捜索開始

いくら戸を閉め切っていても、小声で話していても、声というものは不思議と広がっていくものだ。そう、まるで風のように。思いっきり息を吸い、力を目の前の戸に込める。集中―――。





「静。」




ぶわりと私の周りで風が舞う。鍛刀する神力こそないものの、私だって政府の端くれ。術の一つや二つ掛けれるものなのだ……、よね?ううん、術を掛けられるのは昔からだし。これは才の問題なのかもしれないなぁ。ともかくこれで私の声はだれにも聞こえない。ただの口パクに見えるはずだ。





「お疲れ様です。審神者番号5243番張り込み中の七紙です。」



「おーう、お疲れ。どうだ?黒か?」



「今のところは何とも。でも、そうですね、怪しいといえば怪しいですね。」



「はぁ?お前何年この仕事やってんの。一発でわからないとか…。」





このむかつく男は私の上司の鵙。歳は同じだがこいつはもとより政府の親を持って生まれたため、こんな立場関係なのだ。口を開けば悪態をつく鵙は私から言わせるとただの悪ガキそのもの。でも私は知っている。こいつはなんだかんだ言ってまあ悪い奴ではないということを。なぜなら…。


「主君、誰とお話をなさっているのですか?」


「あっ、太刀さま!主君、僕たちもお話をしたいです…。」





鏡から覗く可愛らしい顔。鵙が顕現した刀剣で、ぱっつんの前髪と太股が眩しい、前田藤四郎と平野藤四郎である。どちらも短刀、双子のようなコンビネーションを見せる刀剣たち。この二人といるときの鵙はとてもうれしそうで、柔らかな笑みを浮かべる。こんな顔は性根が腐りきっているものにはできないことだと私は思うのだ。









「―――で、ある部屋の前を通った時に起こったわけです。」




「その声に聞き覚えは?その部屋に入ることはできるか?」



「今から動くのは怪しまれる可能性があるので、明日から調査を始めます。かすかだったので聞き覚えはなんとも。」





あの声…。確かに弱っていた。すぐにでも保護したいところだが、助けたことにより審神者の怒りを買って今いる刀剣たちに襲い掛かられては勝ち目などない。狙うは出陣、遠征中の審神者が業務で書類を捌いているとき。この狭い室内では太刀も思うように振り回せないから軽率な行動はできないのだ。






「まあ遅くても…か、かまわねぇから…。ちゃんとブラック本丸としての証拠を掴めよ!切るからな!」




「はぁ、お疲れ様です。」





あーーっという二人の声が聞こえたかと思うと、目の前の鏡は私を映し出した。よし、報告も終わったし、次は太刀の手入れだ。使ってないけど、毎日手入れすればその輝きと切れ味が失われることはないからね。というよりもう習慣のようなものだし。






「よし…ぽん、ぽんっと。よく考えたらもう長い付き合いだね。」




喋るはずのない刀に、静の呪をつけたまま喋りかけるのも私の習慣のようなものだった。あ、なんか悲しい人みたい。いや、あれだよ、サボテンに話しかける人とかいるじゃん?あれ、よく考えたらそれも寂しいような。





手入れすることによってさらに輝きが増した刀。やっぱり安心する。手入れが終わった後はいつもありがとう、と言うかのように温かくなる気がするんだから不思議だ。あの審神者が私にしつこく名前を付けたがっているのと同じように、この子にも名前を付けてあげてもいいかもしれない。なーんて。






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