黒本丸対策事務所

審神者とは、歴史修正主義者を倒すために時の政府が打ち出した、言うなれば一つの計画のようなものだ。



審神者を主とし、ともに戦う付喪神は己を振るう。本来は神と崇め奉られるはずの彼ら。しかし主従関係を結び、審神者に名前、という言質を取られた彼らはいつの間にか審神者にとってただの道具に過ぎなくなる。それはごくわずかだが。




時の政府はそうなってしまった本丸を、ブラック本丸と呼んだ。そして、付喪神の報復を恐れた政府は、ある対策を取った。








「――はい、もしもし。こちら黒本丸対策事務所取り締まり課です。ご用件は?」






審神者番号5243番。ブラック本丸の危険性、可。取り締まり課による住み込み調査を願う。そんな調査報告書が送られてきたのは昨日のことだった。それでその任を任されたのは私。政府だとわからないように粗末な着物を着て、刀剣を握りしめる。付喪神こそ憑いていないけれど、古い昔の太刀だ。名前は無い。無名刀だ。




「ここが、ブラック本丸…?」




ここでの私の立ち位置は見習い。あくまでもホワイトな本丸での審神者見習いってことになっている…一応。太刀持った見習いなんていないと思うけど、そこは華麗にスルー。とりあえず見た目に問題は無し。空気も淀んでいません。今のところは。




「とりあえず審神者様に会わないとどうしようもないか…。」




黒本丸だと思ったら思いっきりホワイト本丸でしたぁーあはははは!なんてことは黒本丸調査員としての結論で言えば結構ある。出陣しすぎてるかと思えば手入れは完璧で、ただ血の気の多い刀剣様が多かったり、会合の出席をサボっているかと思えばただうっかりした審神者様(主にお年を召した方)だったり。まあそんなものだ。そういった本丸は注意喚起だけで終わるから報告書作成も楽だったりする。




ホワイト本丸なら。だけど。




そりゃあ私だって今まで少なからずブラック本丸に出くわしたことがある。しかしその本丸はだいたい見習いの受け入れを拒否し、空気も少なからず淀んでいる。神力でもごまかせないことはあるのだ。まあ空気を読まずとも刀剣様に会えばわかる。伊達にこの仕事やってませんぞ。




玄関をノックし、引き戸を開ける。うん、内装も問題なし。





「すみませーん…、審神者様はいらっしゃいますでしょうか?」




なるべく通る声で審神者様を呼ぶ。おお、足音が聞こえる。それとすこし焦ったような声も。「お出迎え忘れてたじゃないよ、このばかあるじ!」ふむ、この声は…。




「ああ、今日から見習いとして住み込みで働かれるかたですね!お出迎えができずもうしわけない!!」




「んもう!主ったら抜けてるんだから!」






「いえ、お気になさらず…。審神者見習いで今日から住み込みで研修させていただきます。偽名はありません。どうぞ見習いとお呼びください。」




ぺこり、と頭を下げると、審神者様はおお、と声を漏らす。まあ、こんなカチッとした挨拶されてもたじろぐだけよね。でもこれがマニュアル通りだからしょうがないよね。顔を上げ、私と同年代であろう男を見る。うん、目は澄んでいる。ここもオーケー。





「いやぁ、堅苦しいなぁ…。僕はこういうの苦手でね。君はこれからここに住むのだから、そんなに身構えなくてもいい。これからよろしく頼む。」



「…はい、よろしくお願いいたします、審神者様。」





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