決断の導く運命が、例え


 それが例えどちらかを切り捨てるものであっても、どちらも選ばないものであっても。
 俺にはそれを伝える義務がある。
 覚悟を決めて告げてくれた彼らの想いに応えなくては。
 ……それが、俺にできる事だと思うから。

「俺――」

 その時。
 突然、玄関の扉が開いた。

「え……ローランサン……?」

 そこに立っていたのはローランサンで、何故か手に黒い剣を握っている。
 誰かを――いや、今から?
 鮮やかなその漆黒を見て、俺は我に返った。

「ローランサン! 駄目だ!」
「……今更、遅い」

 ローランサンはゆっくりと赤に近付く。
 ――俺が足を踏み出した時には既に遅く。
 飛び散る紅の鮮血、放たれた漆黒の剣。
 妙に鮮やかなその色彩が、全てを一瞬で終わらせた。

「ああっ……!」
「! 赤!」
「……これで復讐は果たされた」

 崩れ落ちる赤に駆け寄るものの何故かローランサンに腕を引っ張られた。

「行こう、レイシ。こんな奴に関わる必要はない」
「やめろ……放せよ、ローランサン! 何でそんな事するんだよ!」

 力はローランサンの方が強い。
 いくら足掻いてみても、その拘束は振りほどけない。

「……忘れたわけないだろ? あの日の事」
「あの日って……?」
「俺達の村が襲われた日の事」

 ローランサンの瞳に再び憎しみが宿る。

「俺は、大切なものをこいつに奪われた」

 赤を見る。――大切なもの。
 それがローランサンにとっては何なのか、俺には分からない。

「……でも、漸く戻ってくる」
「え……?」
「お前だよ、レイシ」

 掴む手の力が強くなった。
 痛い、小さく悲鳴を上げてみるも、ローランサンには届いてはいないらしい。

「あの日まで、気付かなかったんだ。自分がこんなにレイシを大切だと思っていた事。だから――」
「だめだよ」

 狂気の色。共に行けば、多分死ぬまで共に居る事を強制されるだろう。
 ローランサンの事は嫌いじゃなかった……好きだった。
 でも、それは俺が悩み抜いて出した答えとは違う。

「ごめん、ローランサン……俺、一緒に行けそうにないや」

 例えここで殺されたとしても。
 共には行けないのだと言おう。
 俺は――

「レイ!」
「! 金!?」

 ぐい、と捕われていない方の腕を引かれる。
 ちぎれる――そう思った瞬間にその手は離れ、俺の背後から剣は凪がれた。
 ローランサンは俺の手を放しそれをかわす。

「金、」
「……お前に、何が分かる」

 憎しみのこもった瞳。向ける先には俺も含まれている気がした。
 嗚呼――大切な人に憎まれるのは、こうも辛い事なのか。
 金は俺を自身の後ろへと追いやった。

「レイは、そいつを!」
「……! うん!」
「レイシ!」

 ローランサンが俺を呼ぶ。

「レイシ……お前は、もう……」
「レイ!」

 遮るように金に呼ばれ、俺は我に返った。
 隙間からローランサンが見える。

「……ごめんなさい」

 ――これ以上、彼を見ていたら、情に負けてしまいそうで。
 折角決めた答えをまた見失ってしまいそうになる。
 無理矢理視線を外すと、俺は赤の傍らに膝をついた。

「赤……赤、大丈夫か? 聞こえる?」
「……あぁ」
「やられたのは……腕と目か?」

 浅い呼吸を繰り返す赤が、俺の問いにゆっくりと頷いた。
 ――あの短時間に、二カ所も。
 傷は随分深いようだった。

「……どうだ?」
「大丈夫じゃないみたい……金、ローランサンは?」
「行ったよ」

 それだけを言うと、金も俺の隣に来た。
 何か言っていたのだろうか……いや、何も言わなかったのだろう。

「金、医者、呼んできて」
「――分かった」

 腕はもう使い物にならないかもしれない。失明するかもしれない。
 けれど致命傷ではないのは、苦しみを味わわせたかったから?
 俺は、赤の無事な方の手を握り締めた。

「ごめん……ごめんね」

 そっと頭を撫でながら、泣く。
 それ以外に俺はどうしていいか分からなかった。








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