※お疲れのリーダーに……。
※リーダーがひどい
「失礼します。リゾットさ……あれ?」
静かに扉を押した名前は、ベッドで横になっているリゾットに思わず目を見張る。
パタン、とできる限り小さな音でドアを閉めてから、彼の元へ近付けば耳を掠めた寝息。
――珍しい……。
生業が生業なだけあって、足音一つでも目を覚ます男が、今は瞼を閉じ続けている。
彼女自身は知らないが、またプロシュートにでも酒を盛られたのだろうか。
「……」
「……(じーっ)」
「……」
「……っ////」
毎日眺めても飽きない、精悍な顔つき。
しわが刻まれていない眉間。
さら、と揺れる短めの髪。
高い鼻梁。
どんな夢を見ているのか知りえないものの、少しだけ上げられている口元。
当然、穏やかな表情をした愛しい人に、名前がボンッと頬を赤らめないはずもなく。
「リゾット、さん……」
ああ、もしかしたら自分もこの雰囲気に酔ってしまったのかもしれない。
ドクン
ドクン
「……ッ、お仕事、お疲れ様です」
高鳴る鼓動に急かされるまま、少女は彼の少しだけ開かれた唇へ顔を寄せ――
チュッ
「!」
柔らかい触感に、バッと熱いやかんに手を置いてしまったときのように反射で後ろへ下がる彼女の身体。
「〜〜っ!?」
――わ、私……何してるの!?
まるで寝込みを襲うような――そう自分を叱咤し自覚した途端、堪えきれなくなった名前は、勢いよく部屋を飛び出した。
「……名前?」
一方、偶然リゾットに用事があったプロシュートが、彼女と入れ替わるように足を踏み入れる。
そして、すぐさま遠ざかった黒い背の理由を悟った彼は、大げさにため息をついた。
「……リゾット。お前、何≪狸寝入り≫してやがる」
「プロシュートか」
淡々と――いや、もはや呆れに達した男の声が届いた瞬間、カッと開かれるリゾットの目。
いつからかはわからない。
だが、仲間に引かれてしまうほど彼が破顔していることから、名前がキスをしたときにはすでに起きていたことが窺える。
「ああ、名前……なんて可愛いんだ……やはり迷わずに名前の腕を取り、ベッドへ引き込めばよかった。そうすれば……この≪熱≫も収まるに違いない」
「は?」
シーン
嫌な意味で静まる部屋。
ヒクリと頬を引きつらせながら、プロシュートはある疑惑を胸に言葉を紡ぎ出した。
「……おい。まさかお前……」
「…………皆まで言うな」
ふいとそらされる黒目がちの眼。
つまり可能性への肯定。
ブチッ――彼の中で何かが切れる音がした。
ゴゴゴゴという音が底から響くと同時に、男の背後に現れたのは言わずもがなグレフルである。
「よォし、待ってろ。今すぐそのおっ立ててるモンも含めて、テメーをよぼよぼにしてやるからなァ……?」
「!? なんだ、と……待てッ、早まるなッッ! そんなことをされたら、名前を悦ばせてやれな――グッ!?」
「ザ・グレイトフル・デッドォオオ!」
リゾット、(いろいろと)再起不能。
「あ、プロシュートさん。なんだか嬉しそうに見えますけど……どうかされたんですか?」
「名前……安心しな! 今日……いや、しばらくはぐっすり寝られるぜ(キラーン)」
「?」
リビングへやってきたプロシュートが、やけに得意げな顔で口を開く。
その、なぜかいつもよりオーラが輝いている色男に、事情を知る由もない名前はただただ首をかしげるのだった。
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