冷たい手


*暴力表現注意/かっこいい杉元はいません

あっ、と思った時にはもう遅かった。

首元に凄まじい衝撃が襲ったと思ったら、次の瞬間胸ぐらを掴まれていた。気道が狭くなったせいか、声が上手く出せない。

「…っさい、ち」

佐一は下を向いたままふうふうと肩で息をしている。しばらくそのままで動かなかったのだが突然顔を近づけられた。目の前には愛しい佐一の苦しそうな顔。

「なあ、嘘だと言ってくれよ」
「…なんの、は、なし」

鋭い眼光を真っ直ぐに見据えながら答えると、佐一の顔がぐっと歪んだ。佐一は掴んだ私の服を握り締め直すと、思いっきり背後にあった壁に叩きつけた。鈍い痛みとともに、呼吸が一瞬止まる。

「かはっ…さ、さいぢ…や、やめ」
「言い訳ぐらいしろよ!!あの時尾形と手繋いでどこ行こうとしてた!?」

狼のように犬歯を剥き出しにしながら佐一が尋ねる。尋ねると言うより、無理やり聞き出されているのだが。佐一が聞きたいのは、私がこの間尾形と手を繋いでいた事らしい。しかも恋人繋ぎで。それは怒るのも納得だ。

私が何も答えないでいると、佐一は悲しそうに襟元にあった手を離した。壁に押し付けるのはそのままに、背中に手を回してきつく抱きしめられる。

「尾形と幼馴染だって事は知ってるし、たまに二人で会うのも、家族みたいなものだからと思って何も言わなかった。伊織さんのこと信用してたから」
「…」
「なあ、何か、言ってくれよ…なんか理由あんだろ?俺が納得できるような理由」

段々と締め付けられる腕に、あばら骨がぼっきり折れてしまいそうだ。密着した体には暑すぎるぐらいの体温と、いつもよりも早い心拍数が伝わってくる。

「…寂しかったの」

私の言葉に佐一がはっとしたように、私の顔を見る。

「佐一、最近忙しそうって尾形に言ったの。そうしたら、うち来るかって」
「それで手繋がれて、あいつの家にのこのこついって行ったわけか。俺に何も言わずに」

再び怒りの表情に染まる佐一の顔を手のひらで優しく覆う。

「…ごめんなさい。佐一なら、分かってくれると思って」

いつの間にか佐一の目に滲んだ涙を親指で拭う。その手を撫でるように、佐一の暖かい手が包み込んだ。

「先に、俺に言えよ…伊織さんの彼氏は俺だけだろ、尾形じゃなくて、俺」
「うん、ごめんなさい」

ただ謝り続ける私に、佐一は悲しそうな目でこちらを見てくる。

「なんで、そんないっつも余裕そうなんだよ。俺ばっかり悩んで、馬鹿みたいだ…」

言い終わった途端、私の携帯の着信が鳴る。ちらっとそちらを見やると、画面には「尾形」の文字が。

「伊織さん、携帯が」

目線を携帯に向けようとした佐一の顔を両手で挟んで、口を塞いだ。






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