加速する疑心

審神者や刀剣男士達が朝餉をとっている間に、私は先程の部屋の前に立っていた。今が調べるチャンスだろうし、早いところ終わらせなければ。先ずさは扉に触れてみようと手を伸ばす、が、襖に触れた瞬間にずきりとした鋭い痛みが私の右手を貫く。
反射的に手を引っ込め、まだじくじくと痛む手を見る。あー、別に外傷は無いみたいだし、最終的には抉じ開けるって手段もアリか。でももう痛いのは御免だし、他の方法も考えよう。



「……斬れないかな。」



私はよく強そうだと言われる。だがそれは大きな間違いで、私は強くもなければ寧ろ弱い方だ。だから自衛のために太刀を持っているのだが、これは私が選んだのではなく、政府から支給されたものだ。そして私はいつも思う。なぜ太刀なのか。大きいし重いし、私に使いこなせる代物では無いのだ。短刀なら室内でも振り回せるし、大きさも丁度よかったのに。


「……私じゃ無理か…。」


一応抜いて構えてみるものの、術の神力が強くて直ぐにでも弾かれてしまいそうだ。太刀が折れたりするのは本当に嫌。私は鞘に仕舞い、今度は少し声を掛けてみることにした。



「すみませーん、誰が、居るんですか…?」


音を聴くことに集中するが、一向に何も返ってこない静寂に、私は項垂れる。
ここ、一体何のための部屋なんだろうか。刀剣男士を閉じ込めるため?それとも、見られたくない何かを隠すため?昨日感じた神力は間違いなくここの部屋から感じたものだったけど、もしかしたら顕現されていないなんて事も有り得るのだろうか。そうなると私の神力ではどうにもならない。審神者が手に入れた刀剣を他の審神者が顕現するのは云わばマナー違反。私は審神者では無いけれど、顕現した刀剣男士になつかれるのも嫌だし。


そろそろ朝餉も終わる頃だろうと思い、私は審神者の部屋に向かう。彼処の事をここの審神者はどう説明するつもりなんだろうか。案内されること無く終わるような気がする。
そういえば他の刀剣男士達はこの部屋の事を知っているのだろうか。朝の今剣の様子からして、何も知らないことは無いと思うけれど、それを聞いて怒り殺されたくはない。ここは一旦黙っておこう。




「審神者様、見習いです。」


「お、入ってくれー。」



失礼致します、と言いながらゆっくりと入室し、後ろ手で襖を閉める。正座をし、背筋を此でもかと伸ばして審神者を見つめた。何かの書類を捌いていたらしい審神者は、筆をおいて私に向き直った。いつも通り気持ちの悪いくらいにこやかな笑みを浮かべている彼は、本当にブラック本丸の主、なのだろうか。一応の警戒心を持ちつつ、私は言葉を待った。



「よし、じゃあ本丸探索と行くか!」


「はい、よろしくお願い致します。」



堅いな、とまた笑う審神者が立ち上がるのを確認し、私もそのあとに続く。執務室を出て、ひとつひとつ丁寧な説明を受ける。厨、厠、風呂、各々の自室……。私には一切関係の無い所まで念入りに説明を受けたが、やはりあの部屋の説明は無かった。じゃあ俺は執務があるから、また後でな、と諭すように言う審神者に向かって、私は少し不思議そうな声色で尋ねてみる事にした。



「…あの、審神者様。彼処にもうひとつある部屋は、何をする部屋なのでしょうか。」



審神者の顔色を窺いながら聞くと、審神者の顔が笑い顔からひきつった笑みに変わる。ああ、やはり何かあるんだ。なかなか返事が返ってこない彼に、もう一度、審神者様?と呼び掛ける。その瞬間に私は強く腕を引かれ、太刀を取り上げられた。
あまりに急な出来事に、警戒をしていたにも関わらず奪われた太刀をただ呆然と見つめる。何かを話す間もなく、私は審神者に腕を握られて引っ張られ、例の部屋の前に立たされた。




「……お前は、この部屋が見えるんだな。」



質問をされているようだが、声には抑揚がなく、冷たい視線が刺さる。何も反応を返さないでいると、審神者は目の前の結界を解き、勢いよく襖を開けた。




「………な、なに、これ…。」



空いた瞬間に匂う酸っぱくキツい臭い。目の前にいたのは、ああ確かにこの本丸では一度も見かけることのなかった刀剣男士。私が目を見開いていると、審神者は乱暴に私を押し、倒れた私の上に太刀を投げ付けた。痛いし、畳で擦ってしまった所から軽く血が出ていた。最後に審神者が私を嘲笑うかのように鼻をならす。



「見習い期間が終わったら出してやる。これも好奇心で結界のある部屋のことを尋ねたお前の責任だ。せいぜい餓死しないように頑張れよ。」



ばたん、と閉まってまた外から強い結界で閉じ込められる。何これ、最悪。ゆっくりと後ろを振り替えると、どこの本丸でも必ず誰かは見かける、一番の大所帯か倒れていた。
怒りより、こっちの救助が先。私は奥の壁に寄りかかり肩で息をしている彼に話しかけた。




「…一期一振様!大丈夫ですか!」



この部屋は、粟田口の監禁部屋だったみたいです。

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