※いわゆる一つの猥談
※出演、リーダーとヒロイン以外
「ねえ、リーダーと名前って、普段どんなセックスしてんのかな」
「「……ぶッ!?」」
いつもと変わらないリビングで、メローネがおもむろに発した、ある意味彼らしい一言。
それに過敏な反応――コーヒーを思い切り吹き出したギアッチョとイルーゾォを一瞥して、ソファへ優雅に腰を下ろしていたプロシュートは大げさなため息をついた。
「チッ、この童貞どもが。つーか、お前のことだ。どうせ盗撮とかで知ってんだろうが」
「あはは、さすがのオレでもそんなベリッシモ大胆なことはできないよ。リーダーの部屋に仕掛けた小型カメラ、見つかって一瞬で潰されちゃったし」
「結局したことはあんじゃねェか……ったく、しょォがねェな〜! 前、≪ネコ耳の名前萌える≫とか呟いてたから、そういう系のプレイしてんじゃねェの?」
「……テメーら、何フッツーに話を進めようとしてんだよッ!」
目を剥いたギアッチョが、ペッシからタオルを受け取りながら叫ぶ。
その絶叫に集まる皆の視線。
グッと詰まった彼に対し、受け継ぐというかのようにイルーゾォがうんうんと頷いた。
「そうだよ。二人のプライベートの問題なんだしさ……というか、オレは童貞じゃない。オレは!」
「ハン、どうだか。お前の場合、抱きたくてもそのままできませんでした、ってオチがありそうだからな」
「な……!」
腕を組み、クツクツと喉を鳴らすプロシュートに、男が唖然としながら口を開こうとする。
しかし――
「ちょっと、脱線しかけてるよ! オレは、名前がリーダーにどんな風にあれよこれよと食べられちゃってんのかな、って聞いてるんだからね!?」
「なンで妙に熱くなってんだよ、メローネの奴。鬱陶しいぜエエエエ……!」
「ギアッチョ、落ち着けって。まァ、名前に出逢う前までのリーダーはよォ……よく言えばストイックだが、悪く言えば朴念仁だったろ? 気になんのも無理はねェよ」
「そうそう! これは興味! 別に知ってどうこうしようってワケじゃないから!」
へらへらと笑ってみせるメローネ。
そんな彼に男たちがじとりとした視線を向けた。
一方、しばらく考え込んでいたペッシは、何かを思い至ったのかおもむろに顔を上げる。
「真実の愛を見つけたんすかね、リーダー」
「……ペッシ、お前意外に詩人だな」
弟分の思わぬ発言。
紫煙をふかしていたプロシュートが少し目を瞠ったのに対し、メローネは「ベネ」と口端を上げる。
「真実の愛ね……確かにそうかも」
「……美女と野獣」
ぽつり。
そのイルーゾォが呟いた言葉に全員が吹き出した。
「ちょ、美女と野獣って……!」
「ぶふっ……さすがメルヘンなスタンドを持つだけあるなァ!」
「う、うるさい! なんでこんなときに限って聞き逃してくれねえんだよ!」
リビングに響いた笑声。
それがようやく止んだころには、彼らの顔はなんとも言えない疲労に満ち溢れていた。
だが、話は終わっていないと、翡翠の目を再び輝かせるメローネ。
「はー笑った。でもさあ、でもさあ! 名前のコスプレだったら、オレ≪ミニスカポリス≫が見たい! 絶対にディモールト・ベネだよな! ≪逮捕しちゃいますよっ≫とか言われながら逮捕されたい……!」
「おいおい、逮捕されてどうすんだよ。肝心なのはそっからだろ」
「そっからアア? どういう意味だ、はっきり言いやがれ!」
もはや止めても止まらない――そう判断したのか、ギアッチョが改めてコーヒーを飲み直しながら、尋ねる。
すると、煙草の火を消したプロシュートがニヤリとほくそ笑んだ。
「ハン、そんなの逆に≪捕まえて≫やればいいんだ。ミニスカポリスの名前が持ってた手錠を使って、な」
「!? プロシュート……あんた、まさか!」
「ふっ……路地裏の電柱に手錠で拘束され、嫌がるそぶりを見せる名前。そして、必死にくねらせる身体をじっくり甚振りながら美味しくいただく……最高にベネじゃねえか」
「ベネ! ベリッシモイイよッ! さすが、数多の女をひっかけてきただけのことはある! あんたはプレイの宝箱だよ……!」
感無量。
尊敬の念。
それらすべてを身体で表すべく、メローネが一人バッと腕を広げている。
一方、イルーゾォとギアッチョはすぐさま脳内で光景を再生してしまったのか、鼻から何か赤いものを垂らしていた。
「おいおい、褒めても何も出ねえぞ。それに、今は名前一筋だからな。つーか、実際買ってんじゃあねえのか? リゾットの奴」
「ハハハ! まッ、リーダーもやることやってるからな」
「うんうん、確かに! 手錠とか塗られたらヤラシー気分になるぬるぬるのローションとか、こっそり調達してそうだッ」
やいのやいのと騒ぐ組と、自然と妄想の世界へ旅立っている組。
彼らの動きを静かに見守っていたペッシが、恐る恐るといった様子で口を開いた。
「あの、みんなの言ってること……あながち間違ってないかもしれないっす」
「「「「「……え」」」」」
静寂が支配する部屋。
その、凍り付いた空気から最初に抜け出したのは――
「おい、どういうことだペッシ。お前……何を見たんだ……!?」
発言者の兄貴ことプロシュートだった。
「あ、兄貴……実は」
珍しく動揺をうかがわせる彼に対して、弟分であるペッシは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「実は、リーダーにコーヒーを運んだ時のことなんすけど、偶然部屋には誰もいなくて、パソコンだけ開きっぱなしの状態だったんですよ。それで、前にリーダー、節約って言ってたからスリープモードにしようとしたら、間違って検索のページを開けちまったんです。焦ったのは焦ったんすけど、その検索欄に――」
「(ゴクリ)……検索欄に? ペッシ、な、何が書いてあったの!?」
「≪手錠 通販≫やら≪プレイ 一覧≫って、明らかに仕事に関係ない言葉が出てきて……!」
「「「「「……」」」」」
まさかのカミングアウト。
ワッと両手で顔を覆い隠す弟分を慰めるように、そっと肩へ右手を置いてから、少なからず青筋を立てたプロシュートがゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「……どうにかあいつを、しばらく≪不能≫か何かにできねえのか。頭に浮かべんならまだしも、リゾットのことだ。本気でヤりかねねえ」
「ハハッ、プロシュート。お前も極端だなァ……ま、名前も≪ほぼ毎晩≫じゃあ大変だろ。いくら吸血鬼ちゃんでも最近は睡眠不足で辛そうだし。不能が≪一生≫じゃねェなら、俺は賛成」
「ちょ、こんなときに意気投合すんなよ、年長組! 確かにリーダーは名前を前にしたら性欲の化身かってぐらいすごいけど、さすがにそれは可哀そうじゃ――」
豪快に手を叩いて笑う丸刈りの同僚に、思わず叫んでしまうイルーゾォ。
しかし、彼の言葉を遮るかのように、≪あの男≫が動き始める。
「不能……不能、ね。アレとアレを混ぜて…………ベネ。楽しそうだ」
「ほーう、できるならやってみろよ」
ニヤリ
吊り上げられた口端。
何かを思案するブロンド二人に、先程まで爆笑していたホルマジオがふと首をかしげた。
「おいおい。お前ら、マジで何をおっぱじめる気だァ? なんか共通の≪目的≫でもあんのかよ」
すると、返されたのは――
「あ? んなモン」
「決まってるでしょ」
これでもかと言うほどあくどい笑み。
「……あの顔。アイツら、ロクでもねえこと考えてやがるぜエエエ」
「大丈夫かな……」
この二人が組むと、漠然としていても危ないと感じる。
押し寄せそうな事件に、ギアッチョは静かに舌打ちをし、ペッシはただただ苦笑を漏らしたのだった。
続、く……?
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