私に出来る事ならば

「…鳥居だ………。」


「おいおい、当たり前だろう?他に何処に連れていくっていうんだ。」


鶴丸国永に付いていけば、誰にも会うことなく私と髭切は鳥居に着くことができた。やっと帰れると安堵し、もう一度外から本丸を見る。うん、やっぱり綺麗っていうか、普通なんだよね。彼処の部屋だけが汚れてるだけで。
私は刀剣たちも大事にされていたように最初は感じていた。でもさっきの粟田口はどうだったか。神様らしい扱いをされず、ぼろぼろで傷も治されない。それを思い出し、あの男は一体どういうつもりなのかと考える。


「というかきみ、ずるいよねぇ。」


「何の話だい?ここにちゃんと連れてきてやっただろう?」


「ここに連れてきたら僕達はきみの頼みとやらを聞かなければならないでしょう。」



鋭いな、と笑う鶴丸国永は、もとから分かった上で連れてきたらしい。まあお世話になった、というか乗り掛かった船だし、頼みくらい聞いてやっても良いと思うのだが。
其れにしても飄々とした掴み所の無い鶴丸国永も、当たり前だが付喪神。神様だ。私のようなただの人間に出来ることなんて無いと思うんだけど。クエスチョンマークを浮かべながら私は鶴丸国永を見る。その瞬間に彼の金色に光る瞳と目があった。



「きみに、ひとつ頼みがある。」


「私にできることなら、何でも致しますが。」


「この本丸を解体しないではくれないか。」



真っ直ぐ見つめられたまま鶴丸国永が放った言葉に、私はただ呆然と立ち尽くしてしまう。解体しないでなんて、私が考えていた頼みとは違いすぎて、ぱちぱちと何度か瞬きをする。
私は政府の人間ではあるが、カーストは本当に下の方。こんな風に危険視されている黒本丸に飛ばされるくらいにはしたっぱだ。そんな私がひとつの本丸の解体の可否を決めることはできるだろうか。答えは出来ないと断言できる。
そもそもブラックだと決められた本丸は解体されるのが規則で、例外的に認められたことも無い。私ごときが変えられるルールじゃないのだ。



「…鶴丸国永様……。」


「無茶苦茶な頼みだとは分かっている。でもな、俺はあんな主のせいで居場所を失うのは真っ平ごめんなのさ。」



どうか、と頭を下げる鶴丸国永は本気らしい。確かに私が刀剣ならばあんな主に仕えた挙げ句に知らない人間に本丸を解体され、自分も消えてしまうだなんて耐えられない。神に対する仕打ちかと憤りも感じる。それは、分かる。
私も人間だし、感情があるから、ここまで頼み込まれたら了承してあげたいし、力になってあげたい。でも私ひとりでどうにかなるか…。そこが問題なのである。


「…顔をあげてください。あなた様のお気持ちはよく分かりました。」


「なら…!」


「取り合えるだけ、御上に取り合ってみましょう。ですがそこまでです。それでもよいのならお引き受け致しましょう。」


「あ、ああ、構わない!本当にありがとう!」



ここまで来たならもう引き返せない。私だって女である以前に神を慕う人間だ。覚悟を決めよう。私が救わずに誰がこの刀剣たちを救うのだ。私が出来ることを全てやってみよう。
そう意気込み、目の前の純白の神様ともう一度視線を合わせる。本来なら綺麗な光を持つ美しい瞳のはずが、その目は一期一振達に寄った穢れが広がりかけた瞳だった。最初に会った加州や、その他の広間にいた刀剣達とは違う。それが表しているのは、鶴丸国永をはじめとしたあの部屋にいた刀剣達のみ黒本丸の仕打ちを受けていたということ。
……そろそろ時間だ。早く帰って事のあらましを伝えなければ。


「…出来る限り尽力させていただきます。案内、ありがとうございました。」


「じゃ、またねぇ。」




「……ああ。また、な。」



許せない。何度そう思ったことか。
私が救ってみせますと、一期一振に言った言葉が鳥居を潜る瞬間にフラッシュバックする。
そうだ。救わなければならない。だって私は黒本丸調査員なんだから。


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