somma 〜36〜

※リーダーとほのぼの過ごす




暖かな午後、リゾットはちょこんとベッドへ腰を下ろす名前に、膝枕をしてもらっていた。



「……懐かしいな」


「え?」


「いや、オレが教会へ転がり込んだあの日も、名前はこうして介抱していてくれただろう」



後頭部を包む柔らかな感触。

思わず微睡んでしまいそうなぬくもり。

愛しい彼女の優しげなまなざし。


それらを堪能しながら彼が見上げれば、少女は一瞬驚きで目を丸くしてから、小さく微笑む。



「ふふ、そうですね……リゾットさんが目を覚まされたあとは、どうなるかと思っちゃいましたけどね」


「……すまなかった」



スタンド使い。

そう悟った次の瞬間、自分が彼女を押し倒し、メタリカで攻撃しようとしたことを思い出したらしい。

これでもかと言うほど眉間にしわを寄せたリゾットに、名前は彼の銀色に煌めく髪へ手を置きつつ、ブンブンと首を横に振った。

その表情に浮かぶのは、焦燥。



「あ、謝らないでください! 私、ただ(いつものお返しの意味を込めて)リゾットさんをからかうつもりで言っただけなんです……ごめんなさい」


「……(じとー)」


「う……っそ、それに! メタリカちゃんより私が驚いたのは、そのあとです!」



男の視線から逃れるように瞳を机へ移した少女。

それを淡々と追いながら、リゾットははたと首をかしげる。



「そのあと……?」


「〜〜っ手を、突っ込んだじゃないですか! しゅ、修道服の中に……!」



忘れたんですか!?

と、リンゴのように頬を赤く染めて、こちらへ詰め寄る彼女に対し、しばらく考え込んだ彼はふっと口元を緩めた。



――ああ、あのときか。



「今にして思うと、その頃にはすでに≪劣情≫を抱いていた気も……しなくはないな」


「へ? ……えっ!?」


「……名前を抱き寄せ、キスをし、白い肌に赤い痕を付け、ベッドとの間に組み敷きたい……そう、考えていたのかもしれない」


「!?!?」



刹那、ゴドンという嫌な音とともに自分の頭へと衝撃が走る。

柔らかで居心地の良い感触はあっという間に消え、次に訪れたのはあまり歓迎したくない、シーツ越しにある板の固さ。

≪目から星が飛ぶ≫という感覚はこれか――そんなことを冷静に分析しながら、リゾットはベッドに寝転んだ状態で、立ち上がっている名前へまっすぐな視線を向けた。



「名前、どうした」


「り、リゾットさんがっ、変なこと言うから……!」


「変なことではない。改めて実感した、オレの本音だ。それより、もう少し膝枕を――」


「〜〜っもうしません! 絶対に!」


「なッ!?」



背後で「なぜだ」やら、「オレの頭が重かったのか」やら正解にも到達しない言葉を叫ぶ男を無視して、少女は己の顔に帯びる熱を冷まそうと、部屋の隅にある本棚へと歩み寄る。



「……あれ?」


そして、ふとカバーのかかった本がずらりと並んでいることに気が付いた。


――リゾットさんの、かな?



以前はなかったような――顎に指を当てつつ、そのうちの一冊を右手で取る。

文庫本よりは大きいそれ。

しばらく外側だけを観察していた名前は、おもむろに中を開いた。

そこに記されていたのは――





「! え……≪日本語≫?」



こんにちは。

初めまして。

郵便局はどこにありますか、などなど。


十数年ぶりとは言えど、見覚えのありすぎる文字の羅列に、なぜ――と思考が停止していたそのとき。





「……見られてしまったか」


「ひゃっ!?」



突如響いた、右耳を震わすテノール。

慌ててそちらを振り返れば、いつの間にか立ち上がっていたリゾットが、自分を抱きしめているではないか。

首元を掠めていく吐息、腹部へとしっかり回された両腕に戸惑いながら、少女は肩口で顔を埋めている彼におずおずと本を見せる。



「これ……リゾットさんの、ですよね?」


「そうだ」


「えっと、でも……どうして日本語なんですか?」









「名前の母国語を覚えてみたいと思ったんだ」


「!」



ふっと優しさが滲む、深さを交えた男の瞳。

そこに込められた想いに、視線を何度重ねてもドキリとしてしまう。


目は口ほどに物を言う。


まさに、リゾットにぴったりの言葉だと思った。




「……えへへ。じゃあ、いつか日本語でもリゾットさんとお話ができるんですね……すごく楽しみです」


「! そうだな……(はにかんだ名前も可愛い……よし、寝る間も惜しんで勉強ry)」


「あ、でも。無理は禁物ですから、夜中まで読んじゃダメですよ?」


「……」



決心しようとした事柄を言い当てられ、思わず黙り込む男。

そんな彼に、まさか本当に考えていたとは想像もしていない名前はきょとんとしてから、顔を綻ばせてその本を胸に抱き寄せた。



「せっかくなので、私も協力します! リゾットさん、座りましょう?」





それから、同じく深い笑みで頷いたリゾットと、彼女の日本語教室は始まったのだ、が。



「リゾットさん……この、ときどき引いてあるマーカーなんですけど……」


「ああ、それか。重要と思われる単語に引いたんだ」


「…………≪ニンジャ≫や≪サムライ≫は日常では使いませんよ?」


「え……?」



今更だが、発生するカルチャーショック。


男の夢見る≪日常会話≫は、かなり前途多難のようだ。



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