出来ることもありますが

こんのすけという狐にたっぷりと審神者やこの世界の事について教えてもらった後、もう一度強く釘を差された後に解放された。
外を見れば先ほどまで青空が広がっていた筈の風景が赤く染まり始め、庭の大きな池に反射してキラキラと光っていた。こういうところを見ると純日本家屋になど住んだことも入ったこともない私は簡単に気分を上げてしまう。


「今、何時なんだろう…。」


加州さんと別れてから大分経つ筈だが、彼は一体どうしているのだろうか。今考えると同様してしまってかなり怪しい行動をしてしまっていた。弁解をするのも可笑しいかもしれないが、これからは合わせて生活していかないとなあ。
そんなことをぼーっと考えていれば、正直な私の体は情けなく、ぐぅという音をたてる。
お腹すいたなぁ。もうそろそろ夜だもんね。


さっきの狐によればこの本丸という場所には厨というキッチン的な場所があるらしく、刀剣もご飯を食べることは可能らしい。
食べなくてもいいってことはダイエットも簡単そうだなぁなんて馬鹿みたいな考えで聞き流していたが、やっぱり人の体。食欲には忠実らしく、私はふらりと部屋を出た。





「………ここ、だよね?」


しばらく探していれば、大きな釜のある場所に辿り着いた。そう、釜があった。
これって、あれだよね?ご飯とかこれで炊くんでしょ?なにそれ無理だしやったことなんて無いんだけど。もともとそんなに料理上手な訳でもないのに、炊飯器とか電子レンジとかそういう家電もないなんて。
恨めしげに釜を見てからふとそういえば食材はあるのだろうかと考え、辺りを見渡してみる。すると何故だか物凄く異質感を放つ大きな業務用冷蔵庫を見つけた。



「…何で、これだけ最新なんだろ…。」


がちゃりと開けてみれば、何とか今日の夜ご飯くらいの分はあり、私はほっと胸を撫で下ろす。よかった。これで何もなかったら詰んでた。取り合えず簡単な煮物と焼き魚と…。
頭のなかで3人分の献立を決め、まな板や包丁を見付け出して調理を始める。調味料やフライパンも何故かあったので何とかなるだろう。でも問題はそこじゃ無かった。



「火ってどうやって起こすんだろう。」


料理は何となく覚えていることから、身の回りの生活方法くらいは全て記憶に残っているらしかったが、火起こしなど生まれてこの方やったことはなく、薪をくべる事しか分からない。そもそも薪って自分で割るの?斧は?
一旦考えるのをやめて、何か使えるものはないかと辺りを探ってみる。すると何故あるのかは分からないが、マッチが数箱戸棚に入っていた。そのまま厨に付いている扉を開けて外に出れば薪もあった。ちゃんと割られている。


何とか薪をくべ、マッチで火をおこし、手で扇いで火を大きくする。十分な火力になったところで鍋に野菜や鶏肉をいれ、目分量で調味料をいれる。蓋を閉じて今度は魚をフライパンにならべ、焼いていく。米を研いで釜にいれ、窪みに引っ掛けて様子を見ながら調理を進めた。


「割と出来るもんだなあ。」


暫く待てば煮物の甘い香りとご飯のふっくらとしたいい匂いが厨に立ち込め、更に空腹が主張し始める。釜の蓋を開けてみれば、白い蒸気の後に艶やかな米が姿を見せた。
一人満足げに笑い、火を何とか消してから私以外の二人を探すために厨を出る。何処にいるのか分からないけど探せば見付かるだろうと意気込んで横を見れば、ここの初期刀だという加州さんが吃驚した表情でこちらを見ていた。


「…あ、加州さん。今呼びに行こうと思っていたんです。」


「何かいい匂いがすんなぁと思って。夕餉作ってたんだ。」



「はい。あの、主様は何処にいらっしゃいますか?」



「主ね。俺が呼んできてあげるから、狐ヶ崎は夕餉、準備しといてよ。隣の広間で食べよう。」



そういうと加州さんは上機嫌で去っていった。隣に広間があるんだ。私は今出たばかりの厨に戻り、適当に皿をいくつか見繕って料理をよそう。それなりの見た目にはなっているし、一応味見もしたのだから多分大丈夫…なはず。
人数分の料理を隣の広間に運び、上座に審神者の分を、向かい合わせになるように私と加州さんの分を置き、座って二人を待つ。
さっき咄嗟に『主様』と言ってしまったが、なんだかこの言い方は凄く気恥ずかしい。だからってため口で主などと言うのも急に変わりすぎて可笑しいし、審神者って呼ぶのもなあ…。



この世界の事はまだまだ知識ばかりで分からないことだらけだが、加州さんも優しそうだし、主様も私の事は知らないみたいだし、別にいいか、と考える私は、切り替えが早いことを自慢にしてもいいと思う。
でも刀はやっぱり怖いから、戦いは嫌だ…と思い、何とか馴れる方法を考えることにした。だって出陣、とかいうのを刀剣はやらないといけないらしいし。
こんのすけの有無を言わさない態度を思いだし、軽く腹が立った。



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