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「イチゴのパフェ、二つでお願いしまさァ」
「私が奢るよ。これでも一応年上だし」
「大丈夫でィ。新選組にツケときやすんで」
「新選組?」
「姉さん知らねえんで?」
「新選組は知ってるけど、総悟君が?」
「そうでィ」
「コスプレかと思ってた」

 馬鹿にしたように笑ってやると、ムッとしたのか総悟君の眉がぴくっとつりあがった。

「痛っ、痛いって、蹴らないで、ごめんごめん。そんな若い年で随分物騒な所で働いてるんだね」
「伊織さんが働いてる所に比べりゃ、ましでさァ」

 …名前教えてないのに。名前、知られてる。仕事も知られてる。新選組の総悟君に。デート。そうか。そういうことか。

「私のこと、よく知ってるじゃない」
「俺ァ、姉さんのファンなんでィ。だから、一年前に、どこで、何をしていたか、とか凄ーく興味がありまさァ」
「ピンポイントで興味あるんだ」
「それ以外にも姉さんのあんなこととか、こんなことにも興味がありまさァ。例えば今日の下着の色とかねィ」
「それは秘密」
「今日はビビットなピンク色でさァ」

 さっき見られたな。冗談を交えられて少し気が緩む。いや、だめだ。この子はあの事件のことを探りに私に近づいたんだ。別に私に興味があったわけじゃなくて、仕事で。

「そんなに警戒しないで下せェ。せっかく仲良くなったってェのに」
「…仲良く、ね」
「そんな傷付いた顔しねぇで下せェ。そんなにデート楽しみにしてたんでィ?」
「…」
「じゃあ、そんな傷ついた伊織ちゃんは、銀さんが癒してやらぁ。あんなことやこんなことして」
「…銀さん」

雲行きが怪しくなってきたテーブルに近づいてきたのは、今日もダルそうで眠そうな銀さんだった。ちらっと私を横目に見ると、ごく自然な感じで私の横にさらっと座る。

「旦那ァ。せっかくデートしてたのに邪魔しないで下せェ」
「そんな嫌な空気まき散らしてる食事なんてデートとは言いませーん。総一郎君、年上好きだったわけ?」
「総悟でさァ。実はそうなんでィ。さっきも熟れた果実を舐めさせてもらったんでさァ」

 ちょっとそれはいろいろ語弊があるのでは。まあ間違っちゃいないんだけれども。

「は!?こんな真昼間っから何やってんの!?はー、俺も舐めてえよ、熟れた果実」
「銀さん気持ち悪い」
「気持ち悪いのは君らでしょ。伊織ちゃん、分かってる?こいつ未成年だから。まさか伊織ちゃんにそんな趣味があったなんて、銀さんショックー」
「…付き合ってられないし、私帰る」
「都合が悪くなったらそうやって逃げる」
「逃げてないし」

あー、馬鹿なの私。こんな安い挑発に乗っかるなんて。と思いつつも浮いた腰は元の位置に収まってしまった。

「そーそー。伊織ちゃんは銀さんの横でそうやって大人しく座ってればいいの」
「…あっ、パフェ来た」
「旦那ァ、そのパフェと姉さんは旦那に譲りまさァ」
「マジで!?総一郎君太っ腹ー」
「姉さん、いや、伊織さん。また誘うんで今度は誰にも邪魔されないところでデートしやしょうね」
「…」
「伊織さんとは、仕事関係なく仲良くなりたいんでさァ」
「…考えとく」

嫌ともうんとも言い出せずに曖昧に言葉を濁すと、少し眉を下げた総悟君が視界に映った。なんで。騙されてたのは私のほうなのに。沖田君はレシートをさっと取ると、颯爽と店を出て行ってしまった。

四人掛けの席で何故か隣同士で座る銀さんと私。なんだか気まずくなってしまって、パフェを掻き込む。あれ、このパフェ凄くおいしい。しばらく夢中になっていると、横から熱い視線。首を横にやると、銀さんとばっちり目が合った。

「いい食べっぷり。その感じ意外だな。前髪を切って、もっと表情がよく見えるようなったら銀さんもっと嬉しいんだけどなー」
「その予定はありません」
「ちぇっ、なんで」
「仕事柄、顔が見えてないほうが便利なんで」
「ふーん、お前も苦労してんのな」

 苦労、か。別にこの仕事が嫌だと思ったことはない。生まれてから忍者になることは決まっていたし、それ以外の道はあり得なかった。今更友達を作ってショッピングとか、アイドルにはまって貢ぐとか、普通に恋する、とか。
 今までにたくさんの人と関わる機会があった。仕事関連で。その過程で男性と関わる機会も少なくないわけで。女の武器を使って情報を収集することも多々あった。今更純粋な町娘のようにはいくまい。そんなことははなから分かっている。別にイケメンの男の子に浮かれておめかしをしてかわいい服を着て浮かれたわけじゃない。暇だから付き合ってあげただけ。…って私誰に言い訳してるんだろう。ぼうっと考え事をしていると、横で銀さんが何やら騒いている。首を傾けると銀さんはやれやれと言った感じで口を開いた。

「だーかーらー俺がこの後のデート代、奢ってやるって言ってんの!!!」
「…デート?」
「そうだって言ってんだろ。愚痴でもなんでも聞いてやるよ」

なんだ、みじめな私を慰めようとしてくれてるのか。

「…銀さん、ありがとう。その言葉だけで十分嬉しいから」
「…お前が何小難しいこと考えてるか知んねーけど、ただ俺がほかの男の為だったとしても着飾ったかわいー伊織ちゃんとデートしたいなって思っただけだから」
「私と?」
「そうだって言ってんだろ」
「…そう」
「この後ちょっとどっか見て回って、居酒屋にでも寄って、おめーの愚痴聞いてやっから」
「うん」
「お前が散々酔っぱらったら、家まで送ってやるよ。あわよくば、熟れた果実を舐めたいなーなんて思ったり?」
「…んふふっ」
「どう?銀さんとデート」
「…付き合ってあげてもいいよ」
「そうこなくっちゃな」

銀さんはニヤッと笑って私を立ち上がらせた。どこへ行きますか、お嬢様。なんて、ふざけた姿に私の顔も緩む。

「送ってくれるのは良いけど」
「おう」
「家に全蔵居るよ」
「…くっそ忘れてた」

本当に悔しそうにつぶやく銀さんの背中を叩くと、その手を取られてぎゅっと握られ店のドアを出た。




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