…目を覚まして一番に『ここはどこだ』と考えた。
むくりと上半身を起こして、回らない頭で考えを巡らせる。

…着せられたのであろう、サイズの合わないぶかぶかのパジャマが目に入り、そこでようやく気付く。


(…ああ、朝井さんち、だ…)


金曜日の夜に、転がり込んだこの部屋。
夕食をご馳走になり、当たり前のように体を重ねて、だけどその先の記憶は曖昧だ。


(…風呂、入れてくれたのかな…?)


疑問系ではなく、その通りなのだろう。
体にベタつきはなく、ご丁寧に朝井のパジャマまで着せられている。

…羞恥を感じない、と言えば嘘になる。
だけど初めてこうされた時に比べればマシにはなった。
回数は、数えていない。
…だが、それはつまり、結構な頻度で、意識のない自分の体を、朝井に清めてもらっていることを意味している。


(…まあそんだけ激しいセックスに付き合ってあげてるんだから、おあいこってことで)


そう考えるものの、なかなか羞恥は払えない。
…やっぱり快楽に溺れて、意識を飛ばして、自分の知らぬ間に体を清められて、服を着せられる、なんて。


(…しかも、性格上、フツーありえねーだろ)


言っては失礼だと思うけれど、正直朝井がこんなことをする男だと、木佐は思っていなかった。
表現方法が我ながら最低だが、朝井は結構、鬼畜系な男だと思う。
あの男に抱かれる度、自分は『食べられている』という感覚に襲われる。
『肉食獣が、草食獣を喰らう』という表現がふさわしい。
…残念ながら、性欲に貪欲な自分が草食系に当てはまるか、と言われればそれは不明だが。


…ともあれ、そんな鬼畜系の彼が、…それこそ『喰ったらポイ捨て』を平然とやりそうなあの男が。
…こんな風に自分の体を清めて、服を着せて、ベッドに寝かせる、なんて行動を取るのが、信じられないのだ。


(…いいや。どうせお礼も言えないし)


礼など言ったところで『失神しやがって。そんなに俺のが悦かった?』なんて意地悪な顔で言われるのがオチだ。


…あーやめやめ。
そんなことよりお腹がすいた。


『性欲満たされたら、次は食欲ね』と自分の浅ましさに苦笑しながら、それでも朝食にありつこうと、ベッドから降りてさっさとリビングへ向かった。




**********




「………」


リビングのドアを開けて、まずじっと見つめてしまった。

当然なのだけれど、朝井はリビングにいた。
椅子に腰掛け、ラフな格好で新聞を広げて読んでいる。
…眼鏡のオプション付きで。


「…翔太、起きたの」


ふと視線を向けられて思わずドキッとした。


(…なにドキッとかしてんの?)


眼鏡をかけて新聞を読む姿があまりに似合っていて、思わず見とれてしまった。
それを振り払うように歩いて朝井の隣に腰掛ける。
テーブルに目をやれば、朝井が作ったのであろう、バターの塗られたトースト、こんがりと焼かれた目玉焼きとベーコンという簡単な朝食が並んでいた。
遠慮なく、歯型のついたトーストに手を伸ばす。


「…翔太、それ俺の」

「知ってる。知ってるから、食べてる」


そう言って一口かじって、咀嚼する。
朝井は結構な時間、新聞を読んでいたようだ。
トーストはすでに冷めている。
それでも構わずに食べていたら朝井が口を開いた。


「…それ、食べかけだし。つーかお前には起きてきたら作ってやろうと思ってたのに。それでいいの?」


『焼きたてとか出来たて、お前好きだろ』と告げれば木佐は大きな目をさらに大きく見開いて朝井を見た。
あの後すぐに、二口ほどかじった冷めたトーストを投げ出して、笑顔を浮かべて朝井に身を乗り出す。


「朝井さん焼いて!目玉焼き!2つ!2つだからな!んでベーコン、カリカリにして!」

「はいはい」


『わかりやすいよなあ、お前』と新聞をたたみながら朝井が笑うから、木佐は何故かまたドキッとした。


いつも口端を上げて、意地悪に笑う朝井。
そんな朝井が、今は愉快そうに笑っている。


(…珍しいから、見つめてしまうだけ)


そう自分に言い聞かせる。
そんな木佐をたたみかけるように、キッチンへ向かいながら朝井は言った。



「…目玉焼きとベーコンとトーストで喜ぶ恋人はなかなかいねーよなぁ」



思わずかああっと真っ赤になり『単純で悪かったな!!』と木佐は叫ぶ。


その後すぐに『恋人のとこの否定が先じゃねーの?』と朝井が笑うから、木佐は余計に頬を真っ赤に染めて『濃っゆいブラックコーヒーを今すぐ追加しろ!』と大声で朝井の朝食メニューにケチをつけた。







2011.08.03
2011.08.07修正

朝からいちゃいちゃ。
木佐が朝井にワガママを言うのが萌える。





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