【設定】


とある国の話。
そこではみな産まれてきたときに両方の性を有しており、個人差はあるものの一定の周期で性別が変化、両方の性を何度も経験し、成人する際にどちらかの性を選び取る体質を持っていた。
どちらを選ぶかは自らの判断によるものではなく、性別の変化を繰り返す中、どちらの性により適合しているかを身体自身が判断し、成人に合わせて徐々にその性へと変化させていく。
従って、望んでいた性別と異なる場合もあるため、この国では同性婚も大々的に認められている。
そんな特殊な体質を持つお国柄、自然と保守に走り、今まで他国との交流を断ってきたが、自国だけでは経済が上手く成り立たなくなってきたことから、少しずつ他国との交流が増えてきた。
そうしてこの国に移り住む者も出て来るようになり、今や国民の一割は他国からの移民となっている。



高野、羽鳥、千秋、木佐→高校3年生。みな両方の性を有し、週1〜月1と個人差はあれど性別の変化を繰り返している。とは言え、成人に近付くにつれ少しずつ性別固定の兆しが見え始め、それに合わせて変化の頻度も緩やかとなる。しかし木佐だけが未だ頻繁に変化を繰り返しており、内心、快楽主義で過ごしてきた(たくさんの男と肌を合わせてきた)からでは、と不安に思っている。

律→高校2年生。同じく両方の性を有している。

朝井→赴任してきたばかりの数学教師。偶然にも木佐の隣に住んでいる。この国の人間ではなく、他国からの移民。


ではでは、以上の設定+何が来ても大丈夫だったら、スクロールどうぞー。







「…また、性別変わってる。これで今月何度目?今までこんなこと無かったのに」



セットしていた目覚ましが鳴るよりも早く、窓から差し込んできた日の光に促されるまま目を覚まし、欠伸を噛み殺しながら視線を下へと遣ると、寝る前には無かった膨らみが胸の辺りにあった。
声も幾分か高くなっており、心なしか身に纏っていたシャツもハーフパンツもどこか大きく感じる。視線も低い。
けれどそんな状態にも俺――木佐は眉ひとつ動かすことなく、ごく自然なものとして受け入れていた。
とは言え、普通であれば早々受け入れられるものではないだろう。
しかし俺はおろかこの国で産まれた人間はみな同じくそれを『当たり前のこと』として受け入れる。
だって、それこそが、他国とは違い、この国の人間だけが有する特異体質なのだから。



この国ではみな産まれてきたときに両方の性を有しており、個人差はあるものの一定の周期で性別が変化、両方の性を何度も経験し、成人する際にどちらかの性を選び取る。
ただし、どちらを選ぶかは自らの判断によるものではなく、性別の変化を繰り返す中、どちらの性により適合しているかを身体が判断し、成人に合わせて徐々にその性へと変化させていくのだ。
そして俺は現在18歳。
成人まであと2年というところまで差し迫っていた――が。
通常ならば、そろそろどちらかの性別に固定するべく、性別が変化する頻度は随分と低くなるというのに、俺は変わらずくるくると性別が変化していた。
仲の良い同級生の律っちゃんやちーちゃんもそれぞれ性別固定の兆しが見え始める中、ひとり変わらずどっちつかずで一向に固定の兆しは見えない。
だから最近では、快楽ばかりを追い続けているからだろうか、なんて、そんな馬鹿げたことさえも思い始めている。
――まぁ、そんな理由なんて聞いたこともないけどな。
浮かんだ自分の考えに一笑するも、やはり胸に巣くう一抹の不安は拭えず。
最近ではらしくもなく性別が変化しないようにと願いながら眠りに就いていた。
…が、願い虚しく、今日も性別は変化していた。
昨日までは確かに男性の姿だったのだが、起きてみれば見事に女性のそれだった。
産まれてこのかた両方の性別を代わる代わる経験しているため、今更その姿自体については何とも思わないが、成人が近い中、こうも頻繁に変化するとなると、むしろ不安は増すばかりだ。
このままだと両性を有して生きることになるのではないだろうか、と知らず嫌な考えまでもが頭を過ぎる、も。
…ま、考えてても仕方ないし。
そう、あっさりと思考を打ち止めた。
朝っぱらから悶々と考えることでも無いし、何より幾ら考えたところで性別の変化は自らの意思ではどうにもならないのだ。
だったら深く考えるだけ無駄だろうと、何とも強引に結論付け、それよりも早く支度しなきゃ、と俺は慌てて洗面所へと駆け込んだ。
洗顔と歯磨きを済ませ、自室へと戻った俺は、クローゼットの中から女性物の下着やら服やらを取り出しては、慣れた手つきでそれらを纏っていく。
生徒がみな両性ということから学校指定の制服が存在しない分、着ていく服についてはそれなりにこだわっているが、化粧は一切施さない。
精々リップクリームを塗るのが関の山だ。
だからいつも準備に掛かる時間は10分にも満たない――が。



「…ああもう!急がないと始業式に間に合わない!」



朝に弱く、ギリギリに目覚ましをセットしているだけに、毎朝一分一秒が命取りだ。
にも関わらず今日は思いがけないことに性別が変化してしまい、少しばかり時間をロスしてしまった。正に遅刻スレスレだ。
しかも間が悪いことに今日は始業式、始まりの日に遅刻するのは出来るだけ避けたい。
そう思い、慌てて靴を履き、ドアを開けたところで、不意に隣の部屋のドアが開いた。
その音に釣られるよう思わずそちらへと視線を遣ったが、そこはつい先日までは空き部屋だった場所だ。
いつの間に入居があったのだろうか。
全く知らなかった隣の住人の存在に首を傾げながらも、同じくこちらを見ているらしい人物の顔を拝もうとチラと視線を上げれば、そこに居たのは―――



「――――!!」



酷く綺麗な顔をした、正に俺の理想をそのまま具現化したような男性、だった。
今まで、そう、今まで律っちゃんやちーちゃんから苦言を呈されるくらい顔さえ良ければ誰とでも肌を合わせていた。
けれど、いつだってそこにあったのは快楽のみを追い求める浅ましさだけ、愛情なんてものは欠片も無い。
だからだろうか、幾ら「可愛い」とか「好き」とか言われても、少しも心が動くことは無かった。
――なのに、今はどうだ。
何かを言われた訳でも無く、ただ相手の顔を見ただけだというのに、心臓が激しく音を立てている。
それこそ、ドキドキという音が相手にも聞こえているかもしれない、なんて有り得ないことを思ってしまうくらいに。きっと顔は真っ赤に違いない。
ああもう、こんな、こと、今まで一度たりとも無かったのに。
そうやって、自分のことばかりぐるぐると考えていたから、気付かなかった。
相手も自分と同じく、いや、それ以上に顔を赤らめていただなんて、―――その時には欠片も。





*****





くるりと一回転してみせると、その動きに合わせて膝上10センチというやや短めのスカートが閃いた。
ともすれば下着が見えてしまうのでは、と思ってしまうその姿に『コスプレには興味が無い』とバッサリ言い切った先生こと朝井先生の眉が僅かに動く。
とは言え、興奮を覚えている訳では無い、むしろその逆だ。上から下まで舐めるように観察した後、盛大に溜息を落とし、あのさぁ…と呆れ混じりに呟いた。



「――もしかしなくても、今日ずっとその格好でいたわけ」
「――?当たり前じゃん。これ着て学校に来たんだから」
「つーか、この学校、制服無いよな?なのに、何でお前、そんなの着てんの」



『そんなの』、そう言って先生が指を指した先、すなわち俺がいま着ているのは、どこにでもあるようなセーラー服、だった。
確かに先生の言う通り、この学校には決まった制服は存在しない。
今では他国から移り住む人も増えてきているとは言え、やはり生徒の大半は両方の性を持っている。
そして、成人を迎えるまでは一定の周期でくるくると性別が変化するため、決まった制服というのがなかなか作りづらいことから、制服というものは端から無く、みな思い思いの服を身に纏っていた。
俺ももれなくそうで、そのときの性別に合わせて服装を変えている。
だからといって、制服に興味が無い訳ではない。
近年では他国の文化も入ってくるようになり、また他国から移り住んできた人から話を伺ったりして、自然と制服というものに憧れにも似た感情を抱いていた。
とりわけ惹かれたのが、セーラー服だ。
セーラー服の持つ、楚々とした可愛らしさが自分の中の琴線に触れたのだ。
『楚々と』なんて、数多くの男と肌を合わせてきた自分には全くもって縁遠い単語だが、それを着ることによって少しはそんなしとやかさが滲み出るのではと、ふと思ったのだ。それに。



「……だって、その方が雰囲気出るかと思って、」
「雰囲気?」
「…先生と恋愛してるんだ、って」



普段着ているのは単なる私服だからさほど感じないが、自分がいま恋愛している相手は先生だ。
私服でも何でも、肩書きが先生と生徒ならそれに変わりはないが、一度でいいから、より先生と恋愛している雰囲気に浸りたかった。
倒錯的な雰囲気への憧れもあったのかもしれない。
そんなこんなで、それにはやはり形から入らねばと思い、セーラー服を入手した俺は意気揚々とそれを着てきたのだが、どうやら先生はお気に召さなかったらしい。
小難しい顔をしたかと思うと、俺を近くの長机の上に座らせ、そのまま押し倒してきた。
あ、と思ったときには既に先生に覆い被される形となっており、逃げられないよう両手をしっかりと顔の横で絡められていた。突然のそれに、片方のローファーが脱げ掛かった状態だったが、それよりも。
唇が触れそうなほど近くに寄せられた先生の顔に俺の胸はこれでもかと言わんばかりにドキドキと鼓動を刻んでいた。
ふわりと香る甘い匂いがそれを更に助長する。
先生は何もつけていないと言い張っているが、いつも先生からは甘い匂いがしていた。
でも何もつけていないなら、これはきっと先生のフェロモンに違いない。
だって、この香りを嗅ぐ度に思考が溶かされそうになるのだ。
実際に今も既に半分溶けかけている。
尤も、それは、この体勢のせいかもしれないが。




「…ふぅん?しょーたは、可愛いな」
「〜〜〜〜っ!!」
「…でも。んな可愛い姿を俺以外の奴に一日中見せてたなんて、お仕置きが必要だな?」
「……せ、んせ、」
「なぁ、次の授業はサボって、先生とイイコトしようか、しょーたくん?」




ニッコリと笑いながらも、目の奥を色欲に染め、スカートの裾から手を差し入れる先生に抗う術などなく、むしろそれを待ってたなんてこともまた、言えるはずもなく。
ただ、ぼんやりと先生を見つめながら、これから与えられる『お仕置き』に知らずと胸を高鳴らせていた。








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