※みんなにご報告
「少し、聞いてほしい」
教会から帰宅後。
皆で夕食を取る中、リゾットは神妙な顔で――とは言っても常に無表情に近いのだが――口を開いた。
一方、つい先程口に放り込んだばかりのパスタを咀嚼しながら、プロシュートが眉をひそめる。
「なんだ? また仕事でも増えたのか?」
「うわー、それは(名前に言葉のセクハラする暇がなくなるから)ベリッシモ嫌だな……」
「……なあ、メローネ。それワザと? ワザとだよな? お前の心の声だだ漏れだから……!」
彼に続き、メローネがぽつりと呟いたかと思えば、一瞬で青ざめた隣の席のイルーゾォ。
そんな明らかに≪そのとき≫ではない雰囲気を気にすることなく、
「名前と付き合うことになった」
リゾットは話を続けた。
「! り、リゾットさんっ」
当然、まさか報告までするとは思っていなかったのか、カッと頬を赤くする名前。
下唇を噛み、恥ずかしそうな彼女に対し、仲間たちは――
「……」
「……」
「……」
「なァ、ギアッチョ。そこにある胡椒取ってくれねェか?」
「……ほらよ」
「悪ィな! それでよォ、俺の猫が――」
と、普通に会話を再開した。
それに≪解せぬ≫となるのは、第一声を発した暗殺チームリーダーである。
――なぜだ。
「……ペッシ」
「! ど、どうしたんすか? リーダー!」
平然と食事を始める彼らの傍でオロオロしていた、左隣のペッシを捕まえ、問う。
「なぜ、皆驚いたりしないんだ……」
「え!? えーっと……それは」
「それは?」
答えを求めるまなざし。
頬を伝う冷や汗。
視線を彷徨わせる彼とそれを容赦なく追う男に、さすがに可哀そうだと傍観していたメローネが飄々と喋り出す。
「ねえリーダー。むしろおかしいと思わない? 今まであんたと名前が付き合ってなかったと周りに感じられていることの方が」
「……、!?」
「思ってなかったんだ」
そう、彼らにとっては≪二人が恋人同士でないこと≫の方が不可解だったのだ。
しかし、その返答が予想外だったのか、リゾットは大きく目を見開き固まっている。
それを一瞥して、ギアッチョが大きなため息をこぼした。
「ハン、メロンの言う通りだ! テメーら、焦れったすぎんだよ。だから、驚きも食べ物を喉に詰まらせることもしねえ」
「……あの、プロシュートさん……」
「ん?」
「その……っち、近いです……!」
説教を口にしていたプロシュートの腕は、なぜ自分の肩に回っているのだろう。
そういう意味も込めて彼を見上げれば、返ってくるのはニヒルな笑み。
「近い? ふ、こんぐらい普通だろ? キスするわけじゃあるめえし」
「!」
「……まあ、オレはしてもいいんだぜ? ……いや、強いて言うなら≪今もオレはしてえ≫んだ」
ますます近付く端整な顔。
その蒼い瞳に浮かんだ≪本気≫に、慌てて前のように彼女が両手で壁を作ろうとすると――
「ちょっとちょっと! オレだって名前とキスしたい! 名前、オレとしようぜ!」
立ち上がっていたメローネによって引き離された。
だが、今度はにっこりと笑った彼に抱き寄せられている状態である。
「え? ええっ!? いや、私は――」
「≪嫌よ嫌よも好きのうち≫って言葉あったよね。ほら、目瞑って」
「!?!?」
ブチッ
「――くらえ、『メタリカ』ッ!」
「グッ」
「ベネ……ッ!」
突然の惨状。
そして、さまざまなことに怒れるリゾットが、大切な名前からベリッと引き剥がすように、今しがた攻撃を食らった二人の襟足を掴んだ。
ずるずると踵を床に擦り付けて、リビングを出ていく血まみれの男たち。
残された者の唇からは、呆れと苦笑。
「チッ、アイツらよオオ! いつの間に≪死にたがり≫になったんだア? 懲りねえにもほどがあんだろ……!」
「まあまあ、そう言ってやんなって。あいつらなりの祝福なんだろうよ……しょォがねェな〜!」
「と、とにかく……名前、よかったっすね!」
「相談とかあったら、遠慮せず言っていいからね」
優しい言葉。
なんだかんだ言って仲間想いな彼らに、温かい気持ちを抱きつつ少女は小さくはにかんだ。
「えへへ……ありがとうございます!」
それから、二つの嫌な悲鳴が聞こえたような気がしたが、皆が何も言わないので名前は笑顔で食事を続けることにした。
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