踏み込んだ先


さっきまで仕事に行くために電車に乗ったはずだったのだ。平日は見ちゃダメと思いつつも誘惑に負けてみてしまった海外ドラマのせいで、いつもより大分遅い時間に起きてしまった。だから走って電車に乗り込んだのに。閉まろうとする電車に1歩踏み出し、体が何とか車両に収まったはずだった。ふとあたりを見渡すも真っ暗闇で何も見えない事に気付く。停電にしても、まだ朝早いのだから何も見えない程に暗い、なんて事はありえない。人の気配もしない。ともするとこれは一体どういう事なのか。何故かいつもより動かしずらい体を不思議に思いながらも手を伸ばす。すると何か箱のようなものに当たったのかゴトッと大きな音がなった。と同時に暗闇の向こう側からも大きな音にびっくりして飛び退いたのだろうか、男の声が聞こえてきた。

「今こっちの方から物音きこえなかったか」

その男の発言に返事はないが、恐らく近くに男が二人いるらしい。しばらく二人でごそごそ話しているのを聞いていたが、自らの状況を思いだす。これはここから出られるチャンスなのでは。慌てて声の聞こえてきた方にあった壁らしきものを叩いて声を出す。

「あの!ここからだしてもらえませんか!」

ん?私の声こんなだったっけ。明らかにトーンがいつもより高い。そしてとてつもなく喋りにくい。でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

「あの!」

もう一度声を振り絞って呼びかけてみるも、聞こえてきたのは情けない男の叫び声と慌ただしく走り去って行く音だった。

「…もしかしておばけだとおもわれてる?」

頼みの綱が無くなってしまって、思わずその場にペタリと座り込んだ。

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あれからどのくらい時間がたったのか、どうやら私が閉じ込められているところは狭い物置のような場所らしく、背後には何らかが入った箱、声が聞こえた方には壁、と言うよりは恐らく扉があるのだろう。しかしこちらから力をかけてみてもビクともせず、鍵がかかっているようだった。

どうしよう、一生このまま此処に閉じ込められて、飢え死にしてしまったら。さっきの男達もきっともう戻ってこないだろうし、先程から近くに人が通りかかる気配もない。この絶望的状況で自分に出来ることは何も無いのだ。あまりの無力感に涙がじわっと溢れ出てきた。泣いたってどうにもならないのに。涙腺が壊れたようで、一旦決壊してしまった後はとめどなく涙が溢れてしまう。力が抜けてきて、近くにあった箱に体を預けた時だった。

「…馬鹿馬鹿しい。鍵を開けて中を見たら部屋に戻れ」

先程の男らではない声がする。

「しかし月島軍曹!私共は確かに物音と子供の声をここから聞いたのです!」
「分かったから、大声出すな」

待ち望んだ鍵が外れる音がした。同時に扉がゆっくり開いて光が差し込んでくる。

「ほら、なにもいな…」
「「ぎゃぁぁぁぁッ」」

扉が開いて1番先に目に入ったの剃りあげられた頭に緑色の目をした男が驚いている表情と、その脇で抱き合って叫んでいる先程の男二人だった。




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