小癪なスーパーボール




「おい西谷町!お前また黙って鍛錬抜け出したろいい加減にしろよ!」

やっと見つけた西谷町の姿は寝巻きで、その上風呂上がりらしく髪がしっとり濡れていた。声に気付いたのか、こちらに向かってふらふらと歩いてくる。一日中探し回っていたはずなのだが、道場にも何処にもいなかった。怒鳴ったところでどこ吹く風、といった表情の伊織に怒りを通り越して呆れて果てる。

「夜に大声出さないでくださいよ、私はもう寝るんです」
「何言ってんだ…まだ9時だろ、お前今日一日何かしてたのかよ」
「特に何も」
「…」
「強いて言えば副隊長のお相手、ですかね」

西谷町は肩にかけたタオルで髪の毛の水分を絞りながらうっとりした表情で微笑んだ。そうだった、こいつはちっこいのが好きなのだ。うちの副隊長がいるからここに入ったとも言える、とけらけら笑いながら言っていたのをふと思い出す。初めそれを聞いた時、志の無さに一発殴ってやろうかと思った(実際殴ろうとした)のだが、実力がないとそもそも十一番隊には入れない。そう思い直してこれ以上は、と思い留まってしまったのは間違いだったか。仕事はしない、鍛錬にも出ない。やることと言ったらせいぜい副隊長の遊び相手である。前の殴り損ねた拳を今もう一度その何も詰まっていない頭に叩き込んでやる。すると固く握り締めたこぶしを、目ざとく気づいた伊織自身の手のひらにやんわりと押し留められた。

「暴力はいけませんねえ班目三席、部下を殴ろうとするなんて」
「暴力じゃねえ教育だ!」
「夜の教育ですか…響きが卑猥ですね」
「…頼むから俺の前以外で、特に檜佐木副隊長の前でそんなこと言うんじゃねえぞ」
「なんでですか?」
「お前は外じゃ、間違って十一番隊に入れられちまったひ弱な隊士で通ってんだよ」
「か弱くて守ってあげたくなるような十一番隊の女の子、の間違いじゃないですかね」

こいつの減らず口はどうやったら治るのだろうか。いや、一生治らねえ、俺が根性叩き直してやるまでは。

「取り敢えず、もう寝ますね。明日その、鍛錬でもなんでも付き合って差し上げますから」
「違え!俺がお前の鍛錬に付き合ってやんだよ!!まあ…取り敢えず今日寝ちまうならそうしろ。そんでもって明日体調万全にしてこい」
「…はい。意外と人のこと見てるんですね」
「意外、は余計だ」
「私のこと心配して下さったので、殴ろうとしたことはそれに免じて許してあげます」
「おう」
「…班目三席」
「その呼び方やめろ。まどろっこしい」
「それでは…おやすみなさい、一角さん」

ひらひらと手を振りながら西谷町は自室へと戻っていった。きっと明日も鍛錬を抜け出そうとするのだろう。あいつが起き上がる前に俺が先に起きて引っ張ってでも道場に連れていってやる。

…そう思っていた昨日の自分は甘かった。

「おら逃げんな伊織!!今日は何でもやるって言ってただろうが!!」
「その言い方何だか卑猥ですね!!一角さん!!」

昨日のかったるそうな表情とは見違えたように今日は元気なようだった。身軽にぴょんぴょん飛び跳ねてなかなか捕まえられない。減らず口だけはいつでも健在ってわけか…。それも含めて今日こそ本気で叩きのめしてやる。捕まえる趣旨が変わり始めた事に気づくことなく、一角は朝からハードな追いかけっこに身を興じ始めた。





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