しかし。
「……もっと言ってくれ」
「〜〜っで、でも……ぁっ」
「言って、くれないか? 名前の気持ちが知りたい」
「ッ……リゾットさん……」
トクン、とテンポを刻む鼓動。
いまだ羞恥からは抜け出せないものの、こちらを見下ろす穏やかな眼差しに、心が揺れ動かされた彼女はおずおずと想いを声に乗せた。
「す、す……、……好き、です」
すると、ただただ幸せそうに微笑み、彼はほんのり赤く染まった頬に口付ける。
「……オレもだ、名前」
「/////嬉し、いです……、っ? ぇ、きゃ、っぁああ!?」
はにかむ少女。
おそらくその様子が、起爆剤となったのだろう。
膝裏を両手で持ち上げながら、腰の動きを再開――さらに激しくさせた男は、恥骨側にある弱点を集中的に攻め始めた。
当然、瞳に動揺を浮かべつつも、途切れ途切れに快感をこぼす名前。
「ぁっ、いきな、り……っん、ぁ……ぁっあっ」
「名前……、ッ」
「はぁ、ぁっ、ん……す、きぃ……リゾットさ、リゾ、トさっ……や、ぁっぁっ……、ぁああああ!」
「!? ぅッ」
ビクン
次の瞬間、突如性器を締め付けられ、思わぬ快楽から堪えるようにリゾットは眉をひそめる。
この感覚――自分がまた絶頂を迎えてしまったのだと、火が出るほど真っ赤な顔で結論付けた彼女は、誰からどう見ても≪男を置いてきぼりにした≫という状況にしゅんと項垂れた。
「っ、ごめ、なさい……」
けれども、荒い息のまま悄気る少女に対し、気にするなと言うかのように彼は、
「謝らなくていい。むしろそれほど感じてくれたと思うと、こんなにも喜ばしいんだ」
と、頭を優しくなでる。
その手つきに、ホッと安堵を滲ませた恋人。
「だが……オレも辛い。続けさせてはもらうぞ?」
「え、っ……ぁ、そん、な……やっ、ぁああんッ!?」
これでは完全に生殺しだ。
シーツに広がった艶やかな黒髪を振り乱し、紅い瞳に生理的なナミダを浮かべる姿に胸を高鳴らせながら、名前の好きな場所ばかりにモノを打ち付けた。
「……ッ名前……名前」
「ひぁっ、ぁっぁっあっ……おか、しくなっちゃ……やら、っぁあ」
「ふ……イった直後は感じやすいらしいが……名前、気持ちいいか?」
「っ、ふぁ、ぁッ、っひゃう……そ、なのっ、わからな……っぁ、あん!」
下肢から片手を外し、ずいぶん触れていなかった乳房を弄ったまま――考える。
≪壊れ物を扱うように優しく触れておきながら、自分がいなくては生きていけぬようひどく壊してしまいたい≫。
彼女に出逢えてから、生まれた矛盾。
充足感に征服欲、そして嫉妬。
劣情も含んだそれらの感情は、自分には無縁だと思っていた。
だが、この方が≪人間らしく≫ていいのかもしれない。
「リゾット、さ……っぁ」
「名前」
何度呼んでも呼び足りない。
同じ官能へ引き込むように揺さぶる躯体。
身体の芯に集まった熱を共有しようと、顔を綻ばせた少女の膣内に沈み込ませる。
そして、
「ぁ、っまた……はぁ、ぁっ、らめ、ぇ! ま、たイって……ひゃっ、ぁあッ」
「くッ……!」
「ひ、ぁっぁっ、りぞ、っとさ……っぁ、あん、はっ……やっ、ぁっ、ぁああああ……!」
子宮内を埋め尽くす彼の子種。
次から次へと襲い来る快感に堪えるため、名前は肢体すべてを使ってぎゅうと恋人にしがみついた。
「ん……っ」
薄らと瞼を上げれば、そこは白い世界。
どうやら三回目の絶頂と共に意識を飛ばしてしまったらしい。
「ぁっ、ん」
朝の寒さを忘れさせてくれる温かな身体から抜け出し、おそらく床に落ちているであろうパジャマに手を伸ばす。
「……あ、れ?」
だが、布の上にあった己のスタンド――翡翠の十字架を取った彼女は、思わず小首をかしげた。
浮上する違和感。
そう、クロスの一部分だけが黒いのだ。
濁りゆく姿が、まるで何かを予兆させるかのように――
「っ、今まで気付かなかったけれど……」
過ぎる不安。
空気の冷たさに身震いする産毛のことも厭わず、十字架を静かに凝視していると――
「ひゃ……っ!」
不意に、腰から下だけを潜り込ませていたこともあるのか、ベッドへ逆戻りした自分。
ポトリと落ちるクロス。
背中が捉えた体温に目を白黒させながら振り返れば、少し寝ぼけ眼の恋人がこちらを見据えていた。
「あっ、リゾットさん……おはようござい、ます」
「……どこへ行く?」
鼓膜に届く掠れた声。
枕にいたずらをされたのか、跳ねた髪。
無防備なそれらに心臓が一層激しく高鳴るのを感じつつ、眉尻を下げた少女はおもむろに口を開く。
「えと、どこというよりは着替えようと思って……、ひゃんっ!?」
「もう少し、傍に……」
「え? ええっ?」
どうしよう、困った。
動けぬまま困惑していた名前は、ふと昨夜――というよりは今日明かされた、≪不安≫という言葉を思い出す。
同時に、その直後切り替わった柔らかな微笑みを脳内に浮かべたことで、抵抗する気も自然と消え――彼女は大人しく彼の腕の中に収まることにした。
「ふふ……はい、わかりました」
「ん」
短い頷きの次に聞こえてきたのは、規則的な寝息。
それを耳で捉えた少女が、男と真向かいになるようくるりと振り返り一人はにかむ。
普段より幾分か幼く見える寝顔。
時折風で揺れる長い睫毛。
可愛い――それが率直な感想だ。
「リゾットさん……」
――大好き、です。
リゾットを起こしてしまわないよう小さく想いを紡いだ名前は、いつ何時でも自分を包んでくれる逞しい胸板にそっと右頬を寄せた。
Un sogno del giorno
二人同じものになることを、願って。
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