強制思考


 胃が痛む程悩んでる。
 あのタイミングで聞くなんて、俺も大概馬鹿だという事だろう。
 キリキリと痛む胃を押さえながら食べ残した朝食の事を想った。



 全部、嘘じゃない。
 酒場で運命的な再会をした事、一緒に住む事を承諾した事、呼び方を変えた事、当番でもめた事、買い物に行って旧友に出会った事――

 そこから、目に見える変化が始まった事。

 ローランサンのせいだと言いたいわけではない。
 ただ確実に、何かの引き金にはなったんじゃないかと思う。
 ぎこちない空気の中で距離を感じた事、仲直りした事、ベッドを買った事、今度は赤と気まずくなった事。
 仲直り、じゃない。関係は確かに悪化している。
 俺達は確かに、『友達』ではいられなくなっている。

 でも、待てよ。
 先に「一緒に住もう」と言ったのは俺ではないのか。
 傷を負った金ローランを、赤の代わりに助けてやりたいと思ったんじゃなかったか。
 前提の部分で既におかしい。俺は何でそんな風に思った?
 彼らの『ただの友達』ならば、そんな風に考える必要はなかった筈――



 ――分からない。

 俺が何を考えているのかさえ。
 1人で新たなベッドを独占しながら思うのは、1階の彼らが何を考えているのかという事。

 俺自身の答え……どうしよう?

 彼らのどちらかを選ばなくてはならないのか。
 いっそ、どちらも選ばないというのも手だ。
 答えを出さないで、逃げてしまおうか。
 口に出した以上、変わってしまうのは必然だ。
 何かをしようと思った時、何も変わらないなんて思うのは、驕りだ。
 2人は既に、それを覚悟している。



 ……俺は、変わらないでほしいと思っていたのかな?

 青空に向かって手をかざす。

 それとも、変わる事も仕方ないと思っていたのかな。

 その手をぎゅっと握った。

 彼らと一緒なら変わる事さえ恐れないと、そう思える?

 ゆっくりと手を下ろす。



 ――俺自身の気持ちに、漸く、気付けた。






「今更後悔なんてするなよ」
「……分かってる」

 金は唇を噛み締める。

「あいつは、変わる事を望んでないかもしれねぇ。でも、時は経つように、変化は必ず訪れる」

 椅子の背にもたれたまま、赤はゆっくりとそう言った。
 手を握ったり、開いたりしながら。
 金は周りの全てをシャットアウトするかのように手を組み、額を載せて、黙っていた。

「――もし、あいつが」

 沈黙の末、金が口を開く。

「どっちを選んだとしても、恨みっこなしだ」
「……当たり前だ」
「闇討ちとか、やめろよ」

 その言葉に赤は小さく笑った。

「その代わり、どっちも選ばなかったとしたら――」

 階段を下りる音。弾んだ音。
 上に居るのは1人しか居ないし、あの音を出せるのは彼だけだ。
 赤と金は一斉に階段の方を見る。

「赤、金! 俺――」

 崩れ落ちそうになりながら、転がるように階段を下りてくるレイシ。
 息を切らしながら言う。

「俺……分かったよ!」








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