疑うアプレンティス

「ここ…呪いがかけられている?怪しすぎ…。」





外から見るといたって普通の部屋だ。が、政府の端くれである私にはわかる。ここ、昨日私が掛けたものと同じ術で封鎖されてる。しかもかなり上位のやつ。え、なんで使えるの?びっくりなんだけど。私が使える解術では解くことのできないそれに、思わずため息をつく。あーあ、これ増援でも来ない限り仕事終わんないやつじゃん。最悪。



苛々と不満げな気持ちを何とか抑え、手元の資料をもう一度見る。ここの審神者のことが書いてある、ちょっと雑な、うちの上司お手製の資料だ。二十歳で審神者適正診断を受け、素質ありとみなされ、合格。以後すべての会合に参加し、日課もこつこつとこなしている。うん、ここまで見て更に頭が痛くなるようだった。なんでこんなごく普通の審神者が術なんて。面倒だなぁ、もう。



「……ん?」



誰にも見つからないようにと、寝床を忍び足で抜け出した今。つまりかなり朝が早い。そんな早朝特有のひんやりとした空気が舞う廊下の突き当り。ひらり、と黒い衣装を一瞬、私の目が捉えた。誰が。とっさに太刀に手をかけ、いつでも抜刀できる姿勢になりながら影を追っていく。




ぱか、と何かを開ける音。直後に香る、ふわりとした甘いような深い香り。





きゅるるるる……。




「っわ、あ!」



「え?」



そこにいたのは、鎌倉時代の刀であり、伊達政宗が使っていたとされる太刀。眼帯にスーツのような黒い衣装に身を包み、各本丸ではオカンのように家事をこなす刀剣男士。




「燭台切光忠様……。」




「……あれ、僕のことを知ってるのかい?それは嬉しいなぁ。その通り、僕は燭台切光忠。君は昨日来た子だよね?こんなに朝早くからどうしたのかな。」



どうやらここは厨だったらしく、立ち込めているこの香りは、炊きたてのご飯の匂いだったらしい。ううん、どうごまかそう。多分まだ警戒はされていない筈だから、今のうちに理由をつけて離れるのが得策か。




「…今日のうちに本丸の造りを覚えておきたくて。夜に動き回る訳にもいきませんから、朝のうちに出てきたんです。」



「そう、偉いね。でも主が今日案内するって息巻いてたよ?」



「…それは、知りませんでした。でしたら適当に切り上げて後は審神者様に案内して戴くとします。」




それがいいね、と笑う燭台切光忠に軽く挨拶を済ませ、自室へと足早に戻る。あの審神者、私を一人にさせる気がないのか。まあ見習いという体で来ているのだから、少しは知らない振りをしながら基本的なことを教えてもらうとしよう。




どれだけ頑張って覚えても無駄なんだけれど。




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