彼らにとっては死活問題
- 降りてきた2人のローランは、同時に俺の『新しい名前』を呼んだ。
「……なに」
2人が同時に呼んだのが、おかしかった。
申し合わせたみたいにぴったりだったので、実は謀ったのかと思ったが――そうでもないみたいだ。
俺の事を呼んだのに、あいつらは喧嘩をしてやがる。
「俺がレイに用があるんだよ」
「俺だってある」
何だか、可笑しかった。2人が争っているのが。
俺には下らない喧嘩に見えるのだが――彼らにしてみれば、そうでもないのだろうか。
堪え切れずにくすりと笑うと、何故だかじろりと睨まれた。
「何だよ」
「いや?」
朝食を作る手も止めて、俺は笑った。
何だよ、2人とも、相談して決めたんじゃないのか? どうしてそんな、いきなり喧嘩してるんだよ。
脳内で呟いた事だったが、俺が笑い続けているせいでバツが悪くなったのか、2人とも口をつぐんだ。
「面白いなぁ――俺、2人と一緒に住む事にして、よかったかも」
「はぁ!?」
「まだ決めるのは早いぞ、レイ」
赤が金を鋭い目で睨み付ける。
「やめろよ、ローラン! ……じゃなかった、赤」
「言い直す必要はねぇ」
どちらもローラン、だから呼びづらいのだ。
これが双子だったならどんなにマシだったか。
――双子は、顔は似ていても、名前は違うのだ。
「こいつが死んだら、もっと楽しくなるよなぁ? レイ」
「そんなわけ――」
どこから持ってきたのか、いつの間にか赤の手には剣が握られていた。
そんな――このままじゃ――
「俺の家が血の海になる!」
「……そこなのか?」
しかし、そう言う金も、たいした落ち着きようである。
「何でそんなに落ち着いてられるんだよ!」
「それは君もだろ、レイ。……俺は殺されはしないさ。こんな男には」
「はっ」
赤ローランが鼻で笑った。
「俺は、テメェなんかより長く戦場で生きてる。テメェなんかにやられる筈ねぇだろ」
「その驕りが身を滅ぼす事を知るが良い」
2人は剣を向け合う。……だから、2人とも、そんな物どこから持ってきたんだよって!
しかし、赤の方が戦場で長く生きているのは事実だし、金はそもそも片手だけなので不利だ。
少し逡巡した後、俺は赤の方に飛び付いた。
「!」
「ダメだって、ローラン!」
腰の辺りに抱き着き、俺は喚く。
「俺は、2人に喧嘩してほしくないから、一緒に住もうと思ったんだ……こんな事をさせる為じゃない!」
「レイ……」
「頼むから、剣をしまって!」
金の方も同時に睨み付けながら言うと、2人は渋々しまった。
そうだ……これでいい。もう、争い事なんて御免だ。
腕を解こうとした瞬間に、頭の上にふわりと柔らかく何かが載せられた。
「赤……?」
「……悪かったな、レイ」
「!」
撫でる事に慣れていないのが、その手つきで分かる。
それでも何とか謝罪を、謝る事にすら慣れていない彼が、そういう事をしようとしているのに、感動した。
ふっと涙腺が緩む。
「……うん」
もう喧嘩しないなら、と言った。
11-1/7
(――でも、それは無理な話だな)
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