疑惑の本丸

「あるじさまー!みならいさまをつれてきました!」


「おおー!えらい、えらいぞぉ今剣!見習いも御早う!いい朝だな。」


「…御早う、御座います。今日も一日よろしくお願い致します。」




広間に入ると、沢山の刀剣男士達がこちらを一斉に見つめた。ちょ、そんなに穴が開くほど見つめなくていいじゃん。まだ私何もしていないのに。まあ此れから色々とやらかすかも知れないから、と一人に考えつつ、私は突き刺さる視線を無視して審神者に挨拶を返す。
よしよしと今剣の頭を撫でまくる審神者は相変わらず黒本丸の主には見えない。何故かって一番に警戒心が足りない。私のような見習いに迎えを寄越すような黒本丸は今だかつて無かった。それに、刀剣達もみな安心感に満ち溢れ、綺麗な神気で包まれている。



これ以上考えていても埒が明かないな。そう思い、審神者の方を向き、ずんずんと距離を積めた。いや、何不思議そうな顔してるの?呼びに来たのそっちじゃん。溜め息と愚痴を心の中に留めつつ、威圧的にならないよう、比較的穏やかな声で話しかける。



「私に、御用があると聞いておりますが。」


「あ、あぁ、そうだった!この本丸を案内してやろうと思ってな。まあその前に腹も減っただろう、先に朝餉にしようか。」



あさげ、そう聞いた瞬間に思わず身震いする。誰が、こんな怪しい本丸の食事など受けるものか。それならばいっそ食べない方が何十倍もましと言うものである。私は付喪神でも何でもない只の一般人である為流石に何も口にしないというのはキツい。しかし毒を盛られ身動きが出来なくなろうものならば、それこそ調査員として失格である。何も要らない、私は審神者様と食事を共にすることが出来ない。そうだ、それで納得していただくとしよう。



「すみませんが、主である審神者様と食事を摂ることは出来ません。政府から食事は支給されていますので、私の事はお気ににさらず。」


「えぇっ!?そんなの寂しいじゃないか!ほら、うちの刀剣達が作った飯は旨そうだろ!?是非とも一緒に食べよう!」



だから、要らないんだってば。尚もしつこく迫る審神者に何度目かの苛立ちを感じる。そして強く、鋭くなっていく視線。ああ、突き刺さるような不快感だ。私だって好きでこの人の事を疑っている訳ではない。私の立場上、そうしなければならないことなのだ。
こんな意味の無い口論に時間を費やしていては、その美味しそうな朝餉も冷め、不味くなってしまうだろう。そう思い、半ば強引に、政府から出されたルールですので、と諦めてもらった。いや、
本当にしぶしぶといった感じだったけれど。



「では、私は自室へと戻ります。朝餉後、また改めて審神者様の執務室へお伺いさせて頂きます。」


「……あー、じゃあ、そうしてくれ。」



伝えたいことだけを伝え、廊下へ出て後ろ手で襖をしめた。中から頂きます!という元気な号令が聞こえ、さっきまでの静寂がまるで嘘のようだと感じた。
本丸案内なんか要らないから、さっさと彼処の決壊を解いてよ。私はそこにしか興味がないんだから。



今回の仕事はなかなか大変な雰囲気が漂っている。これは給料がはずむかもしれないなぁと思うと、少し嬉しい。あの阿呆な審神者をさっさと暴いて、早いところ終わらせよう。そう私は心に刻んだ。
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