こっち、だと真っ暗な空間の中で呼ばれているような気がした。その聞き取りやすい声に従うように、上へ上へと向かう。ここはどこだろう?何だかとても暖かいものに包まれているような幸せで不思議な気分だ。
光が差し込んできた。声が一層鮮明になる。ああ、私は一体誰?ふわりと意識が戻る感覚がした。桜の香りがする中で、ゆっくりと瞼を開ける。
「…私は狐ヶ崎為次。平安生まれの太刀で、青江派の刀工、為次によって作られたため、この名前なのです。」
「……は?」
「きつねがさきためつぐ…。」
すらすらと出た言葉に自分自身で驚く。え、太刀?狐ヶ崎為次?平安生まれ?どれもこれも自分の自己紹介だとは思わない言葉に、ただただ唖然としていると、目の前には見知った顔があった。
「…お前、男、なのか?」
「主、最初の鍛刀で太刀来るとか凄いじゃん!」
あるじ?これまた聞きなれない単語に、あとさらっと失礼なことを聞いてくる男。私が男に見えるとか眼科行ってこい。というより、何故隣の君が此処にいるのか。
そう、男は紛れもなく私の片想いの相手だったのだ。
「私は、女です。というよりここはどこですか?」
「え?本丸に決まってるじゃん。あ、俺、加州清光。主の初期刀だよ。よろしくー。」
「まて、俺は狐ヶ崎…てか刀剣女士がいるなんて聞いたこと無い。」
「刀剣女士…?」
てか本丸って何。何のドッキリ?というか私のことを覚えていないのだろうか。さっき卒業したばかりなのにな。そんなことを考えながら初期刀?である加州さんの腰辺りに何やら物騒なものが飾られていることに気付く。
……か、刀!?いやいや、コスプレか何か?洋装に刀って不思議な組合せだけれど、それがよく似合っていることにも驚く。と言うか、ビビるから模擬刀でも持たないでよ。
「あの、なんで刀……?」
「はぁ?俺の本体何だから当たり前じゃん。てか、あんたも持ってるし、今更。」
学校帰りだった私に、驚きの事実を伝えた加州さん。ぎぎぎ、と強張った顔を下に向けると、今までに着たこともないような和装をして、手を後ろにやれば硬い感触がする。手にとって前に出してみれば、大きな刀が握られていて、思わず落としそうになる。え、どういうこと?
「変な刀剣だなー。主もさっきから黙ってないで何か言ってよ!」
「…いや、まぁいいか。清光、本丸案内。」
混乱で頭がおかしくなりそうだった。そんな私を知ってか知らずか、加州さんが私の手を取り、ぐいぐいと引っ張る。痛い痛い、なんだこの力。華奢な見た目とは裏腹に力はあるらしく、半ば強引に私の本丸案内は始まった。
「……あいつ、何か見たことが…。」