somma 〜39〜

※メローネの例のお見舞い品
※短め





「んー、今日はどれを読もうかな」


ある晴れた朗らかな日。

物語からエッセイまで――さまざまな種類の本が詰まった部屋の本棚の前で、名前は迷っていた。


ちなみに、いつも彼女を抱きしめて怒られるまで離さないリゾットは、仕事の話をするためかここにはいない。


「うーん……よし」


今日はこれにしよう。

小さく頷いた少女は期待に瞳を輝かせながら、少し高い場所にある目的のモノへと手を伸ばす。


ところが。


「きゃっ!?」


その一冊を抜き取った途端、もう一冊の薄い本が床へと落ちてしまったのだ。

当然、名前は慌てた様子でしゃがみ、空いている手で掴む。


そして、こちらへ背を向けていた、本というよりは雑誌に見えるそれをするりと持ち上げ、



「え……っ?」


表紙を視界に映した刹那――彼女の中の時が止まったような気がした。


壁へ添うように寄せられた躯体。

滑らかな曲線美。

白い陶器のような美しい肌。

水に濡れ、普段とは違う色を魅せる黒髪。

こちらを射抜く扇情的なまなざし。



「……、えっと」


文字ばかりが目立つ本棚にしては珍しく、写真集だ。

それも≪大人向け≫。



「こ、これは……」


――リゾットさんの、だよね?

かなり長居させてもらっているが、ここは彼の部屋。


自己主張を始める心臓の鼓動。



こういったモノを持っているのだろうか、と思い至らなかったと言えば嘘になるが、実際目にすると当然ながら動揺してしまう。


「……」


パラリ、パラリ

地べたに座り込んでいることも忘れて、読むはずだった本を傍に置いた名前が、静かに光沢のあるページを一枚一枚捲っていく。



部屋に淡々と響く、上質な紙と紙が擦れ合う音。


しばらくして、ある結論に辿り着いた。



「……、私」


――リゾットさんを……満足、させられてないのかな……。

心を支配するのは≪一つの不安≫。


大切な彼と身体を重ねることが嫌なわけではないが、どうしても羞恥と矜恃が邪魔をする。


「……ッ」



――勉強、しよう。

決意を新たにそのまま写真集を読み進めていく。



しかし――


――自分から足を開いて……こ、こんなポーズできない……っ。

――でも、リゾットさんは好きかも、しれないんだよね。


ジレンマでぐるぐるする脳内。

これでもかと言うほど顔を真っ赤にした少女と淫らな写真たち。

そのような不釣り合いな光景がいつまで続くのか――カタッと風で窓が軋んだ矢先のことだった。





ガチャリ



「入るぞ……名前? ……あ」


「!」



男の視線の先には――もちろん、自分の手の中にある雑誌。

さらに不運なことに、今しがた開いているのはもっとも過激なポーズの箇所である。



「り、リゾットさん……!」


バッと勢いよく立ち上がる名前。

そして、扉の前で立ち往生しながら大きく目を見開いている彼と床を、彼女は交互に見つめ――



「〜〜っごめんなさい!」


「!? 名前、待て――」


「ししししばらく! 一人にさせてくださいーッ!」



脱兎のごとく、男の横をすり抜けた。


――怒っていらっしゃるかな……ううん、とりあえず今は――



≪逃げなくては≫。


今更ながら、災いの元である物を胸に抱いて飛び出したことを後悔するが、引き返す余裕はない。



「は、ぁっ、はッ……はぁ……!」


とにかく、名前は確固たる避難場所を探していた。




続く



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