旧友との再会
- 「じゃあ夕食は、美味いもの作ろうか」
俺の作るものはいっつも美味いけどなーと言うと、赤に叩かれた。
「持たなくていいってば」
「いいだろ、これくらいさせてくれよ」
夕闇の中、俺達は買った食材の取り合いになる。
夕食の為の買い出しに、金がついてきたせいだ。
「いいって。俺が行くって言ったんだし、これくらい持てるから」
昼間、金が男云々の話をしていたのを思い出し、そう言ってみた。
……最悪、こいつらには『男』として見られていない可能性がある。いや、性別の問題ではなく。
大人か子供か、という意味だろう。
「俺だって酒呑むしぃ……」
前も言ったと思うが、酒場では必ず止められる。まぁ、行きつけの店だから冗談混じりなんだけど。
ちなみに行きつけの店じゃないと本気で止められる。
「だから金、それ貸せって……あ!」
取り合いをしている紙袋から、林檎が1つ、転がり落ちた。
拾おうと小走りになる。ここは坂なのだ。
「林檎――」
もう泥だらけだろう、と思いながら走っていると、急に視界に影が差す。
何だろう――顔を上げると、鮮やかな夕日が目に染みた。
そして数瞬遅れて、林檎が差し出されているのに気付く。
「え……? あ、ありがとうございます」
「……レイシ」
「はっ?」
何で俺の名前を知っているんだろう。そう思う間もなく。
林檎を受け取ったままの体勢で俺は抱き寄せられた。
「何すん――って、ローランサン!?」
「久しぶり」
「レイ!」
至近距離でその顔を見て漸く知る。……そうか、ローランサン。
俺は腰を抱かれた状態のまま彼をまじまじと見ていたが、後ろで金の呼ぶ声がして、はっと我に返った。
「レイ……?」
「悪い、ローランサン……今日は連れが居るんだ。色んな話、聞きたいけど」
やんわりと腰に巻かれた手を外す。
「何でここに居るんだよ」
微笑を浮かべたままのローランサンに、どうしても聞きたかった事を聞いた。
「……ある目的の為に」
「ある目的……?」
小さく頷いて、それはまたの機会にでも、と言われる。
う……確かに、また今度とは言ったけどさぁ……
そこまで言われると気になる感じだ。ある目的?
あまり良さそうな感じには聞こえない。
「……じゃ、また」
「あぁ」
そう言って背を向けた彼の、大きくなった事。
――あの日――
忌まわしい事件が起こった、あの日から、随分変わったと思う。
……もう、十何年も経っているなら当然か。
「……レイ」
「ん? 何――」
呼ばれるまで、金の事をすっかり忘れていた。
ぐいと紙袋を押し付けられる。
「金……?」
何だか暗いと思ったら、いつの間にか、家への近道の路地に入り込んでいたみたいだ。
――人通りの少ない道。
しかし、俺はここで、何故か壁を背にして金に追い詰められている。
「何、して、」
「レイ、あいつとはどんな関係なんだ?」
「――え?」
金のいう『あいつ』がローランサンの事だと気付くまでに、少し時間がかかった。
「いや……でも、あいつは……そんなたいした関係じゃ……」
「随分親しげに話してたじゃないか。それに――」
……腰を抱かれたのは、ただの事故だ。
それに、あんたも――!
「何疑ってるのか知らないけど……今、金がやってるのも同じような事じゃないか。違うか?」
「それは……」
「ていうか、お前らが聞きたくないって言ったから言わなかったんだけど?」
「は?」
金が口を開いた瞬間、靴音が聞こえた。
「何やってんだ」
「赤……!」
紙袋を抱き抱え、俺は金から逃げる。
「テメェ……」
「いいよ、赤。戻ろう」
「レイ」
俺は赤の服の裾を掴むと、家へと促した。
……金の事を、悪いと言っているわけではない。確かに少し驚いたけど。
けれど俺は振り返らずに、そのまま家に入った。
11-1/12
(――俺は)
(何をしてるんだ……)
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