大きく口を開けている。
「ぁっ、リゾ、トさ……はっ、みなさ、んの前で……ふ、ッやあ……!」
「喋らずに、舌を動かせ……ん」
「そん、な、あ……っは」
((((((((完全に、私利私欲のためじゃねえか……!))))))))
想像もしなかった自分たちのリーダーの行動に、もはや誰もつっこむことはできなかった。
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