…部屋に招き入れた途端、翔太は満面の笑みで自分の荷物の中から袋を取り出し、『手、出して』と促して、朝井の手のひらにそれを乗せてきた。


「…なにこれ」

「開けたら、わかる」


そう言ってまた翔太は微笑み、朝井が袋の中身を確認するのを待っている。


(…一体何が入ってるんだよ)


そう思いながら、期待の眼差しを無視するわけにもいかず、朝井は袋の中に手を入れ、箱を取り出した。
…推測するに、どこかの雑貨屋で買ってきたもののようだ。
そして箱に入ってることと、重みから推測するにおそらく『割れ物』。


「………」


もう一度、翔太に視線を向けると目が合った瞬間にニコーッと微笑む。
その愛らしい顔には『開けて、開けて』と書いてあった。
…その笑顔に、プレッシャーを感じる。
…これは相当喜んだリアクションをしなければならないような気もするが、あいにく『無愛想』な自分にはなかなか難しいことだろう。


(…何にせよ、開けてみないことには始まらねーな)


意を決して、と言うほどでもないが、箱を開けた。


「……マグカップ?」


一体どんな割れ物が飛び出すのかと思っていたら何のことはない。

…それはマグカップだった。

取り出して見つめてみる。

…翔太はセンスがいい。
ただのシンプルなマグカップなのに、そのフォルムは朝井好みだった。
…翔太はいつも『高級品』ではなく『値段の割りに良い物』を買う。
日常的に使うのならば安すぎず高すぎず、けれど手に馴染んで使いやすい、程々に質の良い物、…それが『良い』のだという。
『それに、お気に入りのものって大事に使うだろ?』と、以前言われたが、物に頓着のない自分は『そんなもんか?』と疑問系で返したものだ。
…たぶん、翔太はそういうものを探すのが好きなのだ。

今回のマグカップも、恐らくそうなのだろう。


「こないだコーヒー用のマグカップ割ったって言ってたじゃん。雑貨屋寄ったらたまたま見つけて、朝井さん色だったから、思わず買っちゃった」


そう言い、ご機嫌に翔太は微笑む。
そんな翔太に、思わず朝井は尋ねた。


「…俺色って…何?」

「あお!朝井さんはぜーったい!あお!!」


即答で言い切ると、翔太はひとり『うんうん』と頷く。
それから朝井の手の中のマグカップを覗き込んで、柔らかく笑った。


「…綺麗でしょ?それ。…最後のひとつだったんだから」


『それも決め手のひとつだね』と翔太は言う。
…確かに、マグカップに彩られている、深海のようなグラデーションを描くその『青』は綺麗だ。
側面だけではなく、中まで青。
…裏返してみたが、底も青だった。


「…色とか、言われたことねーんだけど」

「じゃあ『俺的朝井さんカラー』ってことで!ね?」


朝井の手の中のマグカップを指差し、『それ、ぜーったい使ってよ?』と念を押して翔太は微笑む。


(ふーん。これが俺色、ね)


そう考えてから朝井は笑って、口を開く。


「…じゃあ翔太は朱色な」


朝井の言葉に、翔太は途端にキョトンとした顔をする。


これだけ勝手に自分の色を決められたのだ。
…そこまで決められたら、お前にも、色を返さないわけにはいかないだろ?


朝井の言葉に『うーん』と翔太は首を傾げる。


「…朱色って、暖色系の明るい赤、だっけ?」

「そう」

「…なんで?」

「お前だって理由ねーだろ?俺的、翔太色」


そう言えば『そうかな?俺ってああいう色?』と翔太は考えるように頭を掻く。
真剣に考える翔太に思わず苦笑してから、朝井は口を開く。


「…まあ、混ぜたら結局俺色だけどな」

「は?」

「青と朱。混ぜたら…この色」


笑みが浮かび、そのまま自分の瞳を指差す。
…紫紺のそれを見つめて、一拍、間を置いてから、翔太の頬が赤く染まった。


「な、なにそれッ!!!」


『そんな恥ずかしいセリフ、一体何人の女に言ったんだよ!!』と翔太が真っ赤な顔で叫びながら身を乗り出して問い詰めてくるから、朝井は一層おかしくて、声を出して笑う。
ひとしきり笑ってから、『俺に色なんか付けるのはお前くらいなんだから、そんなんいるわけねーだろ』と言えば、言葉に詰まったように翔太は『うぐっ』と呻いた。
そんな翔太に、笑ったまま朝井は言葉を告げる。


「…マグカップ、俺も翔太色の、…買ってきてやるよ」


『ここに備えといてやるわ』と言えば翔太は真っ赤な頬をしたまま、さらに悔しそうに呻く。
その様子が普段の顔よりも一層幼く見えて…可愛くて仕方がない。
手を引いて、その体をすぐに引き寄せた。


(…お前用のマグカップに。美味しいコーヒー用意して。もっと、もっと、…お前がここに入り浸るように、な?)


そう考えながら朝井は抱き締めた翔太の頬にキスを落とす。

…そうすれば腕の中の愛しいそいつは『…俺が気に入るやつじゃなきゃ、絶対ヤだから』と、頬を真っ赤に染めたまま、蚊の鳴くような声で、…愛らしく呟いた。








2011.09.01

色遊び。朝井は青。木佐は朱。混ぜたら朝井の瞳色。
…もうこいつら付き合ってるだろ(笑)





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