職場選びの理由


「そういやレイ、お前何で酒場なんかで働いてんだ?」
「ん?」

 仕事が無いある日の夜の事、赤は唐突に俺に問う。

「そうだ。レイの容姿なら未成年に間違われたっておかしくないのに。わざわざ酒場で働かなくてもいいだろ」
「……お前らなぁ……」

 持ち上げたグラスを置き直す。

「酒が好きだから、に決まってるだろ?」
「……は?」
「え?」

 聞き返された。
 ので、俺も逆に聞き返す。

「酒が好きって……レイが?」
「そうだけど」

 それ以外に何かあるのか、と聞くと2人は顔を見合わせる。

「そういえば……俺が初めてこいつに絡まれた時、こいつは酔ってた」
「……て事は、絡み酒か? 面倒なタイプだな」
「聞こえてるぞそこぉ!」

 一気に煽った。
 あっ、とか声が聞こえる。

「残念だったな、俺は酒に強いんだよ!」
「いや別に、何も言ってないけど……」
「酒場で働いたら、客と付き合う分毎日ただで呑ませてくれるんだよ!」

 嬉しい。酒って安くはないし。
 そりゃあ暫く呑まなくても生きてはいけるが、この方が人生が潤っている気がする。
 だって、折角一度きりの人生なんだから、楽しまないと勿体ない。

「嗚呼、本当、ロレーヌの葡萄酒には惚れるな……」
「あいつ、もう酔ってないか?」
「……まぁ、少なくとも普段のテンションではないよな」
「早く寝かせた方がいいな」

 うっとりしながら呑む。
 嗚呼――葡萄園の様子を瞼の裏で想像する。
 彼女は、ロレーヌは何を思いながら育てたのだろう。

「俺も、葡萄園……」
「よし、レイ、寝るぞ。後片付けは任せた」
「あぁ」
「えぇっ、なになに!?」

 赤に手からグラスを奪い取られ、2階へと連れて行かれる。

「俺まだ呑めるよ!? ていうか呑むし!」
「お前は早く寝ろ」
「子供扱いすんなぁ!」

 掴まれていた腕を突然思い切り引かれ、ベッドに投げ出された。
 いつの間に覚えたんだろう、そういう技――狡い。
 受け止めてくれたスプリングの上で赤を睨み付ける。

「赤ぁ……」
「お前は酔うとろくな事にならん。……寝るまで一緒に居てやるから、さっさと寝ろ」
「……本当?」
「あぁ」

 手を握る。――寂しいわけでは、決してない。
 でも、こうしていれば安心する。撫でられる手がないのは少し残念だと思うが。
 だんだん瞼が落ちてくる。

「お休み――レイ」

 また明日、という優しい言葉に俺は完全に目を閉じた。












(暫く酒は買わないからな)
(えぇ、何でぇ!)
(そもそも働けば貰えんだろ)
(あっ、そっか! 赤頭いい!)
(……それも駄目)
(えーっ!)







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