核心に近づく
- 予定通り美味しい朝食をとり街へ行った俺達は、ベッドを買ってさっさと帰ってきてしまっていた。
「これ、予定通りって言わないんじゃ……?」
今まで寝室に置かれていたのはダブルベッド。
今回買ったのも、何故かダブルベッドだ。
本来ダブルベッドは2人が寝られるように作られているわけで、あとは1人用のシングルベッドを買えばいい筈だった。
「……随分大きな買い物だったな」
「ごめんって、レイ」
「別にいいけど」
――まぁ、店員と金の口車にのせられたのは、俺なわけだし。
買ったのは俺の金だし、別にいいけど?
「レイ、こんな奴はほっといて、上行こうぜ」
「寝室? 何で」
赤はにやりと笑みを見せて言った。
「ベッド。試してみたいだろ?」
……何を試すのかは、分からなかった。
いや、試す物はベッドなのだが、それをどう試すのかが分からない。
予想が付かなくもなかったが、しかし拒否できるような状況にはなかったので俺は無言で頷く。
「じゃあ行くか」
「ちょ……ちょっと、レイ!」
「テメェは来るな」
赤と金は争っていたが、先程の台詞の真意を考える俺の耳には届いていなかった。
ベッドを試すって、どういう意味だろう。
勿論新品だし、買う前に寝てみたから、スプリングの具合は良い筈だ。
先に進む赤の背中を見つめた。
「……なぁ」
「ん?」
赤は背を向けたまま呟く。
「もし、あいつや、俺が――」
「え? 何?」
聞こえない、と返して歩調を早める。
赤はその後少し黙ってしまったがその赤に俺は尚も問い続ける。
――結局、答えてはくれなかったのだが。
黙って腕を組んで立っている赤は放っておいて、俺はベッドに寝転がる。
「あー……やっぱ、いいな、新品のベッドは」
「……違うもんか? そんなに」
「そりゃそうだろ――って、赤はまだ寝てないんだっけ」
「あぁ」
だったら、と言って身体を少しずらした。
うん、やっぱりベッドは広い方がいい。1人でダブルベッドに寝ていた今までを思い出す。
「……赤?」
寝てみろよ、とぼふぼふと隣を叩いてみても、返事がない。
一体何をしているのだろう、そんなに俺と寝るのが嫌なのかと、頭を持ち上げた瞬間だった。
「……え?」
俺の上に、黒い影が覆いかぶさる。
びっくりして視線を戻すと、そこには赤が居て。
――つまり、見ようによっては、かなり誤解されかねない体勢というか。
分かってほしい。あまり説明したくないんだが。
「あ、あの……赤、何?」
ぐいと肩を押され、大人しくベッドの上に戻るしかなくなる。
何でだろう――目があまりにも、真剣だから。
非常事態だと警報が鳴っているのはどこか遠くで、俺は何も言えず見つめ返す事しかできなかった。
「――嫌か?」
「え?」
「俺や、あいつが――」
さっきの言葉の続きなんだと直感する。
でも――またもやその言葉は遮られた。
「赤! お前何してんだ!」
「金!」
「……来やがったのか」
金が名前を呼び、赤が憎々しげに吐き捨てたのと同時に、俺は解放された。
ふらりと金の方に寄っていく。
「大丈夫か? レイ。何もされてないか?」
「うん……平気」
こくりと頷くと、金は俺を抱き寄せた。
「行こう」
「……うん」
「お前は暫く下に戻ってくるなよ!」
分かってる、みたいな苛立ちの混じった声が答えて、俺の背後で扉が閉まった。
……何か、また、彼らとの距離が開いてしまった気がする。
この間は金に迫られて、今日は赤にもされて。
――何でだろう。どうして。
「……なぁ」
「ん?」
「お前や赤は、俺の事どう思ってるの?」
床が軋んで、金は足を止めた。
それは俺が止まったからだった。
変な事を聞いてしまったからだった。
赤があいつも、と言うという事は、多分金も知っているのだろうと思う。
「……それは、」
「言えないような事なのか?」
金の瞳が揺らぐ。
「そうじゃない。でも……」
言いにくそうに躊躇った後、金は結局、また口を開いた。
「……それは、ここじゃ言えない」
「どうして」
「あいつが居ないから」
あいつ、とは言わずもがな赤の事だろう。
……案外、似た者同士なのかもしれない。彼らは。
俺だけが知らないでいるのかもしれない。
「……分かった」
「少し、寝たらどうだ? きっと買い物に行って疲れてるんだ。……ソファーで良ければ、だけど」
「――うん」
金に言われ、素直にソファーに横になった。
金が傍に寄ってきて俺の頭を撫でてくれる。
――離れてほしくない、と思った時に俺は、彼の服の裾を掴んでいた。
「レイ……?」
俺は金の事も、赤の事も、何も知らないんだと思った。
ただの幼馴染みの事で怒った事、ベッドの上で襲われかけた事、全てを総合してみても。
多分、そういう風に思われている。
そんな事を思っていたなんて知らず、俺は。
「――お休み」
疲労に身を任せ、重たい瞼をゆっくりと閉じた。
11-2/2
(――俺に)
(一緒に住む資格なんてあるのか?)
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