「そういや、狐ヶ崎って戦えんの?」
「戦うって何無理死ぬもん戦えない。」
「……まじで?」
加州さんに話を聞いたところ、私や加州さんは付喪神というやつらしく、この刀が本体だと言う。うん、なかなかハードなジョークだね。そして私を刀の姿から今の人の姿に変えたのは、紛れもなくさっきの彼。そして私が仕えるべき相手らしい。え、私メイド扱いなの?という話をしていた所で冒頭の会話に戻る。
「そもそも、こんなに平和な世の中なのに、一体誰と戦うんですか。」
「…まさか、本当に何も知らないの?」
綺麗なお顔を思いっきり歪ませながら加州さんが尋ねる。何も知らないってどういうことですか?と返すと今度はため息が戻ってきた。え、何この雰囲気。私、そろそろ帰りたいんだけど。私のもとの服は何処だろう。
「…ま、いいか。主に後で説明してもらえばいいし。狐ヶ崎、ここがあんたの自室だよ。」
「え、お、お泊まりですか?」
「え?」
いや帰りたいからお泊まりは勘弁してほしい、という旨を伝えると、加州さんは有り得ないという顔をしていた。えっと、何か変なことを言った?動く気配の無い加州さんの顔の前で二、三度手を左右に振る。すると加州さんは疲れた顔をして、後は主に任せたから…と呟いて行ってしまった。
…結局私は帰ってもいいの?と思いつつ自室と言われた部屋に入り、何となく周りを見回してみる。
「こ、ここに居られましたか狐ヶ崎為次様…。」
「……え、」
声が聞こえて慌てて見下ろすと、可愛らしい狐のぬいぐるみが喋っていた。しかも無駄に流暢で気持ち悪い。腹話術?いやでも動いているから、電気で動くシステムなのだろうか。狐は私に近づいてぺたりと座り込むものだから、私もつられて座る。うわ、この服座りづらい。
「御初に御目にかかります、私は管狐のこんのすけ。以後よろしくお願い致します。」
「はあ、ご丁寧にどうも。」
まるで本物の生き物のように動くつぶらな黒い瞳を見つめながら、馴れない言葉を返す。するとこんのすけは、急に声を潜めた。
「……真名、七紙様でいらっしゃいますね?」
「あ…、はい。真名って言われてもそれしか名前はありませんけど。」
そう言えばこんのすけは更に私に詰め寄り、小さな声で、これから言うことは他言無用て御座います、と言う。他言無用ってなんか雲行きが怪しいな。一体この狐は何を話すつもりなんだろうか。
「…単刀直入に言います。貴方はこの世界に狐ヶ崎為次として顕現されました。即ち、もとの世界で七紙として生きることはもう不可能でございます。」
「……………は、え、それって、どういう…?」
「そのままの意味です。貴方はこれから刀剣女士として、審神者に従い、歴史修正主義者と戦っていただきます。」
本日の驚きのナンバーワンが更新され、私の頭はショート寸前だった。そんなぼんやりする頭の中で、審神者なんて聞いたこともないんだし、これはきっとデタラメか何かだろうと考える。
なのに、そう思っているはずなのに、私が泣きそうになってしまっているのは、ここが別の世界だとそう結論付けたならば説明がいくから。私は、この世界で死ぬんだろうか。そう考え出すと余りにも受け止めがたい現実に蓋をしたくなった。
私は始めて、主だという彼を恨んだ。