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 ちょっとまって、あの子すっごく可愛い。

 お昼下がり。前から気になっていた甘味屋さんに来ている。あとで全蔵にお土産買ってあげなくちゃ。この店の団子は申し分なく美味しい。お茶も種類が豊富で後味が良い。それになんと言っても、看板娘が可愛い。

「ねぇ、そこのお姉ちゃん」
「はいっ、なんでしょう」

 スタイルは程よく肉がついた感じで私好み。肩に少し付く程度の髪の毛は、さらさら風に揺れている。パッチリした目に頬は薄ピンク色。唇にはさっき塗ったのだろうか、ラメが入ったグロスがそこだけ場違いのようにてらてら光っていた。

「最近できたの?ここの店」
「はいっ!最近開いたんです!」
「一人で切り盛りしてるの?」
「おばさんに手伝ってもらって、やっとのことでお店回してます…」

 はにかんだように答えるその様は、なんとも初々しく心が洗われるようだ。ほんっとに可愛い。

「ねぇ、ケータイの番号お「あっごめんなさい!注文が来たので失礼いたしますっ」」
「あー、頑張ってね」
「はい!ありがとうございますっ」

 ぱたぱたと去っていく様子を見ながら、また声かけようと考えて、団子が入っていた容器を片そうと手を伸ばす。するといつの間にか横に座っていた黒服の青年の手が触れた。

「あ、ごめんなさい」
「…姉さん、あの娘のケータイの番号が知りたいんでィ?」
「(見られてた)…そう、でも振られちゃったけどね」
「やり方が悪いんでィ。ちょっくら見てなせェ」

 そういうと青年は、さっきの女の子呼んだ。普通に注文した後に、上目遣いでちょっと首を傾げながら

「あんた、ケータイ持ってますかィ」
「え、っと持ってますけど」

 うわー、なんてあざとい顔。この顔で何人も女の子落としてきたんだろう。私もこんないい顔に生まれりゃこんなマネ出来たろうけど。

「番号教えなせェ」

 強引だなー。これ大丈夫なの。と思った瞬間、思ってもいない爆弾がその口から発せられた。

「この前あんたと店の常連が近所のラブホに入るのが見えたんでィ」
「…」
「しかも先週は違う男連れ込んでたろ」
「…」
「沈黙は肯定と捉えやすが」
「教えたらいいんですか」
「別に教えてもらわなくても俺は困りませんがねィ。困るのはお前でさァ」

 看板娘は先ほどの柔らかい笑みから一変、苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。そして観念したように、袖口から紙とペンを取り出し素早く番号を書き込み青年に突き出すと店の中に走り去ってしまった。

「純情な顔して裏ではあんな事やこんな事ヤってんでさァ。はい、あんたが欲しがってた番号」
「…いるかああああああああ!!!!何あの子の真っ黒な所晒してくれてるの!?え?私の為に聞いてくれたんじゃないの?こんなの聞いてあの娘と出来ると思う?」
「何をヤるんでさァ」
「んなこと決まってるでしょ」
「新地開拓ですかィ。もう遅かったようですが」

 そろそろ人間不信になりそうなんだけど。人は見かけに寄らないとは言うけど、あんな純情を絵にかいたような町娘が、まさか。

「姉さん、姉さん。ここにいい男がいまさァ。あんなあばずれ放っておいて俺と楽しいことしやしょ「総悟ォォォ!!!!!!!!何こんな所でサボってんだったく早く巡回に戻れっっ!!!!」」
「あぁ、土方さん邪魔しないで下せェ。今こいつのことナンパしてるところなんでェ見てて分かりませんかね」
「分かりたくねぇよんなもん。総悟が迷惑かけたな。これでもう一本団子でも食って勘弁してやってくれ」
「いえ、あの、ありがとうございます」
「おう。総悟、行くぞ」

 青年、もとい総悟君は同じ黒服のひじかたさんとやらに引きずられていった。総悟君は思い出したように後ろを向くと、こちらに向かって電話のジェスチャーをする。ケータイってこと?開きっぱなしだったケータイのアドレス帳の中には、全蔵とさっちゃんと、いつのまにかその下に新しく、"沖田 総悟"の名前が加わっていた。





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