「…なぁ、何で俺に縋らねーの」



ホテルの一室。
ベッドの上で深く絡み付くように肌を合わせる中、不意に男――朝井が呟いた。
けれど言われた相手――木佐は朝井の問いに答えることは無く、シーツを握り締めながら、じわりと這い上がってくる快感を必死に堪えていた。



「……ぅん…っ、や…」

「辛いなら、背中に腕を回せばいーじゃん。
――なぁ、何で??」

「…っは、ぁあ!!」



答えの返らないことに苛立ちを隠せないまま、朝井はギリギリまで腰を引き、次いで刔るように木佐の内を穿つ。
途端、木佐の口から甘い嬌声が零れ、同時に、指先に力が込められたせいでシーツに幾重もの皺が広がった。
皺の数は即ち木佐の快感の証。
それが刻まれるのが自分では無いことに、朝井は悔しさを滲ませながら、何度も抽挿を繰り返す。



「――縋れよ、翔太」



懇願にも似た朝井の言葉に、けれど木佐はふるふると首を振って拒絶を表すだけ。
どうあっても朝井の背に腕を回す気は無いらしい。
最奥を深く刔るように貫かれておきながら、それでも僅かに残された理性でもって鮮やかに引かれたままのその一線に、朝井は思わず唇を噛む。
――最初に言われていた。



『絶対にあんたの背には縋らない』



ハッキリと言い切ったその言葉に面倒が無くて良いと思ったのは確かだ。
なのに、何故だろうか。
実際に肌を合わせてみると、その唯一引かれた一線が酷く気になった。気に入らなかった。
言葉通り、木佐はけして朝井の背に縋ろうとはせず、その華奢な手はひたすらにシーツを掴むばかり。
シーツを掴んだところで気休めにしかならない、それならばいっそ背に縋り、爪を立ててしまえば良いのに、木佐は強情なまでにそれを拒み、ひたすら耐えていた。
そのいじらしいまでの姿が朝井の支配欲に火を付けたのは、今宵初めて肌を重ねてからそう遠くないときのことで、朝井は縋れば良いとばかりに木佐を強く深く激しく責め立てた。
口付ければそれに合わせてそっと口を開き、深い口付けにも積極的に応えてくれる。
律動を繰り返す度に甘やかな声で啼き、眉間に皺を寄せ、目尻からはらり大粒の涙を流す。
朝井を包み込む内壁は誘うようにヒクヒクと収縮し、離すまいと朝井に深く絡み付いてくるというのに、――それでも。
全身で朝井を受け入れながら、けして回されることの無い腕に、俺ではダメなのかと言いようも無い悔しさに駆られつつ。
朝井は舌打ちひとつと共に、せめてもの思いで、木佐の内に自身の熱を放った。







2011.07.28
2011.08.08 修正

はじめて書いたあさきさでした。


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