夕餉と偽名

「荷物は見たところその太刀と風呂敷だけかい?この本丸は安全だし、女の見習いが持っている必要もないだろう。置いていくか?」




「いえ…。これは武器ですけど、それよりもいつも持っている半身のようなものなのです。持っておきたくて…。」




「そうか!なんだか付喪神みたいだなぁ。」





政府の役人がみんなもとより就職しようとしてついたわけではない。私なんてもとは本当に審神者見習いだった。しかし政府のしていることを少なからず知っている見習いは元の生活に戻されるわけもなく、こうして雑用のようなことをさせられているわけだ。








…たす、……け………な…ぎは…ここ……。








「……っ。」



「…どうしたの?え、体調悪い?」



「あ、いえ…、大丈夫です。申し訳ありません。」



「……そう?」





なんだこの気配は。神力こそ感じるがそれよりも大きいのは…、恐怖、苦しみ、憎悪…。ひどい。こんな気感じたことなんて…。一瞬だったけど確かに感じた。調査員なめんじゃねえぞ。やっぱりこの本丸、なにか、ある。






「うーん、なにかあったら言ってよね。主はあんなのだけど、俺はなんたって近侍だから。」



「ありがとうございます。うれしいです。」




「何の話だ?お、見習い、ここが広間だ!おおい、みんな、新入りだぞ!」





審神者様がドアを開けると、刀剣様達がこちらを一斉に見る。そうか、夕餉の時間だったんだよね。まあ、ひとまずここは挨拶して…っと。





「今日から審神者見習いとして住み込みで研修させていただきます。偽名はありません。見習いとお呼びください。よろしくお願いいたします。」




「ほんっとうに固いなあ…。みんな、仲良くしてやってくれ!」





短刀、脇差、打刀、太刀、大太刀…。ざっと見ただけだから数はわからないが、もし抜けているとしても数振りだろう。全員目は淀んでいない。…じゃあさっきのは?だれが助けを求めていたのだろう。…疑ってもしかたないか。見る限り友好的ではあるように見えるから大丈夫だろうとは思うし。





「では審神者様、今日はもう休ませていただいてもよろしいでしょうか?明日からということでしたので…。何かあればお声かけください。」




「ああ、そうだな。安心しろ、明日までに素敵な名を考えておいてやる!」




「…ありがとうございます。では、私はこれで。」





名をつけられるなんて堪ったものじゃない。いつだったか、偽名に慣れすぎてしまい、一種の言質となってしまったことがある。あくまでも偽名だったから良かったものの…。あれは本当に黒歴史だ。自分の名を忘れてしまったときの喪失感は言葉に表せない。上司にもこってり絞られて…。はあ、これだから話の聞かない馬鹿は嫌いなんだ。
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