somma 〜49〜(↑の続き)

※somma 〜49〜の続き
※裏






「Dolcetto o scherzetto!」


精一杯自分を見上げ、照れ臭そうに音を紡いだ恋人に、なるほど今日はハロウィンか――とぼんやり脳を働かせるリゾット。

だが、時の流れに気付かぬほど、≪仕事に明け暮れていた≫という感傷に浸っている暇はない。


今凝視すべきは、眼前の官能的な姿をした名前だ。そう己を叱咤した彼は上体を起こすと同時に、膝へ乗せたまま彼女の足先から旋毛までを、瞬きすらせずにまじまじと観察し始めた。



「……(じー)」


「あ、あの。恥ずかしいので……あまり、見ないでください……////」


ほぼ晒されたに等しい上半身を両腕で覆い、居心地が悪そうにたじろぐ少女。

下唇を噛み、ちらりと自分を見つめる仕草にドクドクと自己主張を始める心臓。離れようとした恋人の身体を強く閉じ込めながら、華奢な肩に顎を寄せた男が自嘲に近い声を漏らす。



「ふむ。それは無理な話だな」


「え!?」


「こんなにも情欲を煽る、恋人の姿を見ないと思うか?」


「!」



静かに交わり合う赤と紅。

かあっと名前の顔全体に迫った熱。


リゾットへの思慕に囚われた彼女はこれでもかと言うほど狼狽え、野性を孕んだ彼の双眸と色気に対して、必死に打開策を脳内で巡らせていた。



「えとっ、その……あ、それより! リゾットさん、お菓子をいただけますか?」



焦燥を含んだ笑顔と共に、両手でお椀を作った少女。この部屋には、キャンディーが常備されていることを知っているのである。

しかし、相変わらず自身を抱き寄せたまま微動だにしない男から返ってきた答えは、思わぬものだった。



「名前……すまない。生憎だが、今は菓子を持っていないんだ」


「? り、リゾットさん? 後ろにアメの入った瓶があると思うんですが――」


「ない」



背後を見させまいとしつつ、頑なに≪ない≫と言い張るリゾット。彼の鉄壁と呼べる身体の屈強さに、さすがに菓子を強引に奪うこともできず。


――どうしよう。

目をぱちくりさせた名前が一頻りおろおろしていると、不意に少しばかり口角を吊り上げた男がおもむろに口を開く。



「オレが菓子を持っていない、となると……可愛いサキュバスはオレにどんな悪戯をしてくれるんだ?」


「へ!?」


やはり考えていなかったらしい。もちろんそれは、≪貰える≫と信じていたからであって。

悪戯、悪戯――胸の内で何度もその単語を唱えていた彼女の瞳に、ふと映り込んだリゾットの唇。


言わずもがなトクトクと早まっていく心音。

だが、全身を包み込む期待の眼差し。その優しくも爛々とした威圧感に急かされ、意気込みを示すかの如く彼の肩に手を添えた少女は、ゆっくりと顔を近付け、



「んっ」


恐る恐る贈ったのは、触れるだけのキス。

する側よりされる側に徹することが多い名前にとっては、これが精一杯の悪戯なのだろう。小さなリップ音を立てて離れた恋人。その淡い朱を帯びた頬に、ますます微笑んだ男がそっと囁きかける。



「……名前、それだけでいいのか? これではオレにとって悪戯にならないぞ? むしろ喜ばしいぐらいだ」


「〜〜っ」



求められているモノが何か、ひどく熱っぽい視線にハッと息をのんだ彼女はいやでも理解した。

≪続き≫だ。


口付けでさえ、心がざわめき立って仕方がないと言うのに――しばらくあらぬ方へ双眸を彷徨わせていた少女は、自棄になりながらもう一度同じ動作を繰り返す。



「ン……、ぁっ、ふ……はぁ、っ、は……、……んぅっ!?」


「は、ッ」


「ふ、ぅ……はっ、はぁっ……や……りぞ、とさ……っ待、んん!」


「名前。……もっと舌を出せ。ん……そうだ、いい子だな」



片手で太腿をなでてくるリゾットの口腔へおずおずと舌先を忍ばせたが最後、すっかり誘導され、熱を帯びた舌にぬるりと絡め取られてしまう。

淫らな水音と共に貪られていく粘膜。その途方もない刺激にピクピクと震える腰。


一瞬か、一分か。

口端から伝う唾液を拭うこともできず、ようやく解放された名前はただただ自分たちをつなぐ銀の糸を見つめてから、筋骨隆々とした躯体にくたりともたれかかった。



「はぁ、っ……んッ……はぁ、はっ、はっ」


「……名前」


「?」









「Dolcetto o scherzetto」








「え……、ええ!? り、リゾットさん、仮装してませんよ……ね?」


「ん? オレは、このズボンだ。ズボンが囚人のようだとよく言われるからな」


「(それ、仮装でいいのかな……?)」


「と、いうわけで。名前、オレに菓子はくれるのか?」



まるで元から鞘に剣を戻すように、自然と放たれた問い――言うまでもなく、彼女は驚きに深紅を見張りつつ、慌てた様子でふるふると首を横に振り続ける。

困惑ゆえに伏せがちの瞳。だからこそ、少女は怪しく光った赤い眼に気付くことができなかった。



「……そうか。では――」








「悪戯決定だな」


「きゃあ!?」



次の瞬間、抱き上げられたかと思えば、ベッドの上で四つん這いの姿勢にさせられてしまう名前。

否応なしに顔を出したのは、狼狽。

こちらを貫く不安げな表情。


その揺蕩う目と己の目を確かにかち合わせてから、静かにほくそ笑んだ彼は≪隠す≫という役割を果たしていないミニスカートを捲り上げ、ずっと気になっていた黒い尻尾の細い根元をふと掴み上げる。



「……しかしこの尾、ずいぶん精巧な作りをしているようだが」


「そ、そう、ですよね。私も驚い……、ぁっ!?」


「ふっ、どうした?」


「ぁ、っや……やだ……だめ、っです……そこ引っ張っちゃ、っ、ん!」



黒くシンプルな下着に縫い付けられた、悪魔の尾。

つまり、グイグイと強く引っ張られると同時に、薄い布が恥丘に食い込むのだ。


息を乱した彼女の切実な願い。それはなんとか聞き入れられたらしい。ところが、次に男は「なるほど」と感嘆に似た声をこぼしながら、指先でショーツ越しの陰裂をなぞるように往復し始めた。



「――ひゃんっ! ぁっ、ぁ……ふ、っぅ……はぁ……んっ、さわるの、っやぁあ////」


「ん? もう下着を湿らせているのか? ずいぶんいやらしいな」



前から後ろへ。リゾットの体温が秘部に触れるたびにナミダ目の少女を襲う、溢れた愛液が肌へ貼り付く感触と子宮への強烈な痺れ。

だが、どれほど甘い性感に背を反らし、白い喉を惜しげもなく晒しても、心中において羞恥が優ってしまう名前は否定を紡ぐばかり。


「はぁっ、は……りぞ、っとさ、っぁ……や……ぁ、ちがっ」


「違わないだろう。ココはこんなにも濡れているんだ」


「っひ、ぁあん……!」



質素な部屋を支配する悩ましい嬌声。

シーツをクシャリと握り締める彼女の細い指。

いやいやと慌てて頭を振るうも、胸中の情欲は無遠慮に掻き立てられてしまう。


そして、手を動かしたまま恋人の俯きがちの顔を覗き込んだ彼は、加虐的な面持ちを変えることなく、むしろ笑みを深めた上でテノールを響かせた。



「顔を快感で蕩けさせて……わかるか? オレが指を添えるだけで名前のココはグチュグチュと音を立てているんだぞ」


「あん! ぁっ、いや……ふ、っん……やら、ぁ、りぞっとさ……言わな、でぇっ!」



気が遠くなるほど強い快感が、弓なりになった背筋を駆け巡る。

眉をひそめ、ぽろぽろと無意識のうちにナミダを零す少女。


それが恍惚ゆえだとよく知っている男は、露出した脇腹に言葉では伝えきれない想いを込めるように口付け、あくまで今にも沸騰しそうな興奮を抑えて音を紡ぎ始めた。



「ふむ。そろそろ頃合か」


「?」


「名前、腰を高く上げるんだ」


「っんん、ぁ……、え?」



この人は突然何を言い出すのだろうか。

リゾットからの思わぬ命令――つまり花弁を彼に晒さなければならないという事実に、名前はしばらく双眸を白黒させていたが、不意にハッと我に返り、恥ずかしいと躊躇いを見せる。



しかし刹那だった。


左太腿の付け根に下着をめり込まされ、現れた小陰唇からすでに赤く腫れている陰核が剥き出しにされた途端、先程以上の電流が押し寄せたのは。



「ひぅっ!」


「ふ……快楽で腕の力が抜けてしまったな。その分、臀部がオレに向かって突き出されたわけだが」


「ぁっ、ぁ……はぁ、っはぁ……りぞ、とさんの、っ……ぁっ、あん……いじわる、っ……ひぁ、っぁあ!」



これでもかと言うほど赤面し、キッと彼を睨めつける恋人。そのまま、彼女は姿勢を戻そうとしたが、そうはさせないと言いたげに肉芽が摘み上げられる。

室内に轟いた、悲鳴とも捉えられるあられもない女の喘ぎ声。



「≪意地悪≫か。ではそんな意地悪な奴に啼かされ、愛液を股座から滴らせているのは誰だ?」


「! そ、それは……んっ////」


「太腿にまで伝わらせて。……しっかり舐め取らなければ」


「っあ……りぞっと、さん? ふ、ぅ、っん……いま、なんて……や、ぁっ!?」



不安を潜めた言葉を遮るように、膝辺りまでずらされた網タイツ。

産毛が感じ取る、恋人が近付いた気配。

そして、柔肉へ舌が這わされたかと思えば、言いようのない背徳感と痺れが細い躯体を襲った。


さらに肌が覚えたいくつもの微かな痛み。それが何かを悟った名前は焦燥気味に振り返り、吐息と共に口を開こうとする。



「っひぁ、ん……だめなのっ……あと……そこにつけちゃ、っぁ、っぁ……はぁ、っあん!」


「……」



一方、ひたすら沈黙を貫いたまま、時に蜜を焦らすかのごとくそっと舐め取り、痕を残すため強く吸い上げていくリゾット。


「ひゃうっ、ふ、ぅ……りぞ、っとさ、ンっ……やら、っ……ぁっ、あっ、んん……やらぁ!」


「ん」


「きゃ、ぁあんっ」



ところが、当然と言うべきなのかその動きが止められることはなく、彼女の艶っぽい声音はむしろ高揚を助長させるばかり。

眼前に咲いた紅い華。

己の唾液でテラテラと静かに光る、透き通った白い皮膚。


それらを見とめて、黒目がちの瞳を細めた彼は満足げに口元を緩ませつつ、わざと嘲るような言葉を吐いた。



「まったく、感度がいいな名前は。内腿を舐めるたびに蜜が膣口から溢れてくるぞ」


「はぁっ、はぁ……やら、おねがっ……言わな、っで……ひぁっ、ん……いや、ぁ」


「嫌……? モノ欲しそうに肉襞をヒクヒクさせておきながらよく言う」


「ぁっ!? やっ、ちが……っちが、の……っ、ひゃ、ぁああ!?」



雫で濡れた睫毛を切なげに何度も震わせながら、少女が連呼していたはずの単語が、突如途切れた。


それは、男が大きな両手で鷲掴みにした小ぶりの双丘を左右に押し拡げ、後ろから秘部の愛撫を始めたからである。

息も絶え絶えに名前が首を小さく横に揺らせども、ジュル、ピチャリという男からもたらされる卑猥な音に、ただただ翻弄されることしかできない。


「……ふっ、またこぼれてきたな」


「っあん、だめです……っぁっぁ……りぞ、とさんっ、ふ……ぁっ、らめ、ぇ……おと、やぁあっ」



焦熱のこもった舌先。

蠢くそれに充血した膣肉を何度も攻め立てられ、彼女のしなやかな肢体はしきりにビクリビクリと痙攣していた。



「ん? 否定する必要はないだろう。事実、入口にこうして触れるだけで過敏に反応するほど、名前はいやらしく育てられてしまったんだ」


「や、っ……はあ、っは、ぁ……そ、なこと……なっ……ひゃあ、っん!」


「まったく……素直になればいいと言うのに。(とは言え、淫らになった自分に動揺し、恥ずかしがる姿がまた可愛らしくてたまらないんだが)」



リゾットが小さく笑ったのだろう。静かに吐き出された吐息が快楽にヒクついた花弁を擽る。


ますます内壁を荒らし、掻き混ぜる彼の舌。

そして、無遠慮に弱点を刺激され――訪れるのは、何度味わっても慣れることのないこの≪昂ぶりの予感≫。


「ぁっ、ぁっあっ……んっ、らめぇ! っふ、ぅ……やら……い、っちゃ……!」



くるんと丸い角の付いた黒髪を振り乱しつつ、絶頂を訴える少女。

その様子に口端を吊り上げた彼は、もちろん構わないと言いたげに粘膜を舌先で転がすことでそれを促した。


「ああ。存分にイくといい」


「やらっ、や……りぞ、とさっ……ひぁ、っぁ、んんッ……あんっ、そこばっかり……ぁっ、ぁああん!」



甘く、中毒性のあるオーガズム。同時に、小刻みに震えた尿道から熱が迸っていく。


「はぁっ、ぁ……はっ、はぁ、っはぁ」



もはやベッドに縋り付くことでしか、名前には胎内へ休みなく迫り来る電撃を受け止める術がないらしい。

ピク、ピクと微かに動く婀娜やかな背中を見下ろした男は壊れ物を扱うように、優しくその火照った頬を手の甲でなでる。


次に移った視線の先には、シーツにゆっくりと広がっていくシミがあった。



「ふむ……これはシーツを替える必要がありそうだ」


「! ごめ、なさ……っぁ」


自然な流れで口の周りに付着した愛液を舐め取るリゾット。その色っぽさに少女が慌てて視線をそらすと、顎を掴まれ強引に向き直らされてしまう。



「……こっちを見ろ、名前」


「――んっ!」


「は……ッ」


「んん、ぅ……っ……りぞ、とさん、っぁ……はぁ、はぁっ」


少なからず怒りを灯したテノールと共に重なった唇。ひやりとした部屋を劈いた、舌の絡まり合う水音。

数十秒とは思えない濃厚な時を経て、どちらからともなく名残惜しそうに離れると同時に、とろんと更なる恍惚を帯びる彼女の双眸。


しばらく甘やかなその瞳を凝視していた彼。だが、不意に身体をベッドの脇へずらし、布と金属の擦れる音が聞こえてきたと思えば――



「ふ、っん、ン……」


「……」


「っはぁ、っは、ん……あ、の? えと、どうし――っ、ひゃあ!?」



小さめの羽が付いた少女の背へ圧しかかり、親猫が子猫の首根っこを咥え運ぶように、扇情的なうなじへ柔く歯を立てたのだ。


おそらく服を脱ぎ去ったのだろう。柔肌が感じたぬくもりと突然の刺激に動転し、紅い瞳をぱちくりさせつつ、名前はたおやかな躯体を弓なりにした。


「ん、やはり名前は首が弱いな。……ところで、次はどうして欲しいんだ?」


「ひぅ、っん、は、っは……ぇ、っ? ぁ……そ、なの、言えな……っ」


「名前」


「〜〜っ」



自分がこうして戸惑っているときに限って、耳元でひどく温和な音を囁くこの人はやはりずるい。

しかし、そんなリゾットにどうしても恭順してしまうのは――きっと、相手への愛を伝え、確かめるという点では互いに不器用すぎるから。


下唇を噛んだ彼女がちらりと背後を一瞥すれば、希望と圧力を入り交じらせた黒目がちの眼とかち合う。そして急かすように割れ目をなぞる、パンパンに張り詰めた亀頭。


もはや性交において、≪拒否≫という選択肢は己に残されていない。押し迫る緊迫に少しの間深紅を揺らしていた少女は、ようやく喉を上下させ――



「/////」



チュプリチュプリ。鼓膜に残る水音を一切気に留めることなく、体液に塗れた互いの性器を擦り付け合うように腰を妖艶に揺らしながら、ひどく顔を紅潮させた名前はおずおずと唇を動かした。



「り、りぞっ、とさんの……はぁっ、その……ぁ、っなかに……くだ、さい……!」


「ッ」



下がった眉尻、生理的なナミダで潤む目、上気した頬、唾液で艶めかしく濡れた唇。本人は気付いていないのかもしれないが、切羽詰まった表情で自分を乞う恋人。そのなんと淫らなことだろう。

生唾を密かにのんだ彼はそっとウエストラインに左手を添え、腹部へ右腕を回し――



「ひゃっ、ぁあああ!」


「く、ッ」


「ん……ぁっ、ぁっ、あっ……りぞ、とさ……はぁ、はぁ、らめっ……はげし、っの……や、ぁあんっ」



昂ぶってやまない焦熱をゆるやかに、しかし深く結合させた。

身体を強ばらせ、半開きの口から断続的にこぼれる吐息。


とは言え、滴る蜜に濡れた彼女のナカはその形をしっかり覚えたかのように、そして歓迎するように性器をキツく締め付ける。



「ひぁっ、ん、ふぅ……やらっ……おく、ぐちゅぐちゅやら、っぁ……あん、っ……ぁ……!」


肉襞の止めどない収縮に激しさを増す後ろからの律動。

まるで内蔵を上へ上へと押し上げるかのごとく鋭いそれに、何度も背筋を仰け反らせる少女。

だが同時に、男をもっともっとと求めて前後へ振動する腰部。


すると、快楽ゆえに顔をしかめたリゾットが苦悶交じりの声を、名前の赤く染まった耳に向かって紡いだ。



「はッ、もはや交尾だな。淫乱な雌が雄の子種を強請るように腰を振って」


「っぁ……や……言わな、っで……言、っちゃ……ひゃぁあん!?」



次の瞬間。何を思ったのか、彼が彼女の上へ覆い被さるように体重を寄せた。

そしてジャケットへ無骨な左手が添えられた刹那、ぶるん、と勢いよく弾け出される乳房。

これまで触れられることのなかった乳頭を荒々しく捏ねくり回され、少女は一際甘やかに喘ぐ。



「やっ、ぁっぁっ、ぁっ……おねが、っりぞ、とさ……んっ、ぁ……さきっぽ……らめな、の、ぉっ」


「……こら、なぜ嘘をつくんだ。名前のナカはどこまでも正直に締め付けてくると言うのに」


「ひゃう……!」


「ふっ」


片手はシーツを、もう片方はベッドの柵を掴み、引くことのない快感を享受する名前。その右手を上から優しく包む男の手のひら。


ギシッ、ギシッ

烈々たる男女の動きに、一定のテンポで悲鳴を上げるスプリング。


コリコリと乳首を弄ることで見られる恋人の反応を堪能していたリゾットが、ふと子宮口に先端を勢いよくめり込ませれば、更なる性感によって彼女は混乱に似た恍惚を顔色に宿した。



「――!?」


「やはり子宮口を攻め立てられるのがイイんだな……」


「はっ、はぁっ、やら……ぁっ、ぁ……いまの、っん……や、ぁああっ」



嬌声と吐息だけが響く部屋。肉と肉のぶつかり合う生々しい音。

欲求、本能、自身の中のすべてを曝け出しつつ、二人は恋うてやまない互いの名を呼ぶ。


「ん、っぁ……りぞ、とさ……ぁっ、あんっ、ふ……っぁっぁ、っぁ……りぞっ、とさ……!」


「……く、ぅッ……名前、名前ッ」



そのとき、白く霞みぼんやりとした脳内を過ぎったのは、先程と同じ――いや、それ以上に強い終末感。


「ぁっ」



彼もそろそろ限界なのだろう。

蠢く粘膜を爛れさせ、掻き乱していた肉棒はますます肥大し――


「は……ッ、はぁ」


「はぁ、っはぁ、っは……りぞ、とさん……ぁっ、わたし……っわたし、ぃ」


「名前……。一滴残らず、搾り取るんだぞ」


「ひゃっ、ぁっ、あん……は、いっ……やっ、んッ、ン……も……ぁっぁっ、あっ、ん、ぁああ……!」



幾度も繰り返された頷き。

それが引き金となったのかもしれない。

焦熱が脈打った途端、ドプリと鈍い音を立てて溢れゆく男の想い。


一方、ただただ終点を迎えていた少女は、怒涛のごとく現れた快楽に瞠目し、女体を静かに痙攣させる。



「ッく」


「ひ……っや、やら……ぁっ、らめぇっ! ん、っぁ、っぁ……らめ……っいま、あついのきちゃ……ひぁ、っぁああん!」



肢体を震わせる中、爆ぜた白濁液に再び絶頂の享受を強いられ――さらに弾ける白い光。

胎内の入口を覆う恥肉に膨張した鈴口を押し付けられながら、叩きつけるように最奥へ焦熱を注ぎ込まれる強烈な感覚。






一分後、今や頭を垂れた陰茎がそっと引き抜かれたことで、乱れた呼吸をなんとか整えていると、不意にリゾットが名前を抱きすくめた。



「うろ覚えな知識だが、サキュバスは男の精気を吸うんだろう?」


「ぁ……はぁっ、はぁ……っん……は、い。そうらしいです、けど」


「なるほど。つまり、名前は≪まだ物足りない≫ということか」


「? りぞっと、さん……?」



自然とぶつかる視線。その自分のモノとは違う深紅に、まるで吸い込まれるかのように彼が瞳を見つめてくることで、恋人は気恥ずかしいのだろう。


「っ/////」



頬を染め、狼狽える姿を目にして、痛みを覚えるほど再び反応する自身。

眼前の彼女は≪終わり≫だと信じているようだが、己の中の精気は有り余っているのだ。


すべてはそう、潤んだ瞳を心許なさそうに自分へ向ける、あどけないサキュバスが愛らしいゆえに。

だから――



「遠慮せず、オレを求めてくれ」


「えっ!? そんな……っあの、待ってくださ――ひゃあん!」


「待たない」



ズクリ。交じり合った体液が生々しい音と共に溢れ、ひどく熟れた膣肉を再び圧迫する男根。

嬌声に滲む焦り――だが、羞恥によって嫌がる素振りを見せつつも、背中から強く抱きしめてくるリゾットを、そして彼から促される快感を名前は確かに受け入れていた。










〜おまけ〜



「(うう、またあんなに……っ私)」


「名前。≪夜這い≫をしに来てくれたのは君だと言うのに、そう困ったような可愛い顔をするんじゃあない……」


「なッ……何言ってるんですか、リゾットさん! よ、夜這いなんて私考えてません!」


「ん? そうなのか?」



その後、数回の行為を経て――ゆったりとピロートークを重ねていた二人だったが、突如恋人から放たれた上記の言葉に、名前は顔を真っ赤に染めながら慌てて声を上げた。

一方、≪夜這い≫だと信じて疑わなかったらしい。自分を抱き込んだまま、不思議そうに首を捻るリゾット。


すると、すべてを見透かすような視線にこれ以上翻弄されぬよう、彼女はこれでもかと言うほど何度も頷いてみせる。


「確かにお菓子はいただけるかなって思いましたけどっ、私はただ驚かせたかっただけで――んぐっ」



刹那、コロンという音と共に少女の口内を柔らかな甘みが襲った。


「……ふ、冗談だ。名前にそのつもりがなかったのは、わかっている(少々残念ではあるが)」


「〜〜っ(もぐもぐ)」


「これで≪Dolcetto o scherzetto(菓子か悪戯)≫ならぬ、≪Dolcetto e scherzetto (菓子と悪戯)≫だな。美味いか?」



耳たぶを掠める婀娜やかなテノール。それにピクリと肩を揺らして、不貞腐れ気味ではあるものの、コクコクと首を縦に振る恋人。

その可愛らしい反応に柔和な微笑を浮かべた彼は、相変わらず角(カチューシャ)が付いた小さな頭を大きな手のひらで優しくなでつつ、サイドランプを灯したときから脳内に宿っていた疑問を口にする。



「だがなぜ、このようなコスプレを? 今日がハロウィンであることは把握したが……どうもサキュバスを通販で購入した覚えがない」


「! えと……実は、プロシュートさんが仮装用にくださったんです」



おずおずと話し始めた瞬間、部屋を包む不穏な空気。当然だが、男の眉間に幾本も増えるシワ。



「プロシュートが?」


「(こくん)」


「……」


しばらく経てども、変わることのない静寂。

リゾットを見上げてはそそくさと視線を落とした名前は、あえて逞しい胸板に顔を寄せ、心情をぼそりと呟いた――



「やっぱり、皆さんにお見せするの恥ずかしいな……(でも、お菓子のために頑張らなきゃ)」









「名前ッ! まさかこの格好で部屋を出るつもりなのか!?」



――つもりだった。


もしかすると、目の前で黒目がちの瞳を見開いている彼は地獄耳なのかもしれない。

じっと己を突き刺す眼光。それに耐え切れなくなったのか、彼女が静かに打ち明け始める。



「はい。仮装をしたら、昨日いただいたお菓子がまたもらえ――」


「ダメだッ!(この姿の名前をあいつらに晒すなど、飢えた野獣の群れの前に子猫を歩かせるようなモノだ……!)」


「え!? そ、そんな……どうしても、ダメですか?」


「グッ。……そのように潤んだ瞳でオレを見つめても、ダメなモノはダメだ。諦めなさい」



――これで名前が納得しなければ、今日一日ベッドから動けなくなるよう≪行為を再開する≫ほかないな。

そんな、危ない思考を胸中に過ぎらせながら、狼狽に満ちた深紅の瞳を捕らえている、と。



「!」


いつもはハグでさえ照れくさそうに受け入れる名前が、自分――しかも半裸状態――にぎゅうと抱きついてきた。当然、身長差ゆえに上目遣いである。



「リゾットさんっ、お願いします! 私……プロシュートさん特製のお菓子が食べたいんです……!」


「ッ(……なんて可愛いんだ。しかしプロシュート、許すまじ。この子を菓子で引き寄せるだけならまだしも、衣装を着させるとは。やはり、名前の姿をあいつらに見せるなど言語道断――)わかった。君がそこまで言うなら、オレが≪代わりの衣装を見繕う≫」


「?」









正午前。おはようございますっ――と背後から鼓膜を揺さぶった声音に、男はにやりと口端を歪ませた。


「Buon giorno、名前。昨日のアレはちゃんと着て……」


きたのか。

紡ぎ出そうとした言葉の続きは、振り返ったと同時にあっけなく消滅してしまう。


なぜなら――



「……おい。なんだそれは」


「えへへ、メタリカちゃんです!」



キッチンの真ん中に佇む、目が眩むほど白いシーツを纏った彼女。その布には、ご丁寧にもメタリカらしき顔と傷跡が黒い糸で刺繍されているではないか。

確かに、耳を澄ませば≪ロォォオド≫、≪ロオオド≫と、なんとも言えない声が聞こえてきそうだ。


が、三半規管を働かせている場合ではない。

カッと瞠目したプロシュートは、両手をパタパタと動かし、嬉々として正体を話す少女に勢いよく詰め寄った。


「はあ? ウソだろ!? オレが渡したあの≪サキュバス≫はどうした!」


「ご、ごめんなさい、プロシュートさん。実は……リゾットさんに没収されちゃって……」


「Vaffanculoッ!」



思わずパロラッチャを発すると、申し訳なさそうに項垂れる名前、ならぬメタリカ。

とは言え、きちんと≪仮装≫はしているので、彼が渋々アマレッティがいくつか乗った皿を渡し真っ白な後ろ姿を見送っていると、視界の隅に映っていた焼き菓子が一つ、消える。


「なるほど、アマレッティか」


「テメー……よくもやってくれたな。え? 一人あいつのコスプレ堪能した上に菓子も食いやがって、余裕綽々ってか。リゾットさんよお」


「それはこちらのセリフだ。お前があのような蠱惑的なモノを名前に渡したことで、仮装用にシーツをもう一枚使う羽目になった(それにしてもメタリカの仮装で喜ぶ名前……ダメだ、愛らしすぎる)」


「リゾット、今オメーが考えてることはわかる。確かにアレも可愛いッ! だがオレは、≪あの服を着た名前≫が見たかったんだよ!」


あくまで表面上は真顔、対して心中では歪みなくデレデレしている隣の男に、優男がひどく頬を引きつらせつつ叫んだのは言うまでもない。




一方、リビングに戻った彼女は、嬉しそうに受け取った菓子を味わっていた。

サクサク、ふわふわ。


風味や食感、それらすべてに少女の表情は一段と輝くばかり。



「(もぐ、もぐもぐ……やっぱりすごく美味しい!)あのっ、プロシュートさん!」


場所は変わってキッチン。鈴を転がすような声が届いたかと思えば、タッタッと駆け寄ってくるメタリカ姿の名前に、プロシュートは美しい海をそのまま映したかのような双眸をおもむろに細める。



「ん? なんだ名前。やっぱあの衣装を着る気になったのか?」


「そ、そうじゃなくて……! アマレッティを作ろうとするとなかなか上手くできないんです。だから……今度、ぜひ教えていただけたらな、って思って」


「……ハン」



自然とこぼれたのは、呆れと高揚が入り交じったため息。計画通りにはならなかったが、彼女はどうにも自分を喜ばせるのが上手い。


クツクツと楽しげに鳴る喉。

緩やかに笑みを深めた彼は、不意にシーツを剥ぎ取り、現れた少女の顎を指先でクイッと持ち上げた。



「そんなに言うなら、今からじっくり――手取り足取り腰取り教えてやろうじゃねえか。……≪オレの部屋で≫、な」


「? えと、どうしてプロシュートさんの部屋に……、っきゃ!?」



次の瞬間、その細い腰を抱き寄せ≪どんな悪戯をしてやろうか≫と思案しながら、自身の部屋へと歩き始めるプロシュートと、詳細を尋ねる暇もなくただただ足を動かす名前。



「プロシュート……ッ!」



そして、それを凄まじい形相で彼女の恋人が追いかける。今のところは、メタリカを放つつもりはないらしい。


こうして、悠々と菓子をつまんでいた面々の眼前には、異例の――いや、普段通りの光景が繰り広げられているのだった。



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