家に着くなり、朝井の長い指に顎を掬われ、唇を重ねられた。
突然のことだった為、少し開いていた木佐の唇は簡単に舌の侵入を許し、舌先を撫でられたことに気付いた時には深く舌を絡め取られていた。
それから何度も角度を変え、口内を撫で上げる舌に、思わず鼻から「……っふ…」と自分のものとは思えない甘やかな声が抜けていく。
舌は歯列をなぞって奥まで丁寧に触れていき、少しでも甘い反応を見せれば、朝井は何度もそこを舌で擦り上げる。
それが何とも堪らなく、足から崩れ落ちそうになり、木佐は縋り付くように朝井の首に腕を回した。
すると朝井は一瞬目を見開いた後、蕩けるような眼差しで木佐を見つめ、顎に添えていた腕を木佐の背へと回し、強くその小さな身体を掻き抱いた。




(――あぁもう、キスってこんなに感じるものだっけ)




既にドロリとした欲に心ごと染め上げられながら、木佐は頭の片隅でそんなことを思う。
少なくとも今までキスは快感を引き出すひとつの手段としか考えていなかった。
けれど、どうだろう。
今はキスひとつでガクガクと足から崩れ落ちそうな程、感じているし、甘く艶やかな喘ぎが絶えず鼻から抜けていく。
そして、何よりも。
互いの唇が触れ合うことで、言いようもない幸福感が胸いっぱいに広がるのだ。




(――あぁ、満たされる、ってこういうことなのかな)




未だ慣れない感覚に戸惑いながら、けれど木佐は朝井の首に回した腕を外すことなく、一層ぎゅっと引き寄せて、深く深く舌を絡ませ合う。
それはまるで離れることを恐れるかのように、長く長く続いたが、いよいよ呼吸が辛くなり、潤みきった木佐の目尻からはらりと涙が溢れる。
するとそれを見た朝井は、名残惜しむよう木佐の上唇を柔く甘噛みして、そっと唇を離した。
そうして、朝井は未だ呼吸の整わない木佐の耳元に唇を寄せ、




「……好き、好きだ、翔太」




と何度も繰り返し掠れた甘い声で愛を囁いた。
想いが通じ合ってからというもの、朝井は事あるごとに「好きだ」と繰り返す。
それはずっと押し殺してきた分が塞きを切ったように溢れ出してきたからだと、朝井は苦笑混じりに話していた。
とは言え、そうさせてしまっていたのは、朝井の想いにも気付かず、頑なに線引きをし続けてきた自分のせいだ。
だから、想いを通じ合ってからは木佐も、出来るだけ朝井の溢れんばかりの想いに応えようとしていた。




「…俺も、すき」




何度繰り返しても、言葉を返す度にじわりと羞恥が込み上げ、顔は赤く染まり、一向に慣れる気配は無い。
けれど、それでも。
言葉にすれば、朝井は、幸せをぎゅっぎゅと目一杯詰め込んだような甘やかな笑みを浮かべるから。
その顔が見たくて、恥ずかしさや照れを堪えながら、出来るだけ素直に想いを返しているのかもしれない。




「あさいさん、」




――朝井さんに愛されて幸せなのだと言ったら、どんな表情を向けるのだろうか。
初めての恋が朝井さんで良かったと言ったら、どんな反応を返してくれる??
口に出してみたい衝動に駆られながら、けれど言ってしまったが最後、明日はベッドに沈んだまま、指一本動かすことすら出来ないような気がして。
今はまだ、そっと心に秘めておこうと決めた木佐は、代わりにもう一度「すき」と囁いた。







2011.08.08

もしも、ふたりの想いが通じ合い、結ばれていたら、きっとこんな感じ。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -