漬け込む隙を見逃さない

「だから!無理だって言ってんだろ!」


「そこをなんとかお願いします!鵙さんの力で上に掛け合ってくださいよ!」


「無理なもんは無理。第一黒本丸なんか引き継ぎさせてみろ。新入りが死ぬ。」


「誰か適任がいるでしょう!後生ですから言うだけ言ってくださいお願いします!」



黒本丸から無事に帰還したあと、私は報告を済ませる前に鵙に頼み込みに行った。でも何度頼んでもこのやり取りが続くだけで一向に埒が明かない。一応私の上司である政府派の鵙に話が通じるとは思っていなかったけれど、ここで挫けるわけにはいかない。だって約束しちゃったし。て言うか鵙は新人をあの本丸にぶっこむつもりなの?なんでベテランの審神者さんに頼むとか考え付かないわけ?
私が帰ってきてから数日がたっても話は纏まらず、鵙は一向に見方になってくれる気配はない。こいつには感情が無いんですか。


「全く…。なんで今さら解体に文句を言うんだよ。いつものことだろうが。」


「それ、何度も説明しましたけど。あの本丸は一部の刀剣がブラックの扱いを受けてるだけで、全員を壊すのは可哀想だからです!」


私はあえて鶴丸国永の話は鵙に言っていない。だって言ったってそれは刀剣が穢れてるからだの調査員だから割りきれだのそれしか言われないから。そこで私が考えた言い訳はまともな刀剣も居るし改善できたら戦力になるから作戦である。
そこに可哀想だと言うワードをつけてしまえばなかなかの言い分になると思ったのだが、話を聞くつもりもないのか受け流されて終わってしまっているのが現実だ。
何か他に言ってやろうかと口を開きかけたとき、鵙はとんでもないことを言った。



「そこならもう心配するな。まともな刀剣は皆引き取りが決まった。彼処に残るのは穢れた刀のみだ。これで満足か?」



「………………ん?えぇ!?」


とんでもない爆弾発言に私は目を白黒させて立ち竦む。いやまともな刀剣が引き取られるのは良かったけれどそこじゃない。つまりそれは鶴丸国永から仲間を引き剥がした上に本丸ごと刀壊するぞって言っているようなものだ。そんなの出来るはずが無いだろう。
あの本丸の男が強制捜査の後に捕まってから早一週間が経とうとしている。あの男は最後まで抵抗し続け、今も自分はどれだけ素晴らしい主だったかや刀剣にどれだけ愛されていたかなどを話しているらしいが無駄。あの部屋も結界を壊されてあっけなく見つかり、あの部屋の刀剣も手入れを受けたらしい。
そして最後に残ったこの問題。ブラックの扱いを受けた刀剣に更に酷いこの仕打ち。焦りから私は目線を忙しくさ迷わさせる。


「だからお前の言っていることも解決しただろ。はい、この話終わり。報告書早くまとめろよ。」


「…ま、待ってください!」


「何だよ、俺忙しいんだけど。」




「――…わ、私がやります。引き継ぎが見つかるまで。それなら良いですか?」



「……お前、自分が何言ってるか分かってる?審神者になれなかったお前が代わりなんて務まるわけがない。」



確かに私は霊力もなければセンスだって無い。ついでに昔にやらかしたせいで信用もない。だけど代わりが見つかるまで、あの本丸を維持することくらいは出来るはずだ。鍛刀や顕現といった霊力を使う事をしなければいい。出陣は回数を減らし、手入れは手伝い札を使う。こうすれば手入れも自分で行う必要はない。なるべく刀剣達を傷付けないようにメンタルケアをし、いつでも引き継ぎが出来るようにする。



「馬鹿なことは分かってます。だからあくまでも引き継ぎが見つかるまでです。それまでに完璧に彼らを立ち直らせてみせます。」


「………頭冷やせ。第一こっちの仕事はどうするつもりなんだよ。」


「そこは鵙さんがカバーしてください。」



本音を言えばあの本丸に行くのは怖くて仕方がない。あの刀の刃を向けられたときを思い出せば震え出しそうになる。一時の気持ちでこの仕事から離れて、私はいつか後悔するのかもしれない。でもここで引き下がればそっちこそ絶対に後悔が付きまとう。偽善と言われようが情に絆されすぎだと言われようが構わない。それでもし…私が死ねば、そこまでの人生だったということ。私は怯まずに鵙を睨んだ。



「……と言うか、鵙さんが嘘をついたせいで私、危なかったんですよ?髭切様が顕現しなかったら閉じ込められたままだったし。」


「お前な…。俺もわざとじゃない。お前が無理に霊力を顕現に使ってぶっ倒れないように配慮してやったんだぞ?」


「でも実際、私に嘘をついて危険にさらしたのは間違いないですよね?」


鵙が目線をそらしたと言うことは、多生なりとも悪いと思っているんだろう。こういうところで嘘がつけない鵙はなんだかんだ言って部下思いの上司である。そして何故か顕現した髭切は私に付いて帰ってきた後もずっと私の傍にいる。今はたまたま神力の検査か何かでいないが、この話には積極的とはいかなくとも乗り気ではあった。また付いてくるつもりなのだろう。まあそれはいいのだけど。
ここまでで少し罪悪感が生まれ、言葉を詰まらせた鵙に、私は止めの一言を放つ。



「悪いと思っているんならお願いしますね?」



私も少し性格が曲がってきたのかもしれない。それでも鵙よれはましだと思うけど。


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