5


「伊織ーケータイ鳴ってんぞ」
「…うーん」
「ほら起きろって、俺が出るぞー。男の名前表示されてるけど俺が出てもいいのかー」
「だーめー」
「ほら、」

 全蔵が通話ボタンを押して横を向いて寝ている私の耳にケータイを当ててくれる。通話口から聞こえてきたのは、この前の爽やか甘めフェイスドS青年こと、沖田総悟君の声だった。

「姉さん、姉さん。起きてやすか」
「んー、今起きた。君の電話で」
「そりゃよかったでさァ。俺の声で起きれるなんざ世の女に恨み殺されやすぜ」
「腹立つけど否定できないのが悔しい」
「まぁ、それはどうでもいいんでィ」
「うん」
「姉さん、俺とデートしやせんか?」

…かわいい声出したってコロっと落ちるようなうぶな感じじゃないから。私沖田君みたいに若くないし。そんな私の警戒心が沈黙とともに向こうに伝わったのか、沖田君は再び語り掛けてきた。

「別にとって食いやしやせん。ちょっと俺と仲良くしてくれるだけでいいんでさァ」
「私に何かメリットあるの?」
「イケメンとデート出来やす」
「それだけ?」
「それだけでィ」

再び流れる沈黙。イケメンとデートか…。よし。

「乗った」
「姉さんが馬鹿で良かったでさァ。じゃあ、この前の甘味屋の前で一時間後に」

そう一方的に告げられると通話は切れた。馬鹿ってなんだ馬鹿って。どうせ誰にでもホイホイついて行っちゃう尻軽女ですよーだ。今までも散々変な奴について行って、酷い目に遭いそうになった事もあるがそのたびに返り討ちにしてやった。だてに御庭番衆やってきた訳ではないのだ。しかも今回は自分より年下。心配することは何もない。

「全蔵ー」
「なんだ」
「イケメンとデート行ってくる」
「年下は止めとけよー」
「…うん」

なんでこんな所だけ察しがいいんだ。明らかにあの子、私より年下よね。多分成人してない。未成年か…犯罪にならないよ、ね。悶々と考えながら化粧を済ませ、服を着替える。着替えの途中で全蔵が間違って部屋に入って来たが、顔色一つ変えず「下着の色、派手すぎないか」と真顔でコメントして出て行った。何故か負けた気分。もっと他にあるでしょ。

「行ってきまーす」
「おー」

------------------------------


「時間ぴったりでィ、姉さん。ここはめいっぱいおめかししてきた風を装って、五分ほど遅れて「ごめーん、総悟君の為に服装考えてたら、遅れちゃった、てへっ☆」って言うところでさァ」
「どこ行くの?」
「あそこのファミレスで、最近出た"初春祭、イチゴ盛りすぎちゃいました☆"食べやしょう」
「ごめーん。総悟のこと考えてたらお財布忘れちゃった、てへっ☆」
「年食ってやるその仕草はちょっと見苦しいでさァ」
 
 物凄くイラっとして袈裟固めをかます。総悟君は私の腕をとんとん叩きながら、「姉さん姉さん、胸当たってまさァ」と少し顔を赤らめる姿に、不覚にもキュンとしてしまった。やはり大人びたようでも、子供は子供。わざと胸を押し付けてやる。もっとかわいい反応をしてくれることを期待していたのに、予想に反し総悟君は胸の谷間をペロッと舐めてこちらを見やった。

「姉さん、胸、当たってまさァ」

 えっ。驚いた表情をした私にいたずらっぽく笑みを浮かべる総悟君。それは反則でしょ、お姉さん変なスイッチ入りそうだった。抑えて、抑えて、ふーふー。気を取り直し、腕の力を緩めて立ち上がると総悟君も何事も無かったように私の手を取って目的地に向かい始めた。年下だと思って甘く見ていたら、向こうのほうが一枚上手だったようだ。




prevnext
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -