絡まる


これの前の話。
夢主は佐一と付き合っています。

佐一は今日もバイトらしい。いつも忙しそうに働いていて、私との休日となかなか重ならない。家に一人でいるのも気が滅入って、何となく外に出てきてしまった。駅の方にふらっと立ち寄ると、喫煙所にはよく見知った男が一人。向こうもこちらに気づいたらしく、吸いたての煙草を灰皿に押し付けてこちらに近づいてきた。

「一人か」

その質問の意図は恐らく、杉元とは一緒じゃないのか、という意味だろう。首を縦に振ると、そうか、とだけ一言。「飯は」「まだ」必要最低限の言葉で紡がれる会話にふと安心感を覚える。尾形とは幼少期からの付き合いだが、二人とも他人に興味が無いのか、お互いに深入りはしない。その距離感が今は嬉しかった。

「ここら辺、美味い店がない」
「そうだね」
「…うち来るか」
「ご飯作ってくれるの」

その質問には答えずに、尾形は続けた。

「杉元は作ってくれないのか」
「いま忙しいの。バイトだって」
「構ってもらえなくて寂しいのか?お前がこんなところで一人でぷらぷらいるなんて気持ち悪い」

私だって一人で居たい時もあるのだ。私が顔を顰めるのを見て、尾形はハハッと笑った。

「そうかそうか、寂しいのか」
「別に」
「膨れんなよ。美味いやつ食わせてやるから」

そう言うと、いきなり右手を掴まれた。杉元より大きくて硬い手が私の指に絡まる。

「急にどうしたの」

尾形はにやにや笑いながら、私を駅の向こう側にある家に引っ張って行った。

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家の前まで来ると、尾形は鍵を開けて私を中に招き入れる。二人とも玄関に入って、鍵を閉め終わって初めて繋いだ手を解かれた。

「私子供じゃないんだから、わざわざ手なんて繋がなくても」
「杉元が見てた」

尾形の発した言葉に絶句する。それを知っててわざわざ繋いだのか。人相も悪いが、それに違わず性格も悪いのだということを忘れていた。返す言葉もなくて、ただただ睨みつけるが無駄のようだ。

「しっかりと手網握ってないと、連れ攫われるぞ、ってな」
「誤解させるような事しなくても、口で言ってくれたらいいじゃん」
「そっちの方が面白いだろ。それに、俺がわざわざ杉元に話しかけに行くわけがない」

佐一にはさっきの光景は大打撃だっただろう。自惚れている訳では無いが、佐一の私に対する愛情はとても重い。今まで淡白な人間関係しか築いて来なかった私にとって、それは新鮮な感覚であり、同時に少し戸惑ってしまうものでもあった。そんな私の対応は佐一を不安にしているようで。それが原因か分からないが、最近仕事に打ち込むようになってしまった。それとなく、佐一に訳を聞いてみると、

「ごちゃごちゃ考えるのは性に合ってないから、働いて誤魔化すのが一番」

との事。いつでも話を聞くから、話したくなったら話してねと、佐一に言うと寂しそうに頷く顔が印象的だった。

「ただでさえ今は辛そうにしてたのに、これ以上何かしたら佐一爆発するかも」
「それでいい。お互いの事話すいい機会になる」
「荒療治」
「治療には変わりない」

そう言い残すと尾形は台所へと行ってしまった。

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尾形の料理は久しぶりだったが、なかなか美味しいのだ。お婆ちゃんっ子だった尾形の味付けは、どことなく懐かしい味がする。二人して黙々と食べ終わり、つけっぱなしのテレビを眺めていた。ぼうっとしていると急に、尾形が私の頭に手を伸ばして、そのまま髪をすき始める。

「ぐちゃぐちゃにしないでよ」
「したらやばい事になる」
「…どういう事」
「杉元が多分こっち来てるからだ」

唖然とする私に尾形は自身の携帯の着信履歴を見せた。画面には佐一からの着信がずらりと並んでいる。

「な、なんで教えてくれなかったの!?私、出なくちゃ」
「慌てて出たらそれこそ怪しいぞ」

尾形は余裕綽々と言った表情で笑っている。

「佐一に殴られるかも」
「お前を盾にする」

それは…恐らく1番有効な防御法だろう。しかしここに佐一が来たらここの住人に迷惑が掛かってしまうこと、間違いなしだ。

「取り敢えず、私出るね」
「二人で話し合って、仲直りしろ」
「尾形、なんでこんな事してくれるの。しかも嫌いな杉元の事なのに」

玄関先で靴を履きながら尾形に尋ねると、尾形はとても複雑そうな表情をする。

「…尾形?」
「多分、杉元と同じで、お前が可愛いからだ」
「…」
「全て恋愛感情の方に持っていこうとするな。お前が小さい頃から俺が面倒見てやってたろ。それの続きだとでも考えろ」

尾形は髪の毛をかきあげると、私を扉の外に押し出した。

「ほら、ちゃんと話し合えよ。杉元に殴られた時は…俺が殺しに行ってやる」

なんて物騒な人と幼馴染になってしまったのだろう。取り敢えず、今は佐一を何とかしないと。私は元来た道へと駆け出した。




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